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■オーギュスト×アンリ
ウーティス寮の内外から音は聞こえない。
まだ夜は深く、鳥も眠っている時間だった。
アンリの部屋も照明は落ちている。
通常は綺麗に片付いているのだが、この時は昨夜の痕が残っていた。
譜面立てには立て掛けたままのショパン。
その足許に閉じていないバイオリンケース。
ベッドの上ではアンリが眠っている。上等な毛布の中にはもうひとり。
神秘学の講師は起きていた。
横たわったまま、頬を片手で支えている。視線の先には教え子の寝顔。
彼の眼差しは我が子へのそれに似ていた。
琥珀の瞳が薄く開く。オーギュストの顔が映る。
暫くぼうっと見ていた。視線が絡むと、生徒は目を逸らした。
毛布を少し引き寄せて背を向ける。
講師の声は低く、教室で聞くよりずっと小さい。
「寒いのかな?」
「眠いだけ」
そう言うと生徒は壁を見詰めていた。意識も身体もまだ重い。
講師は華奢な背から視線を天井に移す。
チクタクと秒針が夜を奏でている。
「オーギュ」
「ん。何だね」
教え子の髪に触れる。上からゆっくりと撫でた。
生徒は息を吸い、僅かに口を開く。
その時、カチリと分針が傾いた。
口内の隙間は鎖された。白い手は毛布を軽く握っている。
背を向けたまま呟く。
「何でもない。僕、眠るから」
「うん。解ったよ」
講師は髪から手を離す。
琥珀の瞳は開いたまま。毛布に視線を落としていた。
講師も生徒に背を向ける。
部屋の中は仄暗いが、其処に何があるのかは解る。
机の上には占いの形で残っているタロットカード。昨夜のままだ。
そのうちの一枚が目に入る。刻まれたローマ数字は18。
「La Lune. 月は満ち欠けるもの」
大人の声に、琥珀の瞳が僅かに揺れた。
毛布を掴んでいた力が緩くなる。
細い指で自分の唇をなぞる。ひやりと冷たい。
指に口付けたまま、瞳を閉じた。
fin
ウーティス寮の内外から音は聞こえない。
まだ夜は深く、鳥も眠っている時間だった。
アンリの部屋も照明は落ちている。
通常は綺麗に片付いているのだが、この時は昨夜の痕が残っていた。
譜面立てには立て掛けたままのショパン。
その足許に閉じていないバイオリンケース。
ベッドの上ではアンリが眠っている。上等な毛布の中にはもうひとり。
神秘学の講師は起きていた。
横たわったまま、頬を片手で支えている。視線の先には教え子の寝顔。
彼の眼差しは我が子へのそれに似ていた。
琥珀の瞳が薄く開く。オーギュストの顔が映る。
暫くぼうっと見ていた。視線が絡むと、生徒は目を逸らした。
毛布を少し引き寄せて背を向ける。
講師の声は低く、教室で聞くよりずっと小さい。
「寒いのかな?」
「眠いだけ」
そう言うと生徒は壁を見詰めていた。意識も身体もまだ重い。
講師は華奢な背から視線を天井に移す。
チクタクと秒針が夜を奏でている。
「オーギュ」
「ん。何だね」
教え子の髪に触れる。上からゆっくりと撫でた。
生徒は息を吸い、僅かに口を開く。
その時、カチリと分針が傾いた。
口内の隙間は鎖された。白い手は毛布を軽く握っている。
背を向けたまま呟く。
「何でもない。僕、眠るから」
「うん。解ったよ」
講師は髪から手を離す。
琥珀の瞳は開いたまま。毛布に視線を落としていた。
講師も生徒に背を向ける。
部屋の中は仄暗いが、其処に何があるのかは解る。
机の上には占いの形で残っているタロットカード。昨夜のままだ。
そのうちの一枚が目に入る。刻まれたローマ数字は18。
「La Lune. 月は満ち欠けるもの」
大人の声に、琥珀の瞳が僅かに揺れた。
毛布を掴んでいた力が緩くなる。
細い指で自分の唇をなぞる。ひやりと冷たい。
指に口付けたまま、瞳を閉じた。
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