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Marginal Prince Short Story
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闇の家系01 続編
アイヴィーが最初に電話をかけたのは、聖アルフォンソ島の警備組織。
自分の勤め先である。アイヴィーはそこの司令官を任されていた。

「お疲れさまです。アイヴィーですけど、クロちゃん居るかな? はーい。
あ、クロちゃん? おはよ。うん、休みなんだけど、
さっきヤなニュース見ちゃってさ。グラント家当主襲撃事件ってやつ、見た?

あ、まだ? いや、今朝のニュースみたいだからしょうがないよ。
俺もさっきたまたま見てさ。じゃあ悪いけど、ちょっと調べといてくれる?
それから、警備のみんなには、このこと知らせといて? うん、ゴメンね。
で、今んトコ、島は異常なし?

そっか。うん。そのほうがイイかもしんないね、念の為。
あっ、それからさ。この話、詳しいこと解るまで、ジョシュアにはオフレコで。
うん。必要になったら知らせるけど、まだイイかなって。どうかな?
ありがと。じゃ、それだけお知らせでしたっ。あとはヨロシクです。
何か困ったことあったら電話ちょーだい? うん。じゃあねー」

副司令官との電話を終えたあと、アイヴィーはすぐに次の場所へ電話をかけた。
次は聖アルフォンソ学院の第一学生寮である。

「あ、もしもし、バトラー? あ、アイヴィーです、おはよーございます。
忙しい時間に電話してゴメンね。あのさ、ソッチにジョシュア居る?

うわーゴメン違う違う! 電話代わって欲しいわけじゃないんだ!
ただ、ジョシュアが寮に居るか確認したかっただけ。

そ。居るなら良いんだ。ありがとね。え? ああ、うん。
バトラーには知らせとこうかな。でも、ジョシュアには言わないでね?」

アイヴィーはウーティス寮のバトラーにも事件の内容を伝え、
ジョシュア本人がテレビなどで事件を知ったようなら、
こっそりこちらに教えて欲しいと頼み、電話を切った。

「ま。とりあえずは、こんなモンかな」

アイヴィーは深く息を吐く。電話している間、
コーヒーを飲みながら、ずっとこちらを見ていた人を見上げる。

「……そんなにジーッと見なくてもイイじゃん」

「私の視線が気になって仕方がないと」

「言ってません!」

「連絡が済んだのなら早く着替えろ。そんな格好で私を送るつもりか?」

アイヴィーは自分の格好を見る。
昨日着ていたブルーのワイシャツを羽織っている、だけだった。
ワイシャツは寝乱れて皺くちゃ。ボタンは全て開いていた。
アイヴィーは、途端に顔が赤くなる。
ブランケットを引き寄せ、晒されていた素肌を覆う。ソクーロフは微笑した。

「滑稽だったぞ? その淫らな姿で、真面目に仕事の電話をしている姿は」

「そ、そーゆーことは電話する前に言ってよっ!」

「いいから、さっさと着替えろ」

「俺はアンタのシモベかよ!?」

「違ったか?」

「ちーがーいーまー!」

言い終わる前にスマートフォンが鳴った。

「また電話か。人気者だな、私のシモベは」

「シモベじゃないー!」

アイヴィーはスマートフォンを手に取る。
ディスプレイには、珍しい名前が表示されていた。

「わ。すっごいトコから、かかってきてるな。もしもーし?」

「いつも大変お世話になっております。
わたくし、ロレート大公家にお仕えしております、
ラルヴィス・レイナと申します。
こちらはアイヴィー様の携帯電話でお間違いないでしょうか?」

「ハ、ハイ」

「お忙しいところ申し訳ございません。
只今、少々お時間頂戴しても宜しいでしょうか」

「ヨロシイです。ってゆうか、俺相手にそんな固い挨拶なんて、
しなくてイイのに。久し振りだね、ラルちゃん」

「はい。ご無沙汰しております、アイヴィー様、あの」

「グラント当主が襲われた事件の話、かな?」

「はい……アイヴィー様もご存知でしたか。
あの、殿下はご無事でいらっしゃいますでしょうか。
何か島で不審なことなどはございませんか?」

「大丈夫だよ、今のところは。俺も確認したけど、
ジョシュアはさっき起きたところだって。元気だよ」

「殿下はご無事でしたか。安心致しました」

「でも、ジョシュアには話してないんだ、この件。まだ知らないと思うし。
状況次第では、本人と話して、警備の打ち合わせとかしなきゃだけど、
それまでは、できるだけ、うちの警備の間で処理するつもり」

