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■春臣×春也
■シリアス。幼少期。
--------------------------
今日は日舞の稽古がある。
じい様の家に春也が来ていた。
春也が滞在時に自由に使えるようにと宛がわれている客室。
その部屋に春臣が入る。
腹違いの弟は、本を読んでいた。
畳の上で、うつぶせに寝そべっている。
小さな顔を両手で支え、細い足は機嫌良く、揺れていた。
鼻歌が、最近練習している日舞の曲なのが可笑しい。
兄が入ってきたことに気付いた様子はない。
春臣は、弟の背中に頭を置いてみた。
「うわあっ、なっ、なに?」
「落ち着けよ、春也」
「…にいさま? なに、してるの?」
「春也の背中、枕にしてるの」
「…ぼく、まくら?」
「思ったよりいいや。高さも、くぼみも丁度良いし、俺、寝ちゃうかも」
「え、だめだよっ! ぼく、動けなくなっちゃう!」
「騒ぐなよ。春也が動くと、俺の頭まで揺れる」
「にいさまあ…」
退く気配が無い兄。
背を押さえ付けられては動けず、兄を振り落とすことも出来無い。
為す術がないと判断したらしい弟は、再び本を読み始めた。
春臣は何を読むわけでもなく、天井を見ていた。
心地の良い静寂。
聞こえるのは、古時計が時を刻む音と、庭でさえずる鳥の声。
それから、時折、弟が頁を繰る音くらいだ。
目を閉じると、自分の頭が、ゆっくりと上下するのを感じた。
「春也、息してる。今、背中ちょっと動いた」
「えっ」
「あ。今、息してない。息しろ、春也」
「にいさまが、ヘンなこと言うからっ!」
春臣が笑い出すと、春也もつられて笑う。
「おい、春也まで笑うなよ。俺も揺れるだろ」
「じゃあ、にいさま、ぼくに乗らなければいいじゃん」
「やだねっ。春也の枕、すげー気持ちいいもん」
春也との時間はこんなに楽しいのに。
こんな風に、春也と過ごせる時間は、もう残り少ないらしい。
大人達が噂しているのを聞いてしまった。
最近、じい様の具合が良くない。
じい様に万が一のことがあれば、
梅ヶ枝の姓を持たない春也は、この家に入れなくなる。
そう、大人達が言っていた。
家元が父様になれば、次期家元争いに名が上がるのは、俺と春也だ。
俺達の意思に関係なく、周囲が騒ぎ出すらしい。
そうなれば、俺は、春也の傍には居られなくなる。
春臣は、天井を見ながら、温かい枕に問う。
「なあ。春也は踊りの稽古、好き?」
「んー。父様に怒られるのは、いやだけど…やっぱ、すき」
「どうして?」
「にいさまと一緒だから」
弟の即答に、兄は返事が遅れる。
「そう、か」
「にいさまは、きらいなの? おどり」
「俺、春也の踊りは好きだ。自由で楽しそうに踊るから」
「えっ、ほんと、にいさまっ!?」
「うん」
「うれしい」
春也の背中が、くくっと揺れる。笑っているのだろう。
「ぼくもね、にいさまのおどり、すきだよ?
