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Marginal Prince Short Story
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■ソクーロフ博士
「では、今日のカウンセリングはここまでにしよう」

聖アルフォンソ学院保健室。
保健教師かつカウンセラーとして赴任しているソクーロフ博士は、
ある生徒のカウンセリングを終えたところだった。

「ありがとう、ございました、博士」

金髪の生徒は震える声でお礼を言った。青い瞳には涙が浮かんでいる。
生徒は涙を隠すように制服の袖口でゴシゴシと目許を拭った。
その一挙一動を見守りながら、カウンセラーはこう言い添えた。

「今日の歌も素晴らしかったよ、ミハイル」

生徒がおずおずと顔を上げた。

「ほんとですか?」

「うん。今日の歌は、とても優しい旋律だった。
まるで誰かを想って歌ったようにも聞こえたよ?」

青い瞳はパチパチと瞬いた。

「あ、あの。そう、なんです。実は、あの……」

小さな声はそこで途切れ、長い間となる。
この生徒は人見知りの傾向が強く、誰かと話すこと自体に大きな勇気を必要とする。
また、自分の中で話す内容をまとめてから、
実際に話し出すまでに他人より少し時間がかかる。
それを理解しているカウンセラーは、生徒を急かさず、ゆっくりと待った。

「あの、ユウタから、聞いたんですけど……」

強い緊張を感じて、生徒の両肩に力が入っていた。カウンセラーは優しく声をかける。

「ユウタから? なんだね?」

「きょ、今日、博士がお誕生日だって」

カウンセラーは予想外の単語が出てきたことに驚いた。

「お誕生日、おめでとうございます、博士」

そして、この生徒がカウンセラーの為に、
誕生日を祝う言葉を伝えてくれた事実にも。

「でも、プレゼントとか、何を用意して良いか解らなくて……だから、あの……
僕、う、歌はどうかなと思って……博士は、いつも僕の歌を褒めてくれるから」

生徒の白い頬は紅潮している。

「だ、だから、今日は、博士の為に歌ったんです。いつも博士は僕に優しくしてくれるから」

懸命に話す生徒に対し、カウンセラーは適度に相槌を打つことは忘れずに、
大変興味深く生徒を見守っていた。次の瞬間、生徒は急にしゅんとなった。

「でも、僕の歌なんかじゃ、バースデープレゼントにならないですよね。
やっぱり、迷惑でしたよね、ごめんなさい、僕のせいで……」

「迷惑の筈がないよ、ミハイル」

カウンセラーは微笑みながら、生徒の目を見つめる。

「ありがとう、ミハイル。君に、歌で、私の誕生日を祝って貰えるとは。とても嬉しいよ」

「ほ、ほんと、ですか?」

「もちろん。私は君の歌が大好きだからね。嬉しかったよ。
誰かの為に歌ったから、優しい歌になったのかもしれないね」

どうもありがとう、と改めてカウンセラーは礼を言った。


その日の夜。ソクーロフの仕事が終わり、
追憶の塔を出たのは、そろそろ日付が変わる時刻だった。
ここでの仕事は、子供達の先生、カウンセラーとしてではない。
警備組織に協力して行っている、大人向けカウンセリングだ。
室内から外に出ると、引き締まった冷たい空気に迎えられた。
冬が近い。ソクーロフは自然と黒いコートのポケットに両手を入れていた。

「遅くまでゴメンねー、ソクちゃん」

ソクーロフの隣で車のキーを人差し指で回しながら歩いている。
謝罪の言葉を軽い調子で口にした若い男。名はアイヴィーと言う。
ソクーロフに劣らず、髪の長いこの男が警備組織の司令官であり、
大人向けカウンセリングの雇い主にあたる。

「でも、やっぱりソクちゃんが来てくれて助かっちゃったー。サーンキュ」

二人の仕事は先程終わった。晴れて直帰となった司令官の車で、
ソクーロフが住む学院の宿舎まで送らせるところだ。

「あ、そーだ」

駐車場に着き、愛車を前にしたところで、アイヴィーが足を止めた。
ゴソゴソとズボンのポケットから何かを取り出した。

「ソクちゃん、はい、コレ」

アイヴィーがソクーロフに手を差し出した。

「ソクちゃんが、またひとつ年食っちまったお祝い」

その手の平に乗っていた物は一箱のタバコだった。
ソクーロフはタバコを手に取り、それを眺める。

「昨年と同じだな」

アイヴィーは笑いながら、

「スイマセンねー、芸がなくてー」

夜風が二人の間を通り抜ける。近頃は随分風が冷たくなった。

「うわ、寒っ。帰ろ帰ろー」

アイヴィーは車のキーを取り出し、愛車に差し込む。
ソクーロフはタバコをコートのポケットに入れた。


fin
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