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Marginal Prince Short Story
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■ソクーロフ×アイヴィー ←ディーノ
■天月様、リクエストありがとうございました!
聖アルフォンソ島、旧市街。
広場の中央には月桂樹の木が一本ある。

ここは島民達の待ち合わせ場所によく使われる。
木の周りは広く座れるようになっているので、
ここで待ち合わせて旧市街へ飲みに行くのに、丁度良いスポットだった。

今夜は俺もここに居た。
夏の夜の、少しだけ生温い風に混じって、月桂樹の匂いがする。
木の下で腰かけ、煙草を吸いながら、一人で夜空を見上げていた。

「おや。アイヴィーじゃないか」

オバチャンの声がして、煙草を口から離す。
声をかけたのは、豊かな身体をした、明るい笑顔のオバチャン。
この島イチの歌姫、シニョーラ・マルタだ。
歌姫は、男女合わせて5、6名程に囲まれていた。
この島ではよく見る光景だ。今夜のライブでマルタの歌声に酔った客達が、
マルタを誘って「もう一軒行こう」、「一杯おごらせてくれ」となったのだろう。

「どうしたんだい、アイヴィー。シケたツラして」

「え。俺、そんなカオしてた?」

「してたさ。ヒマならアタシ達と一緒に行くかい?」

「あ、いや、ヒト待ってるから。まあ、ちょっと待たされてるけど」

「ソクーロフ先生かい?」

一発で待ち合わせ相手を当てられた。

「まあ、うん。よく解ったね?」

「アンタが連れてる相手なんて、ソクーロフ先生ばっかじゃないか。
でも、先生が待ち合わせに遅れるなんてねえ」

心配そうに、頬に手を当てる。肉付きの良い柔らかそうな手だ。

「マージナルプリンスが熱でも出したんじゃなきゃ良いけど」

俺も同じことを考えているところだった。
晩メシの約束が、例え今日の夕方にしたものであっても、
夜になってキャンセルされる場合はある。

警備司令官に、お医者さん。
どちらもお客さん次第の商売だ。突然のお客さんに呼ばれて、
晩メシの約束をキャンセルすることも、されることも、互いに何度も経験済み。

ソクーロフは、時間にルーズな人間ではないし、
うっかり約束を忘れるようなドジっこでもない。
待ち合わせ時刻になっても現れない、ということは、つまり、
お医者さんはお仕事中なのだろう。それが敢えてのプレイでない限りは。

そこまで解っているのに、万が一の可能性を考えて、
相手が来るのを、なんとなく待ってしまう俺のほうがおかしいのだ。
息を切らせながら「すまない、遅くなった」
と走ってくる相手ではないと解っているのに。

「マルター。そろそろ行こう。皆、お待ちかねだよー!」

次の店に行く途中で足を止めたマルタに、ファン達からいい加減お呼びがかかる。

「アイヴィーにはソクーロフ先生が居るんだから、
マルタがいくらナンパしたってダメさ!」

お酒が入ってご機嫌なオジサン、オバサン達は大笑いしていた。

「じゃあね、アイヴィー。たまにはカワイイ女の子連れてるとこ見せとくれよー」

楽しげに笑いながら、マルタ御一行は旧市街に消えていった。

賑やかな人達が過ぎ去ったあとは、嫌に静寂を感じる。
また一人になった俺は、とりあえず煙草を銜えた。

それから数分後、俺の携帯電話が鳴った。

やっぱり、というか、ソクーロフからキャンセルの連絡だった。
喘息の発作を出した生徒が居たらしい。
シュヌーシア寮に、喘息持ちの生徒が居るのは俺も知っていた。

「そっか。で、ダイジョブなの?」

「今はな。鎮静剤で落ち着いている。
再発の可能性があるから、今夜は側に付いていたい」

「そうだよ、ね。じゃあ、メシはまた今度」

「ああ。一人で食事できるか?」

「なっ! できます!」

「そうか。ならば」

そこでわざと間を置き、ソクーロフは囁くように言った。

「今夜は一人でしてみせろ」

「え……」

「フフッ。ではな」

一方的に電話は切られた。携帯電話を見ながら、俺は額を押さえる。
今の低い囁き声が、まだ耳に残っているような気がして、イヤだった。

「へえ。今夜は一人なのか」

イタリア訛りの英語。紫煙を燻らせながら、一人の男が近付いてきた。
先の尖ったエナメル靴に、黒いパンツ。うっすらと透けるシルバーのワイシャツ。
大きく開けた胸元からは、あろうことか、真っ黒なモジャモジャを覗かせている。

自ら、カタギの人間ではないと見せ付けるように、
口にもアゴにもヒゲを生やした男。
ただでさえ厳つい顔に、モジャついた長い黒髪が更に暑苦しい。
がっかりするほどに、シチリアンマフィアなその男は、
マンゾーニさんちのディーノ君だった。

「よお。一人寝がサビシイなら、今夜は俺様が抱い」

「言わせねえよっ!? つーか。なんでまたアンタが居んだよ」

「俺様が居ちゃ悪ぃのか?」

「悪いから言ってんでしょうが!」

「ま。とりあえずビール飲めるトコに連れてけや。
話はそこでじっくり聞いてやるから。な?」

「肩に手を回すな!」

「腰のほうがイイってか。焦んなよ。気が早えなあ」

「いや、だから。アンタ、自分の立場」

「解ってねえのはてめえだろ?」

グイと引き寄せ、わざと耳の傍で囁く。

「今、ここで、てめえをアンアン言わせたってイイんだぜ?」


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