だって、おどってるにいさま、カッコイイもん」
俺は、いつまで、格好良く舞えるだろう。
いつか、自由に踊れなくなるかもしれないけど。
春也には、今のままで居て欲しいから。
お前が、好きな時に好きなだけ踊れるように。
俺が春也を守るから。
汚い大人達に春也を渡すもんか。
俺が全部引き受ける。
姓が違っても。
どんなに、遠く離れても。
「春也」
「うん」
「忘れるな。この先、何があっても」
「ん?」
「お前は、俺の弟だから」
春也は、くすくすと笑う。
「おかしな、にいさま。そんなの当たり前じゃん」
春也が笑うので、春臣の頭も揺れて、笑いが移る。
そうだよ。
俺達、何があっても、兄弟で居られるよな。
「よっ、と」
春臣が立ち上がり、弟は背中が軽くなる。
「にいさま?」
兄は戸口まで進んでいる。
「そろそろ稽古の時間だ、先行くぞ」
弟は、慌てて起き上がり、とててと走ってくる。
「ぼくもいくっ」
兄は笑いながら先へ進む。
「置いてく」
「まって、にいさまっ」
弟に手を捕まえられる。
兄はその手を離さず歩き出した。
fin
■シリアス。幼少期。
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今日は日舞の稽古がある。
じい様の家に春也が来ていた。
春也が滞在時に自由に使えるようにと宛がわれている客室。
その部屋に春臣が入る。
腹違いの弟は、本を読んでいた。
畳の上で、うつぶせに寝そべっている。
小さな顔を両手で支え、細い足は機嫌良く、揺れていた。
鼻歌が、最近練習している日舞の曲なのが可笑しい。
兄が入ってきたことに気付いた様子はない。
春臣は、弟の背中に頭を置いてみた。
「うわあっ、なっ、なに?」
「落ち着けよ、春也」
「…にいさま? なに、してるの?」
「春也の背中、枕にしてるの」
「…ぼく、まくら?」
「思ったよりいいや。高さも、くぼみも丁度良いし、俺、寝ちゃうかも」
「え、だめだよっ! ぼく、動けなくなっちゃう!」
「騒ぐなよ。春也が動くと、俺の頭まで揺れる」
「にいさまあ…」
退く気配が無い兄。
背を押さえ付けられては動けず、兄を振り落とすことも出来無い。
為す術がないと判断したらしい弟は、再び本を読み始めた。
春臣は何を読むわけでもなく、天井を見ていた。
心地の良い静寂。
聞こえるのは、古時計が時を刻む音と、庭でさえずる鳥の声。
それから、時折、弟が頁を繰る音くらいだ。
目を閉じると、自分の頭が、ゆっくりと上下するのを感じた。
「春也、息してる。今、背中ちょっと動いた」
「えっ」
「あ。今、息してない。息しろ、春也」
「にいさまが、ヘンなこと言うからっ!」
春臣が笑い出すと、春也もつられて笑う。
「おい、春也まで笑うなよ。俺も揺れるだろ」
「じゃあ、にいさま、ぼくに乗らなければいいじゃん」
「やだねっ。春也の枕、すげー気持ちいいもん」
春也との時間はこんなに楽しいのに。
こんな風に、春也と過ごせる時間は、もう残り少ないらしい。
大人達が噂しているのを聞いてしまった。
最近、じい様の具合が良くない。
じい様に万が一のことがあれば、
梅ヶ枝の姓を持たない春也は、この家に入れなくなる。
そう、大人達が言っていた。
家元が父様になれば、次期家元争いに名が上がるのは、俺と春也だ。
俺達の意思に関係なく、周囲が騒ぎ出すらしい。
そうなれば、俺は、春也の傍には居られなくなる。
春臣は、天井を見ながら、温かい枕に問う。
「なあ。春也は踊りの稽古、好き?」
「んー。父様に怒られるのは、いやだけど…やっぱ、すき」
「どうして?」
「にいさまと一緒だから」
弟の即答に、兄は返事が遅れる。
「そう、か」
「にいさまは、きらいなの? おどり」
「俺、春也の踊りは好きだ。自由で楽しそうに踊るから」
「えっ、ほんと、にいさまっ!?」
「うん」
「うれしい」
春也の背中が、くくっと揺れる。笑っているのだろう。
「ぼくもね、にいさまのおどり、すきだよ?
だって、おどってるにいさま、カッコイイもん」
俺は、いつまで、格好良く舞えるだろう。
いつか、自由に踊れなくなるかもしれないけど。
春也には、今のままで居て欲しいから。
お前が、好きな時に好きなだけ踊れるように。
俺が春也を守るから。
汚い大人達に春也を渡すもんか。
俺が全部引き受ける。
姓が違っても。
どんなに、遠く離れても。
「春也」
「うん」
「忘れるな。この先、何があっても」
「ん?」
「お前は、俺の弟だから」
春也は、くすくすと笑う。
「おかしな、にいさま。そんなの当たり前じゃん」
春也が笑うので、春臣の頭も揺れて、笑いが移る。
そうだよ。
俺達、何があっても、兄弟で居られるよな。
「よっ、と」
春臣が立ち上がり、弟は背中が軽くなる。
「にいさま?」
兄は戸口まで進んでいる。
「そろそろ稽古の時間だ、先行くぞ」
弟は、慌てて起き上がり、とててと走ってくる。
「ぼくもいくっ」
兄は笑いながら先へ進む。
「置いてく」
「まって、にいさまっ」
弟に手を捕まえられる。
兄はその手を離さず歩き出した。
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