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■シルヴァン
日曜の午後。天気は良く、気持ちの良い風が吹いている。
聖アルフォンソ学院の正門前に、タクシーが一台停まっていた。
ドライバーはこの車の持ち主、アイヴィー。
後部座席には、先日学院に入った新入生が座っている。
入学初日早々の外泊で一躍有名になった、高等部一年のシルヴァンだ。
ちなみにその外泊先はアイヴィーの自宅だった。
以来、シルヴァンには、すっかり懐かれてしまったようで、
しょっちゅう、こうして車を呼び出されている。
アイヴィーはルームミラーで後部座席を見ながら、
「で、今日はどこまで行くんだー?」
「今日は、旧市街の公園までお願いしまーす」
「公園ってドコのよ?」
「ええっとー、バスケットコートがあるところなんですけどー」
「ああ、あの古い公園か」
ドライバーは旧市街に向かって車を出発させながら、
「なんでまた、そんなトコに用があんだ?」
「先週、その辺を歩いていた時に、近所の子達がバスケをしてたんです。
それを見ていたら、なんだか懐かしくなりましてね。
僕も仲間に入れて貰ったら、仲良くなっちゃいまして。
また来週も来いよ、って誘われちゃったんですー」
「ったく、お前さんの社交性の高さには呆れるわ」
「そんなに褒められると照れちゃいますー」
「褒めてねーよ」
「ねえ、今日はアイヴィーも一緒にバスケしませんか?」
「おいおい。俺まで巻き込むなよ」
「アイヴィーも実はバスケ得意でしょ? 苦手なスポーツ、なさそうですもんね?」
「若いお前さん達相手じゃ敵わねーよ」
「でも、僕と一緒なら、胸張ってお仕事サボれるんじゃないですか?」
「……なんだよ、そのアクマの囁きは」
「ココロが揺れ動いちゃいました?
あ、それから僕、今夜は貴方の家に泊まる予定ですから」
「あっそ……って、また泊まんのかよっ!?」
「もし、他の誰かさんがお泊まりする予定なら仕方ないですけど。
誰も来ないなら、僕が居てもイイですよね?」
「……ったく。どうしようもない問題児が入ったもんだな」
「おやおや。今日は僕のことベタ褒めですね?」
「だから、一個も褒めてないっての!」
その約一時間後。違うタクシーに二人の生徒が乗っていた。
こちらの後部座席に座っているのは、高等部三年のクラウスと高等部二年のテオだ。
日曜日に街で買い物をしたかったテオが、強引にクラウスを連れ出したのである。
市街地での買い物を終えたあとは、テオがアイスクリームの販売車を見つけ、
広場でアイスクリームを食べたりもした。
甘いものが苦手なクラウスが頼んだのはアイスコーヒーだったが。
その後「旧市街のケーキ屋さんで寮へのお土産を買おう」
とテオが言い出した為、二人を乗せた車は旧市街を走っていた。
「おや?」
窓の外を見ながら、テオがそう呟いた。腕を組んで座っているクラウスが尋ねる。
「どうした?」
「今、公園でバスケットボールをしていたの、
うちのワイルドボーイじゃないかなあと思って」
その名を聞いた途端、クラウスは反射的に苦い顔になった。
「……ワイルドボーイって、シルヴァンのことか?」
「うん。入学初日から、貴方を翻弄しているワイルドボーイだよ?」
「あいつ、またフラフラ出歩いて……」
クラウスは運転席を掴みながら、
「すまないが、車を戻してくれないか。その公園に行ってくれ!」
バスケットコートは高いフェンスに囲まれた中にあった。
