×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
■シュヌーシア寮
■聖アルフォンソ学院専属理髪店2 続編
「おはようございます、予約していたクラウスです」
理髪店にシュヌーシア寮の高等部三年生がやってきた。
老紳士の理髪師アンシュが出迎える。
「いらっしゃいませ、クラウス様。どうぞ、お掛け下さい」
日曜日の朝イチから、きびきびと歩き、椅子に座った。
同じ寮に住む陽気な友人に、この理髪店を紹介されて以来、
いつもクラウスを担当するのは、一番キャリアの長いアンシュだった。
「本日はどう致しましょう。いつも通りでございますか?」
「ああ。頼む」
「畏まりました」
短い遣り取りだけで互いに伝わる。クラウスもあとは理髪師に任せていた。
聖アルフォンソ学院専属理髪店。この店に勤める理髪師は全員で三人。
アンシュ、ヴィティス、プラタノ。
初めて聞いた時、なんとなく変わった名前だなとは思ったが、
中等部からこの学院に居る寮生から聞いた話では、
理髪師達の名前は、明らかに本名ではないという。
彼等の名前は、言語こそ違うものの、偶然とは言い難い共通点がある。
三人とも、木の名前で統一されているというのだ。
アンシュは中国語でユーカリ。
ヴィティスはラテン語でブドウ。
プラタノはスペイン語でバナナ。
ユーカリの木も、ブドウの木も、バナナの木も、
聖アルフォンソ島の至る所で見られる木なので、島民には馴染み深い木だ。
しかし、何故、理髪師達が全員、木の名前なのか。
ニックネームの一種なのか解らないが、
理髪師達がここで名乗っている名が、本名でないことは明らかだった。
聖アルフォンソ学院は『訳あり』の子供達が集う場所。
その学院を支える大人達も、それぞれ何らかの事情を抱えているのだろう。
でなければ、地図に載らない孤島には、辿り着かないだろうから。
何故、本名を名乗っていないのか。
何故、全員、木の名前なのか。
クラウスが初めて理髪店に来た時から、疑問はある。
しかしクラウスは、その疑問を本人達に尋ねたことはなかったし、
他の生徒達も深く詮索はしていないだろう。
この辺境の島では、相手の事情に踏み込まないことが、
暗黙の了解のようになっていた。
「以前いらした時より、少々御髪が長いですね」
理髪師がクラウスの髪に触れながら、そう言った。
「そうか。今回はいつもより来るのが少し遅くなったな」
遅れたと言っても二週間程度だが、クラウスは初来店以降、
散髪はふた月に一度というペースを守っていた。
更に言えば、月末の日曜日の午前中、というところまできっちり決まっていた。
しかし、生徒代表に就任後は、行きたい時に行けない場合が出てくるようになった。
「お忙しいですか、生徒代表のお仕事は」
「そうだな。だが、遣り甲斐はある」
「生徒代表にご就任されて以来、お疲れなのでは?
あまりご無理をされてはいけませんよ? 大切なお身体なのですから」
クラウスは自己を省みる。
「無理をしているつもりはないが、気を付ける」
散髪の間、クラウスは、ずっと正面の鏡を見ていた。
真っ直ぐに前を見て、理髪師が髪を切る様子を観察していた。
散髪が終わったあと、理髪師はこんなことを言った。
「クラウス様。少々、肩に触れさせて頂いても宜しいでしょうか」
「え? ああ」
「では失礼致します」
きっと、肩に付いていた髪を払ってくれるのだろうと思っていたら、
理髪師はクラウスの肩を揉み始めた。予想外だったクラウスは驚いた。
「アンシュ。肩揉みまでしてくれなくても」
「当店をいつもご愛顧頂いているお返しでございますので。
もし、力が強いようでございましたら、仰って下さい」
「いや。もう少し強くても良いくらいだ」
「畏まりました」
老いた理髪師の手が、丁度良い力加減でクラウスの肩をほぐしてくれる。
うとうとしてくるような心地良さだった。
「いかがでございましたか」
「すまない。眠ってしまいそうだった。気持ちが、良くて」
「それはようございました。では、続きはまた次回に」
優しく微笑んで、ドアを開けてくれる。
「またのお越しをお待ちしております。行ってらっしゃいませ」
