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■ソクーロフ×アイヴィー +ジョシュア 長編
■カーシャ様、大変遅くなり申し訳ございません。
リクエストありがとうございました!
※全13話、毎日0時更新を予定しています。
アイヴィーがそのニュースを知ったのは、ベッドの中だった。
休日は遅めに起きる、というポリシーがあるにも関わらず、
その朝は、目が覚めてしまった。それに、なんだか頭が重い。
スマートフォンで時計を見て、まだ早い時刻にがっかりしたあと、
ベッドから出るのがイヤで、メールをチェックしたり、
ニュースサイトを人差し指で流し読みしたりしていた。
朝のニュースチェックは、アイヴィーの日課のひとつだが、
いつからかニュース媒体は新聞やテレビではなくなっていた。
アイヴィーが利用しているのはもっぱらウェブで、
最近ではパソコンからスマートフォンへ移行しつつある。
政治に経済、スポーツ、芸能人のゴシップまで。
起き抜けにブランケットにくるまったままでも、世界中の情報が手の中に集まる。
便利か不便かで言えば、きっとベンリな時代なんだろう。
スルスルとニュースを滑らせていると、目に留まる文字があった。
<グラント家当主、襲撃される>
アイヴィーは、その文字をタップして、人差し指と親指で画面を拡大した。
そこには次のようなニュースが書かれていた。
――ヨーロッパ屈指の財閥グラント家の当主、
ネイサン・グラント氏が何者かに襲われた。
夜中の帰宅時、棒状の鈍器で頭部を殴打され、
傍に居た秘書も負傷。二名は病院にて治療中。
ロンドン警察が犯人の行方を追っている。
グラント家はヨーロッパ最大の財閥で敵も多い。
代々、男系の子孫のみが家督を相続し、現在の当主はネイサン氏。
血筋上では甥のジョシュア・グラント氏が後継ぎにあたるが、
ジョシュア氏は先日、ロレート公国の第一王子として正式に認定された為、
事実上、グラント家の後継ぎ争いからは除外されたと言える。
しかし今、ネイサン氏に何かあれば、ジョシュア氏が、
グラント当主の座に返り咲く可能性も否定できない状況か――
日付を見ると、襲撃事件が起こったのは昨日の夜。
ニュースがアップされたのは今朝のようだ。
アイヴィーは関連記事を探してみたが、まだ第一報のようで、
それ以上の情報が載っている記事は見当たらなかった。
明るい液晶画面から一度目を離し、ベッドの中から天井を見上げる。
そこには何も書かれていない。ただ真っ白な板があるだけ。
右手の中にあるスマートフォンを軽く握り締める。
「……ったく、休みの朝に相応しいニュースだなあ」
いつでもどこでも手の中に情報が集まる。本当にフベンな時代になったものだ。
まだ目覚めきっていない頭で、どうすべきかを無理矢理考え始めようとした時、
足音が近付いてくるのに気付いた。俺の家に誰か居るのか、
と思うのと同時に、その人物が顔を見せた。
「どうしてお前の家には、インスタントのコーヒーしかないんだ?」
その人が手にしている白いカップからはコーヒーの良い香りがした。
普段はひとつに結わえている長い髪は下ろしたままだったが、
眼鏡は既にかけていた。着ているのは、昨日の白いワイシャツにグレイのスボン。
ネクタイをしていない首許は、白過ぎる鎖骨が見え隠れしていた。
目が合うと、とても冷たい目で見られた。
「まだダラダラしていたのか。さっさと起きろ。お前は休日でも私は平日なんだ。
今日は火曜日なんだからな。30分後に出発する。学院まで送れ」
「……ソクーロフ、居たんだ?」
「何を寝ぼけている。昨夜、『明日は休みだから』と、
私を家まで連れてきたのはお前だろう?」
「……あ、ああ、うん。そーだったカモ」
おぼろげに昨夜の記憶が甦る。
一週間の中で、『明日は休みという夜』が一番好きなアイヴィーは、
ソクーロフを誘って旧市街で夕食をとったあと、
スーパーで酒を買って、そのまま自宅へと連れてきた。
家で飲むと、車で送れなくなってしまうので、ソクーロフは泊まることになる。
今まで何度となく繰り返してきた、おうち飲みコースだ。
ソクーロフは手にしているコーヒーを、またひと口飲みながら、
「いい加減、もっと良いコーヒーを買ったらどうなんだ?」
「俺はそれがスキなのー!」
アイヴィーはガバッと身を起こす。
「文句言うなら飲まなきゃイイじゃん! 水もあったでしょ!?」
「私は朝はコーヒーと決めている。お前の家にこれしかないのが悪いんだろう?」
「俺は悪くないー! ……って、そんなことやってる場合じゃないんだった。
ソクちゃんも居るなら丁度イイや。ねえ、コレちょっと見てよ」
スマートフォンを差し出し、先程のニュースを見せた。
ソクーロフはそれに目を通し、アイヴィーに返すまでの間、終始無言だった。
アイヴィーはベッドの上に座ったまま、ソクーロフを見上げる。
