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■ダーク
■シルヴァン×ジョシュア×アンリ
■アンリと体育館の用具室で 続編
ウーティス寮サロン。
森でシエスタをしていたシルヴァンが戻って来た。
ハルヤは読んでいた本を閉じる。
「おかえり、シルヴァン。お昼寝終わったんだ?」
シルヴァンはサロンを見回していた。
「ええ、まあ」
少し不自然な笑顔で、ハルヤの隣に座る。
「ハルヤ、お一人ですか。他の皆さんは?」
「レッドはワークアウトって言ってたからジムじゃないかな。
ジョシュアとアンリは聞いてないけど、
二人で居なくなったから、たぶんフェンシング」
時々、二人が生乾きの髪に疲労の表情で寮に戻ってくることがあった。
そういう時は『フェンシングをしていた』と言われるので、
今日もそうなのだろうとハルヤは思った。
シルヴァンの顔は冴えない。
「そう、ですか」
「さっきはテオが居たんだよ。あ、シルヴァンは十五夜って知ってる?」
「ええ。そう言えば、もうすぐ中秋の名月ですね」
「うん。さっき、テオが来てさ、そんな話してたんだ」
シルヴァンはテオよりずっと日本の知識が多い。
ハルヤにとってシルヴァンはとても話し易い人だった。
日本人が居ないこの寮で、彼と日本の話をするのは楽しかった。
「そしたらさ、テオがね、シュヌーシアとウーティスでお月見するって。
イベント好きだよね、テオって」
「楽しみですね、お月見」
「うん。月見団子はね、ドニに作って貰うって。美味しいといいなあ」
「ハルヤは月より団子、ですね」
ハルヤは少し頬を染める。
「やだ。それじゃあ、俺が食いしん坊みたいじゃん」
「違うんですか?」
「違わないかもしんないけど…」
シャワー上がりの匂いがして、ハルヤはドアの方を見た。
まだ乾き切っていない髪が見える。
あ、おかえり、ジョシュア、アンリ」
サロンの前を通った二人にハルヤが声を掛ける。
ジョシュアは笑顔を見せた。
「ただいま、ハルヤ、シルヴァン」
「僕、部屋に戻るから」
サロンから離れようとするアンリをジョシュアが呼び止める。
「アンリ、何か飲み物を持って行こうか?」
「要らない。もう付いて来ないで」
いつにも増して冷たい言葉。
レッドに対してなら珍しいことではないけれど。
ハルヤは不思議に思い、ジョシュアに尋ねた。
「アンリと喧嘩でもしたの?」
「いや、大丈夫だよ。ちょっと拗ねているだけだから」
「…アンリって、拗ねるの?」
「うん。最近、フェンシングで俺ばっかり勝つからかな」
「負けたから怒ってるの? アンリってそんな子供っぽいとこもあるんだ」
ハルヤがくすくすと笑う。黙っていたシルヴァンが口を開いた。
「ジョシュア、僕に時間をくれませんか? 話したいことがあるんです」
シルヴァンの部屋に連れて行った。
この部屋は物が多かった。
ギターやCD、マンガ、DVD、ぬいぐるみなど自慢のコレクションが並んでいる。
訪れる度に物が増えていくようだが、
それら趣味の類は綺麗にディスプレイされ、散らかった印象は受けなかった。
クリアケースには食玩で集めたらしい、
うさぎ怪獣の小型フィギュアがずらりと飾られていた。
「話ってなんだい?」
「ジョシュア。あの、今までどちらに?」
「体育館だよ? フェンシング専用のね」
「寮に戻るまでずっと、ですか?」
「そうだけど?」
シルヴァンは口をきゅっと結ぶ。自分の腕を抱いた。
「すみません。意地悪な質問をしました。
実は、さっきテオに会ったんです」
「テオに…」
ジョシュアの瞳は瞬いた。明らかな動揺。
悲しいくらい、嘘を吐くことに向いていない人だ。
「テオは貴方達を探していて…『体育館には居なかった』と言っていました。
『ずっと体育館に居た』という貴方の言葉と食い違います」
「じゃ、きっとシャワールームに居た時だったんだと思うよ」
「その可能性もありますね。貴方の髪、まだ乾いていないようですし」
右腕を伸ばして、ジョシュアの後ろ髪に指を通す。
表面は乾いているが、奥はまだしっとりと濡れていた。
うなじの辺りを指でなぞられて、ジョシュアは身を硬くした。
「貴方に嘘は似合いませんよ、ジョシュア」
ジョシュアは反論してこない。
上手い言い訳も思い付くことができない誠実な人。
僕に比べれば、悪いことにちっとも慣れていない。
もっと納得のいく言い訳を言って欲しかった。
だけど、そんなに嘘の上手い人なら、
これほど焦がれることもなかった。
気が付いた時には、誠実で真っ直ぐな貴方に惹かれていた。
だが既に、貴方の傍にはあの子が居た。
貴方には似ても似つかない、貴方よりひとつ下の子。
ジョシュアとは3年も同じ時間を過ごしている。
貴方と僕は1年。たった2年。その深い溝がどうしても埋められない。
あと2年、早く貴方と会えていたら、僕は貴方を奪えましたか?
