忍者ブログ
Marginal Prince Short Story
Admin  +   Write
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

■オーギュスト×アンリ
法律学の授業中。
白髪の教授が少し背伸びして板書している。
生徒達を振り向くと、再び単調で退屈な声で語り始めた。
夕暮れの空は灰色に覆われている。
アンリはいつものように窓を眺めていた。
これは事業を立ち上げる為に受けた講義で、今では用済みと言える。
けれど、年老いた声は良いBGMになるので、
次の投資先は何処にしようか、などと経営戦略を練る時間に使っていた。

ぽた、と窓の中央が濡れた。雫がつうと伝う。
数秒後にまた一粒、もう一粒と降ってくる。
あっという間に空は泣き出した。教授が丸眼鏡を押し上げる。
「おや。雨とは珍しいねえ。森は喜ぶことじゃろう」
前向きな言葉はどうも肌に合わない。
彼は雨を見て、永遠に降り止まないのでは、
と考えたことは一度もないのだろうか。

授業が終わった昇降口。
生徒達は恨めしそうに空を見ていた。
寮から校舎に来るまで傘を持ってこなかった者ばかり。
生徒の多くは、走って寮へ帰っていった。
僕には走るだけの若さと気力がないので歩いて行こうとした。
ふっと頭上に傘を差される。見上げると、紳士の微笑があった。
「行き先は、ウーティスで良いのかね?」

紺色の傘に雨音が降り頻る。
彼は左手に傘、右手には二冊ほどの本を持っている。
地面には薄っすらと水溜まりが出来始めていた。
突然、右隣から鼻歌が聞こえて来た。
神秘学の特別講師にしては珍しいことだ。
「いいことがあったのか、僕に聞いて欲しいの?」
「いや、自然に出てきたんだ。雨と一緒に降りてきたのかな?」
そう言って、また先と同じメロディを奏でる。
傘の外には漏れない小さな音楽。僕は黙って歩く。
しっとりとした旋律。緩やかで何処か切ない。
なんとなく長雨を思わせる曲だった。
傘を伝う雨音と、僕達の足音が、彼の曲に重なっていく。

部屋に戻ったら、久し振りにバイオリンを弾いてもいい。


fin
PR
カレンダー
06 2026/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
キャラ名、CP名などで作品検索可
アーカイブ
カウンター
バーコード
material by bee  /  web*citron
忍者ブログ [PR]