周りに幾つかベンチがある程度で、公園と言うには随分寂れたところだ。
フェンスは錆びた緑色で、ペンキは剥げ、黒っぽい中身が見え隠れしている。
コートの白いラインもかなり擦り切れ、ラインは途切れ途切れになっていた。
フェンスがドアのように開く場所には、とっくに壊れた鍵がぶら下がっている。
「旧市街にこんな場所があったのか」
クラウスは眉を顰めていたが、テオは物珍しそうにキョロキョロしていた。
「昔の映画に出てきそうな場所だねえ。強いギャングがここで決闘しそうだ」
二人がフェンスのドアを開けて入ってくる。
最初に気付いたのは、ベンチで一服しながら見学していたアイヴィーだった。
「ありゃ? なんで……」
すると、シルヴァンも気付いてこう叫んだ。
「あ! お父さん! とテオも! どうしたんですか?」
「おいコラッ! お父さんと呼ぶな! しかも、こんな人前で!」
「おや、クラウスは本当に照れ屋さんだねえ」
「テオ! 俺は別に照れてるわけじゃないんだぞ!」
シルヴァンとバスケをしていた五名の子ども達はきょとんとして、
突然登場したクラウスとテオを交互に見ていた。
子ども達は皆シルヴァンより年下で、小学生か中学生くらいに見えた。
浅黒い肌の子どもがシルヴァンに尋ねる。
「おい、シルヴァン。その二人、知り合いか?」
「ええ、まあ。お二人も学院の生徒で、僕の先輩です」
「へえ。そっちもマージナルプリンスか。シルヴァンとは全然、雰囲気違うけど」
「あははっ。それは僕のほうが珍しいタイプなんですよ」
子ども好きなテオが前へ進み出て、シルヴァンに尋ねた。
「この可愛い子達はみんな、シルヴァンのお友達なのだね?」
「はい。先週、ここで会ったばかりですけど、僕達バスケ仲間なんです」
「そうか。それでは私も自己紹介させて貰おうかな。
こんにちは。私もシルヴァンの友達でね? 私の名前はテオだよ。
そして、こちらはクラウスと言うんだ。よろしくね、みんな」
「おう」
「お前は、いいヤツっぽいな」
「俺はジョニー! よろしくな、テオ!」
「テオはバスケできるのか!?」
五人の子ども達は次々と名乗り始めた。
テオはあっと言う間に囲まれ、質問攻めに合っていた。
輪の外に立っているのは、シルヴァンとクラウスだけだ。
二人の目が合い、シルヴァンが口を開いた。
「ええと、それで、どうしたんですか? こんなところで」
「買い物の帰り、テオが車の窓からお前の姿が見えたと言うから、来たんだ」
「おや。テオと二人きりでお買い物デートだったんですか。仲が良いですねえ」
「違う! ただの買い物だ。俺は付き合わされただけで!」
「フフッ。それで、僕を見かけたと言われて、
僕のことが心配になったんですか? 本当にお父さんは心配性ですねえ」
「だから、俺をその呼び方で呼ぶな」
「でも、丁度良かったです。僕、クラウスにお伝えしたいことがあって」
「何だ?」
「僕、今夜、アイヴィーの家にお泊まりしますから」
「なっ……またかっ!?」
クラウスの大きな声で、子ども達の肩が一斉にビクッと跳ねた。
テオが、大丈夫だよと子ども達を宥めている。
シルヴァンは全く怯えた様子なく会話を続けていた。
「はいっ。それで、外泊届だかを書いていないので、
またお手数お掛けしますが、代わりにその手続きを……」
「許さんっ!」
「えー。どうしてですかー?」
「お前なあっ! 入学してまだ日も浅いのに、そう何度も何度も外泊するな!
