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Marginal Prince Short Story
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■細か過ぎて伝わらない森番
先日ご入学されたシルヴァン様は、
よく夜間に外出され、朝にお帰りになる。
その為か、日中は森で寝顔を拝見することも多い。

警備組織司令官のアイヴィー様曰く、シルヴァン様のご宿泊先は、
アイヴィー様のご自宅だそうなので心配は要らないだろう。

シルヴァン様はお優しい方だ。
先日、森でお見かけした時、シルヴァン様は、
シエスタする場所を探しておいでのようだった。

ある木の下へ腰を下ろそうとされた時、
根元のほうにある、何かを見て、微笑まれると、
その場所を止めて、もっと森の奥へ向かわれた。

一体、何をご覧になったのだろうと思い、
私はその木を見に行った。
すると、そこには、リスのメイプルが居たのだ。

幹のくぼみの中で、カリカリと木の実を齧っている。
シルヴァン様はメイプルに場所を譲って下さったのだ。

「お優しい方で良かったですね、メイプル」

何事にも動じない性格の彼女は、
私と目が合ったあとも、懸命に木の実を齧っていた。

そんなお優しいシルヴァン様と、
今日、初めてお話しをさせて頂く機会があった。

今朝、私が月桂樹の剪定をしている時、
丁度、朝早くお帰りになったシルヴァン様と、
森の中で鉢合わせてしまったのだ。

新入生の顔と名前は、学院の全職員に知らされるので、
森番である私も、シルヴァン様のことはご入学前から存じ上げていたが、
シルヴァン様と直接お話しするのは、今日が初めてだった。

シルヴァン様が、私の顔を見たのは、この時が初めてだったのだろう。
作業着である、灰色のツナギを着ていた私を見て、
シルヴァン様は、長い髪を右に傾けた。

「あ、えーと。学院の職員さん、ですか?」

通常、生徒様には自分は森番だと名乗るようにしている。
だが、シルヴァン様には、より正確に自分の立場をお伝えすることにした。

「はい。私は森番のバロウズと申します。
この森で月桂樹を始めとした、動植物の管理を担当させて頂いております。
学院に所属する職員の一人としてお世話になっておりますが、
同時に、警備組織のお手伝いもさせて頂いており、
学院内のパトロールを仰せつかっております」

「じゃあ、アイヴィーの」

「はい。私はアイヴィー様の部下にあたります」

アイヴィー様は自分がドライバー兼警備担当であることを、
シルヴァン様には自らお話しになったという。
だから私も、警備のお手伝いをさせて頂いていることを明かした。

私がアイヴィー様の関係者だと知ったシルヴァン様は、
安心されたご様子で、私を改めてご覧になった。

「成程、森番さんも警備の関係者とは。
本当に予想以上のセキュリティですね、この島は」

シルヴァン様は私に手を差し出した。

「ご挨拶が遅れましたが、新入生のシルヴァン・クラークです。
すみません。僕、これから何かと、
皆さんのお世話になっちゃうかもしれませんが、
どうぞよろしくお願いしますね」

「これはご丁寧に。こちらこそよろしくお願い致します」

手を差し出した時に、私の腕時計が袖口から覗く。
時間がないことに気が付いた。

「あっ、お引き止めして申し訳ございません、
シルヴァン様。早く寮へお戻り下さい。
間も無く、クラウス様がここをお通りになられます」

「えっ?」

「クラウス様は早朝ランニングを日課とされております。
そろそろ、お戻りになる時刻でございますので」

しかし、シルヴァン様はその場から動かない。
美しい菫色の目をパチパチと瞬かせながら、
何故か、不思議そうに私をご覧になっていた。
私はクラウス様のお姿がないか、後方を確認しながら、

「シルヴァン様?」

「僕を、見逃してくれるんですか? クラウスに報告せずに?」

「はい。さあ、お早く、寮に」

シルヴァン様はパッと私の両手をおとりになると、
強く握り締め、縦に二回振った。

「ありがとうございます! それじゃ、僕、戻りますね!」

本当にありがとうございますー、と手を振りながら、
ウーティス寮へ駆けていかれた。
背に下ろされた長い髪を軽やかに跳ねさせながら。

その後ろ姿を見ながら、ふと思う。
今、私がしたことはクラウス様への裏切り行為だろうかと。

今年の生徒代表クラウス様の教育方針に従うなら、
私からも僭越ながら、「朝帰りはお控え下さい」と、
一言でもご注意申し上げるべきだったのではないか、
そう思った時だった。

「また朝帰りしてたのか、あいつ」

振り向くと、そこには黒のトレーニングウェア姿のクラウス様が居た。
腰に手を置き、眉間に皺を寄せている。
私はとっさに謝った。

「申し訳ございません、クラウス様」

「何故、バロウズが謝る?」

「あの、シルヴァン様にご注意することもなく、
寮にお帰ししてしまいましたので……」

「バロウズは、それで構わない」

「えっ?」

「但し、俺が見つけた時は、反射的に叱り付けるだろうがな」

そう仰って、クラウス様はシュヌーシア寮へ向かわれた。

クラウス様は、厳しくも、お優しい。
今年の生徒代表がクラウス様で本当に良かった。


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