「ソクーロフ先生、ご感想は?」
「勇気ある犯人だな。『闇の家系』の当主を狙うとは」
「まあね」
ヨーロッパ最大の財閥、グラント家。ジョシュアの母親の生家だ。
グラントは各地にネットワークを持ち、国家をまるごと、
支配している場合もあると囁かれる程、得体の知れない勢力を持った財閥だ。
しかし、メディアにも力を持っている為、その支配は表には現れない。
グラント一族は関わるもの全てを呑み込む、闇の家系。
実際、聖アルフォンソ学院の長い歴史を紐解けば、
グラントに国を追われ、学院に逃げてきた生徒も少なくないという。
ロレート公国の前大公は、ロレートの王子エドワードと、
グラント家の令嬢であるクリスティーナの結婚に反対していた。
結婚を反対されたエドワードは、王位を捨てて駆け落ちする。
それが散々メディアに踊った『王位を懸けた恋』だ。
しかし、闇の家系だったから反対された、という報道は一切なく、
ただ、今世紀最大のロミオとジュリエットだということだけが騒ぎ立てられた。
「闇の歴史を担う当主を襲撃するとは、それほどグラントが憎いのか、
あるいは他に、何か別の意図があるのか」
「どんな?」
「私が知るか。犯人に聞け」
「ハイハイ。で、どうしよ? コレ」
アイヴィーはニュースが載ったスマートフォンを振ってみせる。
聖アルフォンソ学院の警備組織として、
自分達はどう動くべきだろうか、という相談だった。
ソクーロフの返事はアイヴィーの予想通り冷たかった。
「お前の仕事だろう。自分で考えろ」
「ジョシュアには、まだ知らせなくて良いかな?」
アイヴィーが気にしているのは、そこだった。
ジョシュアに知らせれば、心を傷付けるのは間違いない。
しかし、今やジョシュアは生徒代表だ。
事件がすぐに解決しないようなら、生徒代表とも相談の上で、
島の警備強化をする必要が出てくるかもしれない。
でも、ロンドン警察が、あっと言う間に犯人を逮捕してくれるかもしれない。
いつかはジョシュアに知らせる必要があっても、
できるだけ遅く知らせてやりたいし、できるなら知らせたくない。
その判断は、司令官として誤っているだろうか。
アイヴィーはソクーロフを見上げる。
ソクーロフはコーヒーに口付けたあと呟いた。
「キナ臭い話はお前のところで止める。それが仕事だろう?」
「……うん。ありがと」
そうと決まれば、まずは電話だ。
アイヴィーはスマートフォンを耳に当てた。
→
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■カーシャ様、大変遅くなり申し訳ございません。
リクエストありがとうございました!
※全13話、毎日0時更新を予定しています。
アイヴィーがそのニュースを知ったのは、ベッドの中だった。
休日は遅めに起きる、というポリシーがあるにも関わらず、
その朝は、目が覚めてしまった。それに、なんだか頭が重い。
スマートフォンで時計を見て、まだ早い時刻にがっかりしたあと、
ベッドから出るのがイヤで、メールをチェックしたり、
ニュースサイトを人差し指で流し読みしたりしていた。
朝のニュースチェックは、アイヴィーの日課のひとつだが、
いつからかニュース媒体は新聞やテレビではなくなっていた。
アイヴィーが利用しているのはもっぱらウェブで、
最近ではパソコンからスマートフォンへ移行しつつある。
政治に経済、スポーツ、芸能人のゴシップまで。
起き抜けにブランケットにくるまったままでも、世界中の情報が手の中に集まる。
便利か不便かで言えば、きっとベンリな時代なんだろう。
スルスルとニュースを滑らせていると、目に留まる文字があった。
<グラント家当主、襲撃される>
アイヴィーは、その文字をタップして、人差し指と親指で画面を拡大した。
そこには次のようなニュースが書かれていた。
――ヨーロッパ屈指の財閥グラント家の当主、
ネイサン・グラント氏が何者かに襲われた。
夜中の帰宅時、棒状の鈍器で頭部を殴打され、
傍に居た秘書も負傷。二名は病院にて治療中。
ロンドン警察が犯人の行方を追っている。
グラント家はヨーロッパ最大の財閥で敵も多い。
代々、男系の子孫のみが家督を相続し、現在の当主はネイサン氏。
血筋上では甥のジョシュア・グラント氏が後継ぎにあたるが、
ジョシュア氏は先日、ロレート公国の第一王子として正式に認定された為、
事実上、グラント家の後継ぎ争いからは除外されたと言える。
しかし今、ネイサン氏に何かあれば、ジョシュア氏が、
グラント当主の座に返り咲く可能性も否定できない状況か――
日付を見ると、襲撃事件が起こったのは昨日の夜。
ニュースがアップされたのは今朝のようだ。
アイヴィーは関連記事を探してみたが、まだ第一報のようで、
それ以上の情報が載っている記事は見当たらなかった。
明るい液晶画面から一度目を離し、ベッドの中から天井を見上げる。
そこには何も書かれていない。ただ真っ白な板があるだけ。