寮があるんだから、寮で寝れば良いだろう!」
「でも、アイヴィーの家のほうが落ち着……」
「落ち着く落ち着かないの問題じゃない。
聖アルフォンソ学院は全寮制なんだぞ。
わざわざ他の家に泊まって迷惑をかけるな!」
「アイヴィーは迷惑なんて思ってませんよー。ね、アイヴィー?」
「構うな、アイヴィー! こいつに迷惑だと、はっきり言ってやれ!」
「え……いやあ、俺は……」
シルヴァンとクラウスにそれぞれ別の答えを求められ、アイヴィーは困り果てた。
「えーっと、参ったな、こりゃ……」
困っているアイヴィーを見て、テオは思わず微笑んだ。
「フフッ。何やらまるで、アイヴィーの奪い合いのようだねえ」
「どこがだっ!?」
一人呑気なテオにクラウスが突っ込んだ。
「それに、さっきから気になっていたんだが、
何故、アイヴィーがここに居る? 勤務中じゃないのか?」
「ギクッ」
「……アイヴィー。自分の立場が解っているのか」
「い、いやあ……あの……ね。
ちょ……そんなコワイ顔すんなよ、クラウス」
「そうだよ、クラウス。貴方がそんな顔をするから、
この子達も怖がっているようだし」
そうテオに言われて、クラウスは初めて、
子ども達から怯えた視線を向けられていることに気付く。
言葉に詰まったクラウスは、意味無く咳払いをしていた。
「よし。とりあえずこの勝負、私に預けてみてはどうかな?」
テオからの謎の提案に、クラウスが首を捻る。
「……何の勝負を、どう預けろと言うんだ?」
「要するに、シルヴァンは今宵、アイヴィーの家に泊まりたいのだろう?」
「え? はい」
「だが、クラウスはそれを止めたい。シルヴァンの家である、
ウーティス寮で眠って欲しいと願っている。そうだろう?」
「ああ。そうだが」
「ならば、シルヴァンとクラウスが勝負をして、
勝ったほうの言うことを聞く、というのはどうかな?」
「どうやって勝負するんだ?」
「おや、それを聞くのかい? ここにはバスケットコートがあるのだから、
勝負はもちろんバスケットボールだよ。シルヴァンとクラウスの一対一だから、
ワン・オン・ワンになるね。ルールは10点先取したほうが勝ち、でどうかな?」
「わお! じゃあ、僕がクラウスに勝てば今夜はお泊まりして良いんですね!
クラウスともバスケができるし、それって最高じゃないですか!
テオってスゴイです! ありがとうございます、テオ!」
「フフッ。お礼を言うのは私のほうだよ。
これほど貴重な名勝負を、最前列で見られるのだから」
「お前達、何を勝手に!」
「おや、クラウス。どんなスポーツも得意な貴方なら、
きっとシルヴァンにも勝てるだろうと思ったのだけど?
まさか、自ら勝負を降りるつもりかい? それとも、彼に勝つ自信がないのかな?」
「クッ……テオ、お前……」
「フフッ。たまにはストリートバスケも良いじゃないか、クラウス。
第一、私達が乱入したせいで、せっかくの試合を止めてしまったのだし。
この場を盛り上げる為にも最良の方法だと、自負しているのだけどね、私は」
子ども達のお願いするような視線がクラウスに突き刺さる。
「……おい、シルヴァン! 10点取ったら終わりだからなっ!
俺が勝ったら、今日は大人しく寮に帰るんだぞっ!」
「はーいっ!」
シルヴァンとクラウスがバスケットコートに立つ。
近所の子ども達はシルヴァンを応援し始めた。
フェンスに背を預けて立っているテオの側に、アイヴィーが来る。
「マジで大したもんだよ、お前さんは」
「いや何。私は、私と皆が一番楽しめることを提案をしただけだよ」
「その提案のおかげで俺もイロイロ助かったよ。サンキュな、テオ」
「あははっ。先程はアイヴィーの奪い合いになっていたからねえ。
