忍者ブログ
Marginal Prince Short Story
Admin  +   Write
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

■シュヌーシア寮
シュヌーシア寮に新入生が入ったのは、ふた月前のことだ。
中等部一年からの入学は久し振りとなる。

世話好きのお兄さんのような上級生が集まるシュヌーシア寮では、
新入生は歓迎され、よく可愛がられるものだが、
今回の新入生に至っては、あっという間に人気者となり、
シュヌーシアのマスコット的存在になっていた。
新入生が寮のサロンで宿題をしていると、最上級生の二人が声をかけてきた。

「おっ。今日もやってんのか、テオ。エライぞー」

「何の宿題?」

まだ変声期を迎えていない一年生は、先輩達より少し高い声で答えた。

「数学。でも、よく解らなくて」

困っている様子の新入生を見て、上級生は悔しがった。

「くそー! 数学以外なら、テオの役に立てたのにー!」

「中1の数学でもバカにできないからなあ」

ソファで雑誌を捲っていた高等部一年生の後輩が苦笑した。

「何言ってんの。一応、最上級生だろ、アンタら」

最上級生二人は胸を張る。

「俺達、今年は数学、選択してねえから!」

「そうそう。数学とは縁切ってるから!」

「でも、テオの役に立てんなら、数学取っておけば良かったかなー」

「何言ってんだか」と後輩と笑う。

「じゃー、お前がテオの役に立てよー!」

「できたら、とっくにやってるよ。俺も数学はパース」

そう言って後輩はまた雑誌を捲った。
サロンのドアが開いた。猫背気味の寮生が一人、のそのそとサロンに入ってきた。

制服のブレザーではなく、紺色のカーディガンを羽織っているせいもあり、
生徒というよりは教師にも見えるが、彼はこの寮の高等部二年生。
名はヤン・ハシェクという。
普段はぼんやりとして見えるが、学院内では数学の天才と呼ばれる生徒だった。
彼を見て、最上級生の一人が指を鳴らした。

「おっ、丁度良いところに。おーい。ヤン!」

呼ばれた生徒は、一拍遅れて振り向いた。ずり落ちた眼鏡をかけ直しながら、

「何ですか?」

「俺達の代わりに、テオを助けてやってくれ!」

「頼むよ! 数学の天才!」

「いや、天才だなんて」

ヤンは艶のないぼさぼさの頭を掻く。

「ほら、座って座って」

「あ、うん」

「よーしテオ。ヤンに何でも聞いてみな?」

中等部一年生のテオが、高等部二年生のヤンを見上げる。

「聞いてもいいの?」

「あ、うん。僕で解ることなら」

その後、最上級生二人は他に用事があったらしく、
力いっぱい新入生を激励して、サロンを去っていた。
ヤンがテオに尋ねる。

「えっと。どの問題が解らないの?」

「これ」

「どの辺から解らない?」

「最初から。どうしていいか解らないの」

「そっか。じゃあ、最初からゆっくりやろうね」

ヤンは公式を復習し、問題の解き方、考え方を教える。
新入生が練習問題を解いている間は、
持っている本を読みながらのんびり待っていた。

「できたっ!」

歓声が上がったのは、それから間もなくのことだった。
ヤンが答え合わせをしてみると、全て正解していた。

「もう一人で大丈夫そうだね」

「ありがと、ヤン! 続き、一人でやってみるね!」

「うん。じゃあ、また解らなくなったら教えて? 僕、ここに居るから」

「うんっ!」

テオが続きに取りかかる。ヤンは暫く見守っていた。
それから、三問程進んだところで、ヤンが口を開いた。
彼独特のスローなテンポで独り言のように、

「そう言えば、伸びてきたね」

「えっ? なあに?」

「テオの髪。丁度、2センチくらい」

「髪? そっかな」

「うん。下向いてると、前髪が目に入っちゃいそうだよ?

