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Marginal Prince Short Story
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■ジョシュアメイン
※本作は3月5日に完成したものでありますことをご了承下さい。
「バトラー、あのさ」

ウーティス寮、ダイニングルーム。
朝食のあと、執事が空いた皿を片付けていると名を呼ばれた。
若き主人が一人で立っていた。

「はい。いかがいたしましたか、アルフレッド様?」

六人居る主人の中でも、快活な主人は、実に言い難そうな顔をして、こう尋ねた。

「俺に、荷物、届いてないか? あ、手紙とか!」

数時間後、執事は他の主人からも同じ質問をされた。


寮全体がそわそわしていた前日と比べ、
2月15日のウーティス寮はなんだか大人しかった。
一見、普段通りにも見えるが、なんとなく皆が意気消沈していた。
それは、この部屋の主も同じようで。

(電話、来なかったな……)

入学時とほぼ変わらないインテリア。
このベッドは、寮生も知らないジョシュアの涙も受け止めている。
5年以上、身を預けてきたベッドの上で、ジョシュアは片膝を抱えていた。
悲しいことや苦しいことがあると、いつも一人でこうしてしまう。
幼い頃からの、癖のようになっていた。

昨日、2月14日は、聖バレンタインデー。
あの人から電話が来るのではないか、とジョシュアは密かに思っていたのだ。
結局、その日は何事も起こらず。
時差を考慮し、翌日まで待ってみようと思いながら、14日の夜をやり過ごした。

しかし、もう15日の放課後である。
バレンタインは終わってしまったのだ。
本当は自分から電話をかけたかったのだが、
日本では女性から愛を伝える日なのだと事前に聞いていた為、
男性から伝えては失礼になるかと思い、何もできなかった。
だが、これで解ったことがある。

貴女にとって俺は、バレンタインに言葉を交わす存在ではない。

きっと、そういうことだ。
もしかしたら、電話を貰っていないのは自分だけで、
他の誰かには電話をしていたのかもしれない。

本当は今すぐにでも声が聞きたい、話しがしたいのに、
彼女の迷惑になりそうで。
こうして膝を抱えることしかできなかった。

「ジョシュアー、居ますー?」

ドアの向こうから寮生の声がした。同じ学年で、ひとつ年上の彼だろう。
ジョシュアはベッドから降りて、ドアを開けた。

「どうしたんだい、シルヴァン」

「あの、ちょっと、入っても良いですか?」

「うん」

シルヴァンはドアを閉めてから、詰め寄った。

「実は! ジョシュアに聞きたいことがあるんです!」

「な、なんだい?」

「昨日、ユウタのお姉さんから、電話貰いました!?」

「ううん。貰ってないよ、俺は」

「えっ!? ジョシュアもですか!?」

「うん」

「てっきりジョシュアかと思ってましたー。違うんですねえ。
では、彼女は誰にも電話をしていないのでしょうか」

「シルヴァン、もしかして、皆に同じこと、聞いて回ったのかい?」

「はい。気になって気になって、仕方がなかったので」

「皆、電話を貰ってないって?」

「ええ。僕の調査ではそうみたいです」

「そう、なんだ」

シルヴァンはそこでフッと笑った。

「ほっとしました?」

「いや、そういうわけじゃ……」

「僕はほっとしましたけどね。僕にもチャンスは残されているようですし」

長い髪を跳ねさせて、ドアに向かう。

「それじゃ、お邪魔しましたー」

シルヴァンは部屋を出て行った。
残されたジョシュアは暫く立ち尽くしていた。

そして、ベッドに背を預けた。
赤い瞳には、天井が映り、壁が映った。
胸のうちで渦巻くもやから目を逸らすように、ジョシュアは瞳を閉じた。


fin
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