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Marginal Prince Short Story
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■アンリ
聖アルフォンソ学院、体育館。
その中央で、僕とオーギュストは向かい合って立っている。
僕達以外に人は居ない。ここは、何世紀前かの生徒が建てた、
フェンシング専用の体育館で、この競技ができる生徒は、極端に少ないから。

試合は幅1.8m、長さ18mの『ピスト』と呼ばれる台で行われる。
僕とオーギュストは、フェンシング用の白いユニフォームとマスクを着け、
エペという剣を手にしている。

今日は日曜日。神秘学を含め、全ての授業は休みだ。
それなのに何故、日曜の、それも午前中から、
神秘学の教授とフェンシングをやる羽目になったのか。


誰のせいかと言えば、馬好きのあの人のせいだ。
今日のアクティヴィティ、僕は高等部一年のジョシュアを相手に、
フェンシングをやろうと思っていたのだけれど、
声をかける前に、彼は朝早くから愛馬と遠乗りに行ってしまっていた。

ジョシュアは時折、何かから逃げるように厩舎に行く。
おそらくは幼少期からの癖なのだろう。けれど、最近は、その回数も減ったようだ。
今朝、バトラーに聞いた話では、ジョシュアはこう言って寮を出発したらしい。
「そろそろ会いに行かないと、機嫌を損ねてしまいそうだから。
 寂しがり屋なんだ、俺のアルセイデスは」と。

フェンシングの練習相手が外出した為、
僕は仕方なく、予定を変更してライブラリに行った。
そこでこの教授と出くわしたのが運の尽き。
「私にお友達の代役は務まらないかな?」と言われた。

壁を相手に練習するよりはましかと思って、彼を体育館に連れて来た。
けれど、神秘学専攻の教授に、フェンシングなんて本当にできるのだろうか。


フェンシングはキスから始まる。
試合開始前、選手は互いに剣先を地に向ける。
次に剣先を天に向け、垂直に立てた柄を口許に運ぶ。
剣へのキスを終えたら、剣を相手に真っ直ぐ向ける。
その一連の動作を『サリュ』と言う。試合前の儀式的な挨拶だ。

僕は神秘学の教授が、どのようにサリュをするのか見ていた。
彼は意外に慣れた様子で、優雅に剣とキスをして見せた。
僕の視線に気付いた彼は穏やかに微笑しながら、

「フェンシングは、随分久し振りだから、お手柔らかにね? アンリ」

確かにそう言っていたくせに。
試合が始まってみれば、初めて剣を持った時を思い出す程、
圧倒的に、彼の実力のほうが上だった。

まるで、小さな子どもが大人と勝負しているみたい。
ジョシュアと僕の実力はほぼ互角なのに。
オーギュストには、こんなに敵わないなんて。

試合終了後。オーギュストはマスクを取って、にこりと笑った。

「上手だね、アンリ。驚いたよ」

むかつく。


fin
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