流石は人気ドライバーのアイヴィーだ」
バスケットコートでは、シルヴァンがコイントスで攻守を決めようとしている。
「では、コイントスで勝ったほうが、先攻にしましょうか。
お先にどうぞ、クラウス。表と裏、どちらにします?」
クラウスは間髪入れず答えた。
「表」
「奇遇ですね。僕は裏にしようと思っていたところです」
「……さっさとコインを投げろ」
「はーい。それじゃ、お待たせしました、皆さん。
行っきますよー! そーれっ!」
皆の視線がコインと一緒に空を向く。
コインは太陽の光を浴びながら、宙を舞った。
→
日曜の午後。天気は良く、気持ちの良い風が吹いている。
聖アルフォンソ学院の正門前に、タクシーが一台停まっていた。
ドライバーはこの車の持ち主、アイヴィー。
後部座席には、先日学院に入った新入生が座っている。
入学初日早々の外泊で一躍有名になった、高等部一年のシルヴァンだ。
ちなみにその外泊先はアイヴィーの自宅だった。
以来、シルヴァンには、すっかり懐かれてしまったようで、
しょっちゅう、こうして車を呼び出されている。
アイヴィーはルームミラーで後部座席を見ながら、
「で、今日はどこまで行くんだー?」
「今日は、旧市街の公園までお願いしまーす」
「公園ってドコのよ?」
「ええっとー、バスケットコートがあるところなんですけどー」
「ああ、あの古い公園か」
ドライバーは旧市街に向かって車を出発させながら、
「なんでまた、そんなトコに用があんだ?」
「先週、その辺を歩いていた時に、近所の子達がバスケをしてたんです。
それを見ていたら、なんだか懐かしくなりましてね。
僕も仲間に入れて貰ったら、仲良くなっちゃいまして。
また来週も来いよ、って誘われちゃったんですー」
「ったく、お前さんの社交性の高さには呆れるわ」
「そんなに褒められると照れちゃいますー」
「褒めてねーよ」
「ねえ、今日はアイヴィーも一緒にバスケしませんか?」
「おいおい。俺まで巻き込むなよ」
「アイヴィーも実はバスケ得意でしょ? 苦手なスポーツ、なさそうですもんね?」
「若いお前さん達相手じゃ敵わねーよ」
「でも、僕と一緒なら、胸張ってお仕事サボれるんじゃないですか?」
「……なんだよ、そのアクマの囁きは」
「ココロが揺れ動いちゃいました?
あ、それから僕、今夜は貴方の家に泊まる予定ですから」
「あっそ……って、また泊まんのかよっ!?」
「もし、他の誰かさんがお泊まりする予定なら仕方ないですけど。
誰も来ないなら、僕が居てもイイですよね?」
「……ったく。どうしようもない問題児が入ったもんだな」
「おやおや。今日は僕のことベタ褒めですね?」
「だから、一個も褒めてないっての!」
その約一時間後。違うタクシーに二人の生徒が乗っていた。
こちらの後部座席に座っているのは、高等部三年のクラウスと高等部二年のテオだ。
日曜日に街で買い物をしたかったテオが、強引にクラウスを連れ出したのである。
市街地での買い物を終えたあとは、テオがアイスクリームの販売車を見つけ、
広場でアイスクリームを食べたりもした。
甘いものが苦手なクラウスが頼んだのはアイスコーヒーだったが。
その後「旧市街のケーキ屋さんで寮へのお土産を買おう」
とテオが言い出した為、二人を乗せた車は旧市街を走っていた。
「おや?」
窓の外を見ながら、テオがそう呟いた。腕を組んで座っているクラウスが尋ねる。
「どうした?」
「今、公園でバスケットボールをしていたの、
うちのワイルドボーイじゃないかなあと思って」
その名を聞いた途端、クラウスは反射的に苦い顔になった。
「……ワイルドボーイって、シルヴァンのことか?」