自分で肯定できる自信は、なかった。
「テオが来た時、体育館の何処で何をしていたんです?」
答えて欲しくないのに聞いている自分が可笑しい。
ジョシュアは眼を伏せていた。嘘も真実も言えないらしい。
答えられないこと、それ自体が白状しているようなものだ。
それに、後ろの首筋。
其処に残るまだ新しい痕に、貴方は気付いていないらしい。
貴方達がフェンシングと称して、二人で消える時。
誰も来ない体育館で何をしているか。
それに気付いているのは、この寮で僕だけだ。
注視していれば誰でも解る筈なのに。態度も表情も違う。
貴方の瞳には、いつもあの子が映っている。
他の誰とも違う、優しい瞳であの子だけを見つめている。
「教えてくれないんですね。じゃ、貴方の身体に聞いてみましょうか」
うなじに置いていた腕に力を込めて、強く引き寄せる。
目の前にあった白い耳たぶに唇で触れる。
先刻の熱が甦るのか、びくりと肩が震えて、僕の首許に熱い息が吐かれた。
「触れただけなのに、感度が良いですね。貴方への疑いが強まりますよ」
「シルヴァン…」
「僕の気持ち、知っていますよね?」
「…すまない。でも俺は」
「聞きたく、ないです」
続く名前を唇で塞いだ。
一瞬重なっただけで、ジョシュアは僕の胸を押して、距離を取った。
深紅の瞳が怯えている。拒否しか映していない眼差しで見上げられた。
「どうして…あの子には許すことを、僕には許してくれないんです?」
「俺は…俺は、アンリだけだから。ごめん」
真摯な人だ。
思わずシルヴァンは笑ってしまった。
「全く。貴方と言う人は。僕が入る隙間もないんですね?」
「…ごめん」
何の非もないのに、貴方は心から謝る。
これほどジョシュアに一途に想われる。
それはどんな気持ちなのだろう。僕には解らない。
あの子の何処が良いのだろう。僕の知らない2年間に何があったのだろう。
僕の方が貴方を大切に想っている。それだけなら誰にも負けないのに。
いつも貴方を、貴方だけを見てきた。
次に貴方が言う台詞だって解る。
長い寮生活の中で身に付けたであろう言葉。
混乱や争いを沈静化する為に、また友人として向き合えるように。
貴方はこうやって、誰の罪も許してきた。
「この話はこれで終わりにしよう? シルヴァン」
貴方が差し出す手。仲直りの合図だろう。
悪いのは僕なのに。
貴方はそれでも僕を許そうとする。
そんな貴方だから。
誰より貴方に焦がれた。
この手を繋げば、次の瞬間から貴方は僕を許す。
いつもの温かい笑顔で、これからも僕の名を呼んでくれる。
再び同じ学年の生徒として、僕を見てくれる。
同じ寮の友人として、僕を見てくれる。
友人の一人でいい。
そう願っていたのは、一体いつまでだっただろう。
貴方があの子の名前を呼ぶことも、
貴方があの子を見つめることさえも、苦しくて堪らない。
その深紅の瞳に、僕は映っていない。
僕はもう引き返せないところまで来ていた。
貴方のことを、狂おしい程に――
「いいえ。謝るのは僕の方です。ごめんなさい、ジョシュア」
「ううん。君が悪いんじゃないよ。俺のせいだ。本当にごめん」
「ごめんなさい……僕は、それでも、貴方が欲しいんです」
差し出された手を、僕は強く引いた。
力の加減ができない。
白い手首が赤く鬱血していく。
ジョシュアは腕を自分の方へと引き戻そうとしている。
「シルヴァン…」
「力で、僕に敵うと思ってるんですか?」
ベッドに叩き付けて組み敷く。
スプリングが軋んで、鈍い音が鳴る。
深紅の瞳が僕に恐怖している。
もう貴方の友人には戻れない。
「貴方がアンリにしたこと、僕にも許して下さい」
貴方の美しい顔に近付く。
ゆっくりと縮まる距離。
僕の長い横髪が貴方の頬を撫でた。
微笑んで、僕は伝える。
「愛しています、ジョシュア」
ああ…やっと。
貴方の瞳に、僕だけが映った。
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■シルヴァン×ジョシュア×アンリ
■アンリと体育館の用具室で 続編
ウーティス寮サロン。
森でシエスタをしていたシルヴァンが戻って来た。
ハルヤは読んでいた本を閉じる。
「おかえり、シルヴァン。お昼寝終わったんだ?」
シルヴァンはサロンを見回していた。
「ええ、まあ」
少し不自然な笑顔で、ハルヤの隣に座る。