右手の中にあるスマートフォンを軽く握り締める。
「……ったく、休みの朝に相応しいニュースだなあ」
いつでもどこでも手の中に情報が集まる。本当にフベンな時代になったものだ。
まだ目覚めきっていない頭で、どうすべきかを無理矢理考え始めようとした時、
足音が近付いてくるのに気付いた。俺の家に誰か居るのか、
と思うのと同時に、その人物が顔を見せた。
「どうしてお前の家には、インスタントのコーヒーしかないんだ?」
その人が手にしている白いカップからはコーヒーの良い香りがした。
普段はひとつに結わえている長い髪は下ろしたままだったが、
眼鏡は既にかけていた。着ているのは、昨日の白いワイシャツにグレイのスボン。
ネクタイをしていない首許は、白過ぎる鎖骨が見え隠れしていた。
目が合うと、とても冷たい目で見られた。
「まだダラダラしていたのか。さっさと起きろ。お前は休日でも私は平日なんだ。
今日は火曜日なんだからな。30分後に出発する。学院まで送れ」
「……ソクーロフ、居たんだ?」
「何を寝ぼけている。昨夜、『明日は休みだから』と、
私を家まで連れてきたのはお前だろう?」
「……あ、ああ、うん。そーだったカモ」
おぼろげに昨夜の記憶が甦る。
一週間の中で、『明日は休みという夜』が一番好きなアイヴィーは、
ソクーロフを誘って旧市街で夕食をとったあと、
スーパーで酒を買って、そのまま自宅へと連れてきた。
家で飲むと、車で送れなくなってしまうので、ソクーロフは泊まることになる。
今まで何度となく繰り返してきた、おうち飲みコースだ。
ソクーロフは手にしているコーヒーを、またひと口飲みながら、
「いい加減、もっと良いコーヒーを買ったらどうなんだ?」
「俺はそれがスキなのー!」
アイヴィーはガバッと身を起こす。
「文句言うなら飲まなきゃイイじゃん! 水もあったでしょ!?」
「私は朝はコーヒーと決めている。お前の家にこれしかないのが悪いんだろう?」
「俺は悪くないー! ……って、そんなことやってる場合じゃないんだった。
ソクちゃんも居るなら丁度イイや。ねえ、コレちょっと見てよ」
スマートフォンを差し出し、先程のニュースを見せた。
ソクーロフはそれに目を通し、アイヴィーに返すまでの間、終始無言だった。
アイヴィーはベッドの上に座ったまま、ソクーロフを見上げる。
「ソクーロフ先生、ご感想は?」
「勇気ある犯人だな。『闇の家系』の当主を狙うとは」
「まあね」
ヨーロッパ最大の財閥、グラント家。ジョシュアの母親の生家だ。
グラントは各地にネットワークを持ち、国家をまるごと、
支配している場合もあると囁かれる程、得体の知れない勢力を持った財閥だ。
しかし、メディアにも力を持っている為、その支配は表には現れない。
グラント一族は関わるもの全てを呑み込む、闇の家系。
実際、聖アルフォンソ学院の長い歴史を紐解けば、
グラントに国を追われ、学院に逃げてきた生徒も少なくないという。
ロレート公国の前大公は、ロレートの王子エドワードと、
グラント家の令嬢であるクリスティーナの結婚に反対していた。
結婚を反対されたエドワードは、王位を捨てて駆け落ちする。
それが散々メディアに踊った『王位を懸けた恋』だ。
しかし、闇の家系だったから反対された、という報道は一切なく、
ただ、今世紀最大のロミオとジュリエットだということだけが騒ぎ立てられた。
「闇の歴史を担う当主を襲撃するとは、それほどグラントが憎いのか、
あるいは他に、何か別の意図があるのか」
「どんな?」
「私が知るか。犯人に聞け」
「ハイハイ。で、どうしよ? コレ」
アイヴィーはニュースが載ったスマートフォンを振ってみせる。
聖アルフォンソ学院の警備組織として、
自分達はどう動くべきだろうか、という相談だった。
ソクーロフの返事はアイヴィーの予想通り冷たかった。
「お前の仕事だろう。自分で考えろ」
「ジョシュアには、まだ知らせなくて良いかな?」
アイヴィーが気にしているのは、そこだった。
ジョシュアに知らせれば、心を傷付けるのは間違いない。
しかし、今やジョシュアは生徒代表だ。
事件がすぐに解決しないようなら、生徒代表とも相談の上で、
島の警備強化をする必要が出てくるかもしれない。
でも、ロンドン警察が、あっと言う間に犯人を逮捕してくれるかもしれない。
いつかはジョシュアに知らせる必要があっても、
できるだけ遅く知らせてやりたいし、できるなら知らせたくない。
その判断は、司令官として誤っているだろうか。
アイヴィーはソクーロフを見上げる。
ソクーロフはコーヒーに口付けたあと呟いた。
「キナ臭い話はお前のところで止める。それが仕事だろう?」
「……うん。ありがと」
そうと決まれば、まずは電話だ。
アイヴィーはスマートフォンを耳に当てた。
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