「うん。入学初日から、貴方を翻弄しているワイルドボーイだよ?」
「あいつ、またフラフラ出歩いて……」
クラウスは運転席を掴みながら、
「すまないが、車を戻してくれないか。その公園に行ってくれ!」
バスケットコートは高いフェンスに囲まれた中にあった。
周りに幾つかベンチがある程度で、公園と言うには随分寂れたところだ。
フェンスは錆びた緑色で、ペンキは剥げ、黒っぽい中身が見え隠れしている。
コートの白いラインもかなり擦り切れ、ラインは途切れ途切れになっていた。
フェンスがドアのように開く場所には、とっくに壊れた鍵がぶら下がっている。
「旧市街にこんな場所があったのか」
クラウスは眉を顰めていたが、テオは物珍しそうにキョロキョロしていた。
「昔の映画に出てきそうな場所だねえ。強いギャングがここで決闘しそうだ」
二人がフェンスのドアを開けて入ってくる。
最初に気付いたのは、ベンチで一服しながら見学していたアイヴィーだった。
「ありゃ? なんで……」
すると、シルヴァンも気付いてこう叫んだ。
「あ! お父さん! とテオも! どうしたんですか?」
「おいコラッ! お父さんと呼ぶな! しかも、こんな人前で!」
「おや、クラウスは本当に照れ屋さんだねえ」
「テオ! 俺は別に照れてるわけじゃないんだぞ!」
シルヴァンとバスケをしていた五名の子ども達はきょとんとして、
突然登場したクラウスとテオを交互に見ていた。
子ども達は皆シルヴァンより年下で、小学生か中学生くらいに見えた。
浅黒い肌の子どもがシルヴァンに尋ねる。
「おい、シルヴァン。その二人、知り合いか?」
「ええ、まあ。お二人も学院の生徒で、僕の先輩です」
「へえ。そっちもマージナルプリンスか。シルヴァンとは全然、雰囲気違うけど」
「あははっ。それは僕のほうが珍しいタイプなんですよ」
子ども好きなテオが前へ進み出て、シルヴァンに尋ねた。
「この可愛い子達はみんな、シルヴァンのお友達なのだね?」
「はい。先週、ここで会ったばかりですけど、僕達バスケ仲間なんです」
「そうか。それでは私も自己紹介させて貰おうかな。
こんにちは。私もシルヴァンの友達でね? 私の名前はテオだよ。
そして、こちらはクラウスと言うんだ。よろしくね、みんな」
「おう」
「お前は、いいヤツっぽいな」
「俺はジョニー! よろしくな、テオ!」
「テオはバスケできるのか!?」
五人の子ども達は次々と名乗り始めた。
テオはあっと言う間に囲まれ、質問攻めに合っていた。
輪の外に立っているのは、シルヴァンとクラウスだけだ。
二人の目が合い、シルヴァンが口を開いた。
「ええと、それで、どうしたんですか? こんなところで」
「買い物の帰り、テオが車の窓からお前の姿が見えたと言うから、来たんだ」
「おや。テオと二人きりでお買い物デートだったんですか。仲が良いですねえ」
「違う! ただの買い物だ。俺は付き合わされただけで!」
「フフッ。それで、僕を見かけたと言われて、
僕のことが心配になったんですか? 本当にお父さんは心配性ですねえ」
「だから、俺をその呼び方で呼ぶな」
「でも、丁度良かったです。僕、クラウスにお伝えしたいことがあって」
「何だ?」
「僕、今夜、アイヴィーの家にお泊まりしますから」
「なっ……またかっ!?」
クラウスの大きな声で、子ども達の肩が一斉にビクッと跳ねた。
テオが、大丈夫だよと子ども達を宥めている。
シルヴァンは全く怯えた様子なく会話を続けていた。
「はいっ。それで、外泊届だかを書いていないので、
またお手数お掛けしますが、代わりにその手続きを……」
「許さんっ!」
「えー。どうしてですかー?」
「お前なあっ! 入学してまだ日も浅いのに、そう何度も何度も外泊するな!