「ハルヤ、お一人ですか。他の皆さんは?」
「レッドはワークアウトって言ってたからジムじゃないかな。
ジョシュアとアンリは聞いてないけど、
二人で居なくなったから、たぶんフェンシング」
時々、二人が生乾きの髪に疲労の表情で寮に戻ってくることがあった。
そういう時は『フェンシングをしていた』と言われるので、
今日もそうなのだろうとハルヤは思った。
シルヴァンの顔は冴えない。
「そう、ですか」
「さっきはテオが居たんだよ。あ、シルヴァンは十五夜って知ってる?」
「ええ。そう言えば、もうすぐ中秋の名月ですね」
「うん。さっき、テオが来てさ、そんな話してたんだ」
シルヴァンはテオよりずっと日本の知識が多い。
ハルヤにとってシルヴァンはとても話し易い人だった。
日本人が居ないこの寮で、彼と日本の話をするのは楽しかった。
「そしたらさ、テオがね、シュヌーシアとウーティスでお月見するって。
イベント好きだよね、テオって」
「楽しみですね、お月見」
「うん。月見団子はね、ドニに作って貰うって。美味しいといいなあ」
「ハルヤは月より団子、ですね」
ハルヤは少し頬を染める。
「やだ。それじゃあ、俺が食いしん坊みたいじゃん」
「違うんですか?」
「違わないかもしんないけど…」
シャワー上がりの匂いがして、ハルヤはドアの方を見た。
まだ乾き切っていない髪が見える。
あ、おかえり、ジョシュア、アンリ」
サロンの前を通った二人にハルヤが声を掛ける。
ジョシュアは笑顔を見せた。
「ただいま、ハルヤ、シルヴァン」
「僕、部屋に戻るから」
サロンから離れようとするアンリをジョシュアが呼び止める。
「アンリ、何か飲み物を持って行こうか?」
「要らない。もう付いて来ないで」
いつにも増して冷たい言葉。
レッドに対してなら珍しいことではないけれど。
ハルヤは不思議に思い、ジョシュアに尋ねた。
「アンリと喧嘩でもしたの?」
「いや、大丈夫だよ。ちょっと拗ねているだけだから」
「…アンリって、拗ねるの?」
「うん。最近、フェンシングで俺ばっかり勝つからかな」
「負けたから怒ってるの? アンリってそんな子供っぽいとこもあるんだ」
ハルヤがくすくすと笑う。黙っていたシルヴァンが口を開いた。
「ジョシュア、僕に時間をくれませんか? 話したいことがあるんです」
シルヴァンの部屋に連れて行った。
この部屋は物が多かった。
ギターやCD、マンガ、DVD、ぬいぐるみなど自慢のコレクションが並んでいる。
訪れる度に物が増えていくようだが、
それら趣味の類は綺麗にディスプレイされ、散らかった印象は受けなかった。
クリアケースには食玩で集めたらしい、
うさぎ怪獣の小型フィギュアがずらりと飾られていた。
「話ってなんだい?」
「ジョシュア。あの、今までどちらに?」
「体育館だよ? フェンシング専用のね」
「寮に戻るまでずっと、ですか?」
「そうだけど?」
シルヴァンは口をきゅっと結ぶ。自分の腕を抱いた。
「すみません。意地悪な質問をしました。
実は、さっきテオに会ったんです」
「テオに…」
ジョシュアの瞳は瞬いた。明らかな動揺。
悲しいくらい、嘘を吐くことに向いていない人だ。
「テオは貴方達を探していて…『体育館には居なかった』と言っていました。
『ずっと体育館に居た』という貴方の言葉と食い違います」
「じゃ、きっとシャワールームに居た時だったんだと思うよ」
「その可能性もありますね。貴方の髪、まだ乾いていないようですし」
右腕を伸ばして、ジョシュアの後ろ髪に指を通す。
表面は乾いているが、奥はまだしっとりと濡れていた。
うなじの辺りを指でなぞられて、ジョシュアは身を硬くした。
「貴方に嘘は似合いませんよ、ジョシュア」
ジョシュアは反論してこない。
上手い言い訳も思い付くことができない誠実な人。
僕に比べれば、悪いことにちっとも慣れていない。
もっと納得のいく言い訳を言って欲しかった。
だけど、そんなに嘘の上手い人なら、
これほど焦がれることもなかった。
気が付いた時には、誠実で真っ直ぐな貴方に惹かれていた。
だが既に、貴方の傍にはあの子が居た。
貴方には似ても似つかない、貴方よりひとつ下の子。
ジョシュアとは3年も同じ時間を過ごしている。
貴方と僕は1年。たった2年。その深い溝がどうしても埋められない。
あと2年、早く貴方と会えていたら、僕は貴方を奪えましたか?
