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Marginal Prince Short Story
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■シルヴァン×ハルヤ
キャンディの後日談
--------------------------
3月14日の朝。
シルヴァンは自室で眠っていた。
廊下を歩く足音がして、反射的に目が覚める。
小さな物音にも反応してしまう身体。
軍人の家に生まれた故、そう刷り込まれている。

夜は、浅い眠りを繰り返すだけで、いつも寝足りない気分だ。
安らかな眠り、などには程遠い。
偶には、日中にも昼寝をしなくては足りなくて。
学院の中では比較的音のしない、月桂樹の森に足を運ぶ。

この学院に来てからは、眠りのスパンが幾らか長くなったと思うが。
それでも周囲で音を立てられれば、こうして目は勝手に覚める。

長い髪を掻き揚げて、時計を見る。7時。
どちらにしろ、そろそろ起きなくてはならない時間だ。
いつものように、鳴り出す前の目覚まし時計を止める。

足音が、自分の部屋で止まった。
足音の主は、僕に用があるのだろうか。
ドアを開けてみる。
そこには、ユウタが居た。
ノックしようと右手を上げたポーズで仰け反る。

「わっ! びっくりしたあー!」

「…ああ、すみません。おはようございます、ユウタ」

「お、おはよう、シルヴァン。ごめん、まだ寝てた?」

「いえ。丁度、起きたところですよ。僕にご用でした?」

「うんっ。あのね、シルヴァンにこれ渡そうと思って来たの」

ユウタが左手に持っていたプレゼントを差し出す。

「ホワイトデー、俺、一番乗りでしょ♪」

「中はマシュマロですね?」

「うん!」

「ありがとうございます、ユウタ」

そうか、今日は3月14日なんだと気付いた。

しかし、ホワイトデーという行事は日本だけのイベントだ。
アルフォンソ学院では、いつも通りの平日が過ぎて行く。
講義が終わり、夕食も済んでしまう。
夕食の時、ハルヤの姿がなかった。
バトラーに尋ねると、今夜は勉強が忙しいので、
部屋に食事を運ぶよう言われたそうだ。

夕食後、シルヴァンはサロンに顔を出す。
そこに居たのはレッドとユウタだった。
子犬がじゃれあうように遊んでいる。

「あっ、シルヴァン! マシュマロ食べてくれた?」

「ええ。美味しく頂きましたよ、ユウタ。
ありがとうございます」

「おい、ユウタ! なんで、シルヴァンに、
マシュマロなんかあげたんだ?」

「レッドにはヒミツだよー♪」

「なんだとーっ!?」

「あ、あの。すみません。ハルヤは、まだ来てないです?」

「ハルヤ? 来てないよ。てゆうか、俺、今日はハルヤ見てないし。
勉強忙しいんだね。テストでもあるのかなあ?」

「そうですか…」

「でも俺、ハルヤが昼間、アボカドマグロ丼、食ってるの見たぜ?」

「ああ、好きですからね、彼」

「いや、その後、学院の外に出てくの見たんだよなあ」

「え?」

「シルヴァン、ハルヤに用があるんなら、部屋に行ってくれば良いんじゃない?」

「あ、いえ。用は別に…それにお勉強の邪魔になってしまいますから」

シルヴァンは部屋に戻ることにした。
何事も無く一日が終わってしまった。
時計を見る。14日の23時59分。

あと1分で、ホワイトデーが終わる。

…期待など、してはいけないのに。
「気持ちだけで充分です」と言ったのは自分だ。
それに、彼は夕食の時間も惜しむ程、忙しいのだから。

シルヴァンはベッドに入る。
今夜もまた、浅い眠りを繰り返すのだろう。
いつもと同じ夜が来るだけだ。
そう言い聞かせ、目を閉じる。

足音が聞こえた。
近付いて来る。時計の針は、1時過ぎ。
足音は僕の部屋の前で止まる。
シルヴァンは息を潜めて、耳に意識を集中する。

10秒もの長い沈黙。

そして足音は踵を返した。
シルヴァンはベッドを出て、ドアを開ける。
廊下に居た人は、ゆっくりと振り返る。

「あれ。シルヴァン、起きてたの?」

小首を傾げたのはハルヤだった。
ブレザーこそ脱いでいたが、ワイシャツにスラックスと制服姿のままだった。

「ハルヤ…どうしたのです…こんな時間に」

「うん、あの…君、寝てるのかなと思って、明日にしようと思ったんだけど。
起きてるのなら、今の方が良いのかな…?」

「…え?」

「あ。夜中に、廊下で話してちゃまずいか。部屋、入れてくれる?」

「ええ。どうぞ」

部屋に入り、彼がドアを閉めた。
ハルヤは少し照れながら微笑む。

「ごめんね、遅くなっちゃって」

はい、と小さな袋を渡される。
ピンクのリボンが不器用に結ばれているだけのラッピング。
それはプロの手ではなく、ハルヤが自分で包んだことを示していた。

「ハルヤ、これは…」

「ハッピーホワイトデー。…もう日が変わっちゃったけど」

「…開けて、良いですか?」

「うん」

ピンクのリボンに手を伸ばす。
リボンを解くことさえ、勿体無いような気がしたが、
これを引かなければプレゼントに届かない。
しゅるしゅると解く。

中から出てきたのは、手作りのストラップ。
ピンクの皮紐の先には、紙粘土のマスコットがぶら下がっている。
赤い目、首元には黒いリボン、大きな口、ピンと立った耳、額のナット。
シルヴァンの好きな、うさぎ怪獣だ。

「…これ、ハルヤが作ったのですか?」

「うん。紙粘土なんて小学生以来に触ったよ。なかなか上手くできなくてさ、
失敗したり、乾かすのに意外と時間掛かったりして、
ホワイトデーに間に合わなかったんだ、ごめん」

「こんなに細かい作業…めんどくさくなかったですか?」

「ん。かなり」

「ハルヤ…」

「うわあっ、シルヴァン! だ、抱き着くなっ!」

「だって嬉しいんです、とても。ありがとうございます、ハルヤ」

「…どういたしまして」

「僕をこんなに喜ばせて、どうするおつもりです?」

「ど、どうもしないよ…てゆうか、もう、くるしいからっ…」

「おや。こんなことでは終わりませんよ?」

ハルヤのうさぎ怪獣に見守られて。
今宵は安らかな眠りに付けそうです。


fin
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