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Marginal Prince Short Story
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■シュヌーシア寮
■リクエストありがとうございました!
聖アルフォンソ学院のキャンパスに鐘の音が響く。
これで今日の授業は全て終了だ。中等部一年生のラビも教室を出た。
廊下の窓からオレンジ色になった太陽が見えた。
最近、暗くなるのが早くなってきたなあ、と思いながら、綺麗な夕焼けを見ていた。

校舎を一歩出た時、ビュウッと冷たい風が吹いて、思わず「わっ」と声が出た。
地面に落ちている枯れ葉がクルクルと転がっていった。
自分の指先が冷たくなっているのが解る。
早く帰ろう。ラビは少し早歩きでシュヌーシア寮に向かった。

ラビがシュヌーシア寮サロンに帰ってきた時、既に何人か寮生が居た。
外と比べると、サロンはあたたかくてほっとした。

「寒かったー」

「お帰りなさいませ、ラビ様。最近、お寒うございますね」

シュヌーシア寮のバトラーが迎えてくれた。

「ラビ様も『天使も惑う悪魔の誘惑』をお飲みになりますか?」

バトラーの前には幾つかのカップが並んでいた。
この島では、食べ物や飲み物に不思議な名前が付いていることがある。
『天使も惑う悪魔の誘惑』が何を意味するのか、
今年入学したラビはこの冬になってから知った。

「ホットチョコレートのことだよね。うん。お願い」

「畏まりました」

「ラビー」

名前を呼ばれて振り向く。目が合ったのは、ソファに座っている寮生のうちの一人。
高等部二年生のテオだった。たくさん居る先輩達の中でも、大好きな先輩だ。

「ラビ、ここに座ってごらん」

テオが両手で叩いているのは、テオの膝だった。ラビは首を傾げる。

「テオのお膝? 座って良いの?」

「うん。座っておくれ。ラビのセーターになりたいから」

ラビにはよく解らなかったが、言われた通りテオの膝に座る。

「座ったけど。セーターって?」

「こうするのだよ」

すると、ラビは背中からあたたかくなった。
後ろからふんわりと抱き締められていた。テオの腕が前に回っている。
セーターを羽織っているような形になっていた。

「どうだい、ラビ?」

耳の後ろからテオの声がして、少しくすぐったい。

「これで、寒くなくなったかな?」

「うんっ!」

ラビは笑顔になって、テオの腕を抱き締め返した。

「テオ、あったかーい」

テオは微笑んで、ラビの首許に顔を埋める。

「ラビもあたたかいよ」

「僕も?」

「うん。とっても。近頃は夜も冷えるから、ラビを抱き締めて眠りにつきたいなあ」

「良いよ! 僕が一緒に寝てあげる!」

「良いのかい? ありがとう。では今夜、ベッドで待っているね?」

「うん! テオと一緒に寝るの久し振りだね!」

「そうだねえ。夜が楽しみだなあ」

仲良しの兄弟のようにじゃれあう二人を、無言で見ている生徒が居た。
それに気付いた中等部三年生のシルフェが、こう声をかけた。

「なんだ、レオン? お前もして欲しいのか?」

中等部一年生のレオンは二個上の相手を軽く睨む。

「……シルフェ、お前はまた意味解んないことを……」

「しょーがねーなー」

シルフェは片手に持っていたティーカップを置く。

「イイぜ? 俺がレオンのセーターになってやっても?」

「ダレがお前にそんなこと頼むかっ!」

「遠慮すんなよ。ほら」

シルフェは一瞬のうちに、レオンの背後を取り、後ろからキツく抱き締めた。

「な? あったかいだろ?」

「ちょ、この、離せー!」

レオンはバタバタ暴れたが、力では敵わず、シルフェはびくともしない。

「可愛げがないなあ、レオンは。
お前も『シルフェ、あったかーい』って可愛く言ってみろよ?」

「言えるか! てゆうか、これはただの羽交い締めだろ!?」

「恥ずかしがっちゃって」

「はーなーせー!」

「……何やってるんだ、お前達」

ドアのところで、最上級生のクラウスが呆れた顔をして立っていた。

「格闘技ごっこなら外でやれ。ここでは埃が立つ」

クラウスは一人がけのソファに座った。
バトラーがマグカップを持って、ラビの前に置く。

「お待たせ致しました。『天使も惑う悪魔の誘惑』でございます」

「ありがと、バトラー」

テーブルからマグカップを取ろうとすると、

「おい、ラビ」

クラウスから注意が飛んできた。

「それを飲むなら、その不安定な椅子ではなく、ソファに座ってからにしろ」

「は、はーい」

クラウスに注意され、ラビは仕方なく立ち上がった。
本当はもう少しテオの膝に座っていたかったが、
もし、テオの膝の上でホットチョコレートを零したら、
テオの服もチョコレートで汚してしまう。

「テオ、お隣、座っていい?」

「もちろん」

テオの隣に座ると、テオがテーブルからマグカップを取って、手渡してくれた。

「テオ、ありがと」

ラビはマグカップに口付ける。
仄かな苦味と溶け合った甘いチョコレートが喉から身体を温めていく。
ほうっと吐いた息はカカオの香りがした。


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