寮があるんだから、寮で寝れば良いだろう!」
「でも、アイヴィーの家のほうが落ち着……」
「落ち着く落ち着かないの問題じゃない。
聖アルフォンソ学院は全寮制なんだぞ。
わざわざ他の家に泊まって迷惑をかけるな!」
「アイヴィーは迷惑なんて思ってませんよー。ね、アイヴィー?」
「構うな、アイヴィー! こいつに迷惑だと、はっきり言ってやれ!」
「え……いやあ、俺は……」
シルヴァンとクラウスにそれぞれ別の答えを求められ、アイヴィーは困り果てた。
「えーっと、参ったな、こりゃ……」
困っているアイヴィーを見て、テオは思わず微笑んだ。
「フフッ。何やらまるで、アイヴィーの奪い合いのようだねえ」
「どこがだっ!?」
一人呑気なテオにクラウスが突っ込んだ。
「それに、さっきから気になっていたんだが、
何故、アイヴィーがここに居る? 勤務中じゃないのか?」
「ギクッ」
「……アイヴィー。自分の立場が解っているのか」
「い、いやあ……あの……ね。
ちょ……そんなコワイ顔すんなよ、クラウス」
「そうだよ、クラウス。貴方がそんな顔をするから、
この子達も怖がっているようだし」
そうテオに言われて、クラウスは初めて、
子ども達から怯えた視線を向けられていることに気付く。
言葉に詰まったクラウスは、意味無く咳払いをしていた。
「よし。とりあえずこの勝負、私に預けてみてはどうかな?」
テオからの謎の提案に、クラウスが首を捻る。
「……何の勝負を、どう預けろと言うんだ?」
「要するに、シルヴァンは今宵、アイヴィーの家に泊まりたいのだろう?」
「え? はい」
「だが、クラウスはそれを止めたい。シルヴァンの家である、
ウーティス寮で眠って欲しいと願っている。そうだろう?」
「ああ。そうだが」
「ならば、シルヴァンとクラウスが勝負をして、
勝ったほうの言うことを聞く、というのはどうかな?」
「どうやって勝負するんだ?」
「おや、それを聞くのかい? ここにはバスケットコートがあるのだから、
勝負はもちろんバスケットボールだよ。シルヴァンとクラウスの一対一だから、
ワン・オン・ワンになるね。ルールは10点先取したほうが勝ち、でどうかな?」
「わお! じゃあ、僕がクラウスに勝てば今夜はお泊まりして良いんですね!
クラウスともバスケができるし、それって最高じゃないですか!
テオってスゴイです! ありがとうございます、テオ!」
「フフッ。お礼を言うのは私のほうだよ。
これほど貴重な名勝負を、最前列で見られるのだから」
「お前達、何を勝手に!」
「おや、クラウス。どんなスポーツも得意な貴方なら、
きっとシルヴァンにも勝てるだろうと思ったのだけど?
まさか、自ら勝負を降りるつもりかい? それとも、彼に勝つ自信がないのかな?」
「クッ……テオ、お前……」
「フフッ。たまにはストリートバスケも良いじゃないか、クラウス。
第一、私達が乱入したせいで、せっかくの試合を止めてしまったのだし。
この場を盛り上げる為にも最良の方法だと、自負しているのだけどね、私は」
子ども達のお願いするような視線がクラウスに突き刺さる。
「……おい、シルヴァン! 10点取ったら終わりだからなっ!
俺が勝ったら、今日は大人しく寮に帰るんだぞっ!」
「はーいっ!」
シルヴァンとクラウスがバスケットコートに立つ。
近所の子ども達はシルヴァンを応援し始めた。
フェンスに背を預けて立っているテオの側に、アイヴィーが来る。
「マジで大したもんだよ、お前さんは」
「いや何。私は、私と皆が一番楽しめることを提案をしただけだよ」
「その提案のおかげで俺もイロイロ助かったよ。サンキュな、テオ」
「あははっ。先程はアイヴィーの奪い合いになっていたからねえ。
流石は人気ドライバーのアイヴィーだ」
バスケットコートでは、シルヴァンがコイントスで攻守を決めようとしている。
「では、コイントスで勝ったほうが、先攻にしましょうか。
お先にどうぞ、クラウス。表と裏、どちらにします?」
クラウスは間髪入れず答えた。
「表」
「奇遇ですね。僕は裏にしようと思っていたところです」
「……さっさとコインを投げろ」
「はーい。それじゃ、お待たせしました、皆さん。
行っきますよー! そーれっ!」
皆の視線がコインと一緒に空を向く。
コインは太陽の光を浴びながら、宙を舞った。
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