自分で肯定できる自信は、なかった。
「テオが来た時、体育館の何処で何をしていたんです?」
答えて欲しくないのに聞いている自分が可笑しい。
ジョシュアは眼を伏せていた。嘘も真実も言えないらしい。
答えられないこと、それ自体が白状しているようなものだ。
それに、後ろの首筋。
其処に残るまだ新しい痕に、貴方は気付いていないらしい。
貴方達がフェンシングと称して、二人で消える時。
誰も来ない体育館で何をしているか。
それに気付いているのは、この寮で僕だけだ。
注視していれば誰でも解る筈なのに。態度も表情も違う。
貴方の瞳には、いつもあの子が映っている。
他の誰とも違う、優しい瞳であの子だけを見つめている。
「教えてくれないんですね。じゃ、貴方の身体に聞いてみましょうか」
うなじに置いていた腕に力を込めて、強く引き寄せる。
目の前にあった白い耳たぶに唇で触れる。
先刻の熱が甦るのか、びくりと肩が震えて、僕の首許に熱い息が吐かれた。
「触れただけなのに、感度が良いですね。貴方への疑いが強まりますよ」
「シルヴァン…」
「僕の気持ち、知っていますよね?」
「…すまない。でも俺は」
「聞きたく、ないです」
続く名前を唇で塞いだ。
一瞬重なっただけで、ジョシュアは僕の胸を押して、距離を取った。
深紅の瞳が怯えている。拒否しか映していない眼差しで見上げられた。
「どうして…あの子には許すことを、僕には許してくれないんです?」
「俺は…俺は、アンリだけだから。ごめん」
真摯な人だ。
思わずシルヴァンは笑ってしまった。
「全く。貴方と言う人は。僕が入る隙間もないんですね?」
「…ごめん」
何の非もないのに、貴方は心から謝る。
これほどジョシュアに一途に想われる。
それはどんな気持ちなのだろう。僕には解らない。
あの子の何処が良いのだろう。僕の知らない2年間に何があったのだろう。
僕の方が貴方を大切に想っている。それだけなら誰にも負けないのに。
いつも貴方を、貴方だけを見てきた。
次に貴方が言う台詞だって解る。
長い寮生活の中で身に付けたであろう言葉。
混乱や争いを沈静化する為に、また友人として向き合えるように。
貴方はこうやって、誰の罪も許してきた。
「この話はこれで終わりにしよう? シルヴァン」
貴方が差し出す手。仲直りの合図だろう。
悪いのは僕なのに。
貴方はそれでも僕を許そうとする。
そんな貴方だから。
誰より貴方に焦がれた。
この手を繋げば、次の瞬間から貴方は僕を許す。
いつもの温かい笑顔で、これからも僕の名を呼んでくれる。
再び同じ学年の生徒として、僕を見てくれる。
同じ寮の友人として、僕を見てくれる。
友人の一人でいい。
そう願っていたのは、一体いつまでだっただろう。
貴方があの子の名前を呼ぶことも、
貴方があの子を見つめることさえも、苦しくて堪らない。
その深紅の瞳に、僕は映っていない。
僕はもう引き返せないところまで来ていた。
貴方のことを、狂おしい程に――
「いいえ。謝るのは僕の方です。ごめんなさい、ジョシュア」
「ううん。君が悪いんじゃないよ。俺のせいだ。本当にごめん」
「ごめんなさい……僕は、それでも、貴方が欲しいんです」
差し出された手を、僕は強く引いた。
力の加減ができない。
白い手首が赤く鬱血していく。
ジョシュアは腕を自分の方へと引き戻そうとしている。
「シルヴァン…」
「力で、僕に敵うと思ってるんですか?」
ベッドに叩き付けて組み敷く。
スプリングが軋んで、鈍い音が鳴る。
深紅の瞳が僕に恐怖している。
もう貴方の友人には戻れない。
「貴方がアンリにしたこと、僕にも許して下さい」
貴方の美しい顔に近付く。
ゆっくりと縮まる距離。
僕の長い横髪が貴方の頬を撫でた。
微笑んで、僕は伝える。
「愛しています、ジョシュア」
ああ…やっと。
貴方の瞳に、僕だけが映った。
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