理髪師達はいつものように丁寧に見送ってくれた。
→
■聖アルフォンソ学院専属理髪店2 続編
「おはようございます、予約していたクラウスです」
理髪店にシュヌーシア寮の高等部三年生がやってきた。
老紳士の理髪師アンシュが出迎える。
「いらっしゃいませ、クラウス様。どうぞ、お掛け下さい」
日曜日の朝イチから、きびきびと歩き、椅子に座った。
同じ寮に住む陽気な友人に、この理髪店を紹介されて以来、
いつもクラウスを担当するのは、一番キャリアの長いアンシュだった。
「本日はどう致しましょう。いつも通りでございますか?」
「ああ。頼む」
「畏まりました」
短い遣り取りだけで互いに伝わる。クラウスもあとは理髪師に任せていた。
聖アルフォンソ学院専属理髪店。この店に勤める理髪師は全員で三人。
アンシュ、ヴィティス、プラタノ。
初めて聞いた時、なんとなく変わった名前だなとは思ったが、
中等部からこの学院に居る寮生から聞いた話では、
理髪師達の名前は、明らかに本名ではないという。
彼等の名前は、言語こそ違うものの、偶然とは言い難い共通点がある。
三人とも、木の名前で統一されているというのだ。
アンシュは中国語でユーカリ。
ヴィティスはラテン語でブドウ。
プラタノはスペイン語でバナナ。
ユーカリの木も、ブドウの木も、バナナの木も、
聖アルフォンソ島の至る所で見られる木なので、島民には馴染み深い木だ。
しかし、何故、理髪師達が全員、木の名前なのか。
ニックネームの一種なのか解らないが、
理髪師達がここで名乗っている名が、本名でないことは明らかだった。
聖アルフォンソ学院は『訳あり』の子供達が集う場所。
その学院を支える大人達も、それぞれ何らかの事情を抱えているのだろう。
でなければ、地図に載らない孤島には、辿り着かないだろうから。
何故、本名を名乗っていないのか。
何故、全員、木の名前なのか。
クラウスが初めて理髪店に来た時から、疑問はある。
しかしクラウスは、その疑問を本人達に尋ねたことはなかったし、
他の生徒達も深く詮索はしていないだろう。
この辺境の島では、相手の事情に踏み込まないことが、
暗黙の了解のようになっていた。
「以前いらした時より、少々御髪が長いですね」
理髪師がクラウスの髪に触れながら、そう言った。
「そうか。今回はいつもより来るのが少し遅くなったな」
遅れたと言っても二週間程度だが、クラウスは初来店以降、
散髪はふた月に一度というペースを守っていた。
更に言えば、月末の日曜日の午前中、というところまできっちり決まっていた。
しかし、生徒代表に就任後は、行きたい時に行けない場合が出てくるようになった。
「お忙しいですか、生徒代表のお仕事は」
「そうだな。だが、遣り甲斐はある」
「生徒代表にご就任されて以来、お疲れなのでは?
あまりご無理をされてはいけませんよ? 大切なお身体なのですから」
クラウスは自己を省みる。
「無理をしているつもりはないが、気を付ける」
散髪の間、クラウスは、ずっと正面の鏡を見ていた。
真っ直ぐに前を見て、理髪師が髪を切る様子を観察していた。
散髪が終わったあと、理髪師はこんなことを言った。
「クラウス様。少々、肩に触れさせて頂いても宜しいでしょうか」
「え? ああ」
「では失礼致します」
きっと、肩に付いていた髪を払ってくれるのだろうと思っていたら、
理髪師はクラウスの肩を揉み始めた。予想外だったクラウスは驚いた。
「アンシュ。肩揉みまでしてくれなくても」
「当店をいつもご愛顧頂いているお返しでございますので。
もし、力が強いようでございましたら、仰って下さい」
「いや。もう少し強くても良いくらいだ」
「畏まりました」
老いた理髪師の手が、丁度良い力加減でクラウスの肩をほぐしてくれる。
うとうとしてくるような心地良さだった。
「いかがでございましたか」
「すまない。眠ってしまいそうだった。気持ちが、良くて」
「それはようございました。では、続きはまた次回に」
優しく微笑んで、ドアを開けてくれる。
「またのお越しをお待ちしております。行ってらっしゃいませ」
理髪師達はいつものように丁寧に見送ってくれた。
→
PR