テオは、ここに来てから、髪切ったことまだないでしょ?」

「うん」

「髪、切って貰ってくる?」

ヤンの背後に金髪の生徒が立ったのにテオが気付く。

「髪伸びてんのはお前もだ」

「いて。あ、エド」

ヤンの頭を小突いたのは、ヤンと同じ高等部二年のエドガー・ラッセルだった。
エドガーの寮はウーティスだが、こうしてシュヌーシアにも時々やってくる。
我が家のようにドカッとソファに座る。

「ったく。他人の髪は伸びてるってすぐ解るのに、
自分の髪のほうが伸びてるってことは解んねえのかー?
面倒くさがってねえで、ちゃんと定期的に行けって言ってんだろ?」

エドガーが話すテンポは、人より少し早い。
そのスピードにつられることなく、ヤンはのんびりと答える。

「ん。まあ、僕はあんまり気にならないから」

「お前が気にならなくても、こっちが気になるってんだよ!
テオに店案内するついでに、お前も切って貰って来い!」

「ああ、そっか。そうだね。じゃあ、テオ、僕も一緒に連れてってくれる?」

「連れてくのはお前だっつの。つうか店が混んでないか確認してから行けよ。
あ、バトラー。悪いが、床屋に電話して貰えるか?
コイツとコイツ、これから行っても良いかって」

控えていた執事が頭を下げる。

「畏まりました。こちらで少々お待ち下さいませ」

サロンを退室していく背中を見送ったあと、新入生は上級生に尋ねる。

「皆が行く美容院さんがあるの?」

「ああ、そうさ。なんたって学院の中にあるんだからな!」

「えっ。学院の中に?」

「聖アルフォンソ学院専属理髪店さ!
学院の生徒は全員タダで髪切って貰える店さ。
ま、サービスで先生や職員の髪も切ってるみたいだけどな。
オーナーのじぃちゃんは、マージナルプリンスの髪を切り続けて、
ウン十年の大ベテランなんだ。さすがにイイ腕だぜ?」

エドガーが自慢げに紹介する。ヤンも頷いていた。

「あのお店の人って、みんな凄い人だよね。
僕達一人一人に合わせて、丁度良くお話ししてくれるっていうか、
リラックスできるっていうか、不思議だよね」

「確かにな。お前が言いたいことはなんとなく解るぜ、ヤン。
この前俺が行った時さ、たまたまアルファルドの奴が髪切ってて、
そん時は、じぃちゃん、余計なこと一切喋ってなかったもんなー。
俺の髪切る時は、めっちゃ面白い話とか聞かせてくれんのに」

「あと、帰りにお菓子くれるの、好きだなあ。チョコのクッキーとか」

「失礼致します」

執事がサロンに戻ってきた。

「理髪店にお電話致しましたところ、お待ちしておりますとのことでした」

「よしっ! サンキュ、バトラー。
じゃあ、お前ら、とっとと行って、サッパリしてこい!」

エドガーが二人の背中を叩く。パシンと良い音がした。

中等部一年生のテオは、高等部二年生の半歩後ろを付いていく。
シュヌーシア寮を出て、他の寮を横切り、上級生が足を止めたのは森の前だった。
ここに来ると、辺りが真新しい空気でいっぱいなのを感じる。
一年生は自分よりずっと大きい木々を見上げる。
午後になり、更に柔らかくなった日差しが、森を穏やかに照らしている。
けれど、ここは森で、理髪店ではない。

「森の外れにあるんだ。もう少し歩くからね」

上級生はそう呟いて、また歩き始める。一年生は上級生の猫背を追いかけた。
枝葉の間で鳥達が賑やかに鳴いている。

「ウーティス寮の前を通って、森の外側に沿って歩いて行くんだ」

ヤンは木や花を見ながら話している。

「帰りも同じ。ウーティス寮に向かって歩いていけば迷わないで森を出られるからね。
たまに道に迷う人も居るけど、森番さんが出口まで案内してくれるから」

「森番さん?」

「うん。まだ会ったことない? 森の植物や動物のお世話をしてくれてる人だよ。
植物や動物に、とっても詳しいんだ。森番さんは、大体、森に居るから」

今度会えたら紹介するね、とヤンは言った。


そこから暫く歩いた先に小屋があった。
森の片隅に木製の小さなログハウス。古い看板には何か文字が書いてある。
古い木の板に、黒い文字で『Ramada』と読めた。
ヤンはテオを振り返って、お店を紹介する。

「ここだよ。僕達が行ってる床屋さん」

テオは入学から二か月、キャンパスのあちこちを探検してきたが初めて見た。
森の片隅にマージナルプリンスの理髪店があるなんて。
新入生は目を輝かせて、歓声を上げた。

「可愛い! 小人のおうちみたいだね!」


PR
カレンダー
06 2026/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
キャラ名、CP名などで作品検索可
アーカイブ
カウンター
バーコード
material by bee  /  web*citron
忍者ブログ [PR]