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Marginal Prince Short Story
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アイヴィーシナリオBL ソクーロフ-追憶の塔 続編
■背景:保健室の建物前(外)
■人物:なし

【アイヴィー】
今日は暇だし、保健室でお昼寝でもさせて貰うかなー。


■背景:保健室のドア前
■人物:なし

【アイヴィー】
あれ? なんか曲が聞こえる…でも今日はリサイタルじゃないみたいだな。
歌ってるの、女の人の声かな? 保健室の先生、CDでも聞いてんのか?


■背景:保健室
■人物:ソクーロフ(テルミン演奏中)

【アイヴィー】
あれ。ソクーロフ?


■背景:保健室
■人物:胸の前に右手を置くソクーロフ(テルミンを停止させた瞬間)

【ソクーロフ】
お前か。

【アイヴィー】
…スゴイ。なんか魔法使いさんみたいだった。


■背景:保健室、テルミンがある
■人物:ソクーロフ

【ソクーロフ】
一見、何も無い空中で手を動かしているだけだからな。

【アイヴィー】
あ。ソレ、ソクちゃんお気に入りの…えと…名前なんだっけ?

【ソクーロフ】
テルミン。ロシア語の正式名称は、Терменвокс(テルミンヴォクス)と言う。
発明者は、物理学者レフ・セルゲイヴィッチ・テルミン博士。
彼の名を冠し、『声』という意味の『ヴォクス』が付けられた。
1920年、ロシア内戦中に生まれた、世界初の電子楽器だ。

【アイヴィー】
ふうん。ね、さっきソクちゃんが弾いてたのは何て曲?

【ソクーロフ】
さあな。曲名は解らない。

【アイヴィー】
え? あんな弾けてたのに?

【ソクーロフ】
私は記録映像でしか見たことがないんだ。
妹が作った曲らしい。昔、時折、一人で弾いていた。

【アイヴィー】
そか。イイ曲だね。
これさ、アンテナが二本立ってるだけなのに、なんで音が出るの?
人はアンテナに触ってないのにさ。

【ソクーロフ】
テルミンのスイッチを入れると、周囲に電気が流れ、電磁場となる。
手を動かすことで周波数に干渉し、可聴域の波、つまり、
人に聞こえる音となる、という仕組みだ。
まあ、簡単に言えば、目には見えない電子の弦を弾いているということだ。
原理を詳しく説明してやっても良いが、学生時代、数学は得意だったか?

【アイヴィー】
イヤ、も、もういいや。

【ソクーロフ】
では、お前も弾いてみるか?

【アイヴィー】
えっ? イイの?

【ソクーロフ】
お前は言葉で理解するより、実践で覚えるほうだからな、何事も。

【アイヴィー】
スミマセンね。あんたと比べたら大体のヒト、おバカさんですよ。

【ソクーロフ】
手を貸してみろ。

【アイヴィー】
え、ちょっと…


■背景:保健室
■人物:ソクーロフがアイヴィーの背後から両腕を持っている

【ソクーロフ】
テルミンは、真上に伸びている縦のアンテナが音程を、
左にある輪のアンテナが音量を司っている。

【アイヴィー】
あ、う、うん。

【ソクーロフ】
音程アンテナは、手を近付けると、
音は高くなり、遠ざけると低くなる。このように。

【アイヴィー】
うわー。ホントだ。鳴ったー。

【ソクーロフ】
音量アンテナは、手を遠ざけると音が大きくなる。
近付けると小さくなり、アンテナに触れると音が止まる。

【アイヴィー】
おお、止まったー。テルミン、すげー。

【ソクーロフ】
以上が、基本動作となる。テルミンにはピアノのように鍵盤がない。
実際には触れずに、音を奏でる、非接触型楽器だ。
手を近付けたり、遠ざけたり。常に微妙なコントロールを要する。
どこに手を触れれば、どの音が鳴るかも、時と場合によって異なり、
演奏者が制御できない、周囲の環境にも大きく左右される。
だが、全てが調和した時、大いなる癒しの曲が奏でられる。
聞き手に、その旋律を差し出す為には、精密なテクニックと、運さえ味方にする能力が必要だ。
テルミンは本当に、カウンセリングとよく似ている楽器だと私は思う。

【アイヴィー】
イイ曲が弾けたら、弾けた方にも癒しになるんじゃないの?

【ソクーロフ】
…何?

【アイヴィー】
俺もさ、シュミでたまに音楽作るけど、イイ曲ができたら嬉しいもん。
それって、誰かに聞かせる為っていうか、
フツーに自分が嬉しいから、の方が近いかな、俺は。

【ソクーロフ】
…単純、だな。

【アイヴィー】
お医者サマが天才過ぎんだよ。

【ソクーロフ】
弾き方の説明を続けるぞ。
演奏時の注意点は、手以外のものは極力動かさないこと。

【アイヴィー】
なんで?

【ソクーロフ】
テルミンは非常にデリケートな楽器だ。
先程も少し説明したように、周囲に流した電気を利用する為、環境に大きな影響を受ける。
テルミンの周りには、透明な弦が張り巡らされているとでも思えばいい。
何か動くものがあってはいけないし、温度、湿度によっても音が変わってしまう。
その為、演奏前には常にチューニングが必要となる。
お前が保健室に来る前と来た後では、もう音が微妙に狂っているからな。

【アイヴィー】
…え。ゴ、ゴメンネ。

【ソクーロフ】
このままお前の手を取って、一曲演奏してやろう。
お前は手の動かし方を感覚で覚えろ、一回でな?

【アイヴィー】
ムリだし。てゆうかさ、今の俺って、
完全にソクちゃんの『操り人形』で、ちょっとヤなんですけど。

【ソクーロフ】
別に、普段とそう変わるまい。

【アイヴィー】
……なんで否定できないんだろう、俺。

【ソクーロフ】
では始めるぞ。曲は簡単なものにするか。


■歌:Twinkle, twinkle, little star(テルミン演奏)


【アイヴィー】
おお…なんかテルミンって不思議な音がするねー。

【ソクーロフ】
ほう。どのように感じた?

【アイヴィー】
んと…やっぱ、女の人の声みたいに聞こえるな。
優しい音だけど、なんかちょっとコワイかんじもする。
あんま聞いたことない音だし、得体が知れないっていうか。

【ソクーロフ】
流石、良い感度をしているな、お前は。

【アイヴィー】
…感度って。てゆうかさ、手、もう離してくんないかな?


■背景:保健室
■人物:ソクーロフがアイヴィーの腕を拘束したまま耳許で囁く

【ソクーロフ】
この姿勢を取られただけで、何をそんなに焦っている?

【アイヴィー】
あ、焦ってなんかないよ。耳許で喋んなっ。

【ソクーロフ】
この右耳は弱いからな。

【アイヴィー】
早く、離してってば…

【ソクーロフ】
テルミンの音には、弾き手の心情が仔細に現れる。鏡と言っていい。
今、お前が、何を思っているか。それは、電気を通じて、音になる。

【アイヴィー】
俺、別に何も…

【ソクーロフ】
望み通り、今度はテルミンではない音を出してやろう。

【アイヴィー】
ちょっと、ちょ…

【ソクーロフ】
どんな音が鳴るかな? こちらのアンテナからは。

【アイヴィー】
アンテナじゃねーから、ソレはっ

【ソクーロフ】
さて。では、チューニングから始めるか。

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