「左様でございましたか。お心遣い、ありがとうございます。
もし、私共でお役に立てることがございましたら、お申し付け下さい。
ロレート公国大公家は、全面的に聖アルフォンソ学院に協力致します。
皆様のお邪魔でさえなければ、いつなりともお呼び下さい。
わたくし自身も、殿下の警備に駆け付ける許可は、陛下より頂いております」

「うわ、ありがと。ラルちゃんにそう言って貰えると心強いよ。
でも、今のところはダイジョブ。もし、ソッチに、
協力して欲しいこと出てきたら、お電話しちゃうかもしれないけど」

「ええ。その際には、何なりとお申し付け下さい。
では、本日はこれで失礼させて頂きます」

「うん。またね、ラルちゃん。わざわざ連絡くれてありがと」

「いえ。お忙しいところお時間を頂き、ありがとうございました。
今後とも殿下のこと、どうぞ宜しくお願い致します。失礼致します」

アイヴィーはスマートフォンを耳から離して、電話を切った。
ソクーロフが目を合わせてくる。

「ロレートの国王側近から、お前の携帯電話に直接電話がかかってくるとはな」

「ま。何度か顔合わせるうちにね。ジョシュアもロレートの王子様になったことだし、
ラルちゃんとは番号交換しといたほうが、ベンリかなーと思ってさ。
あれ? もしかしてソクちゃん、ヤキモチさん?」

「側近の用件は、事件の知らせと、ジョシュア殿下の安否確認か?」

「と、協力できることがあればお申し付け下さいってさ。
ドコかのイジワルさんと違って、ラルちゃんってホンット丁寧な人だなー。
王様にお仕えしてると、みんな、ああなるのかねー?
ラルちゃんと話してると心が洗われるわー!」

ソクーロフは掛け時計を見上げる。

「そろそろ出るぞ。朝食に間に合わん。2秒で着替えろ」

「ムーリー!」


そう言いつつも、アイヴィーは素早く着替え、手櫛で髪をざっくり整えると、
ソクーロフをベントレーに乗せ、聖アルフォンソ学院へ向かった。
それは、保健室の先生かつカウンセラーを学院へ送り届ける為である。

アイヴィーには、とことん厳しく冷たいこのヒトが、
生徒達や島民の間では、優しくて親切な名医と評判の、
ソクーロフ博士だというのだから、納得できない。
特に、身体の弱い子ども達が多いシュヌーシア寮での人気は絶大だった。

ベントレーが大急ぎの安全運転で海沿いの道を走る中、
人気者のソクーロフ博士は、助手席から朝の海を見下ろしていた。
アイヴィーも運転席から海を眺めてみる。
朝方の海は、荒んだ心には眩し過ぎるくらい、美しいエメラルドグリーンをしていた。

「……連絡が来たのは、ロレートだけか」

唐突に呟かれた言葉。運転手は聞き返す。

「え? 何か言った?」

「ロレートはジョシュアを心配して、すぐに連絡を寄越してきたのに、
当事者のほうは、こちらに何も言ってこないんだな」

「当事者……グラントのこと?」

「ああ。ロレートよりグラントのほうが先に、
連絡を寄越せた筈だろう、当事者なのだからな」

「あ……そう、だね」

「ジョシュアの身を案じるなら、『ロンドンでこういう事件があったから、
島も警備強化して欲しい』などと言ってきても不思議はない。
しかし、ニュースになっても、こちらに何も言ってこないとはな」

アイヴィーはハンドルを握ったまま答える。

「まあ、当主が怪我して、てんやわんやしてるのかもしんないよ?
それにさ……俺も、あんまり、こういうこと言いたくないけど、
実はさ、別に珍しくないんだよ。外の世界で何があっても、
コッチには連絡がないってパターン? どっちかって言うと、
そのパターンのが多いくらいだったりするんだよね」

「そうか」

綺麗な海が背中に消えて行く。車は島の街並みの中に入っていった。
人通りはまばらで、誰かが犬と一緒に散歩をしているのが見えた。

「あっ。今日は俺も、教職員用の食堂で朝メシ食わせて貰おっかなー」

「お前も?」

「俺も学院の専属ドライバーなんだから権利くらいはあるでしょ?
シェフにお願いしてみよーっと。もし料理の用意がないって言われたら、
ソクちゃんの分けてね? あそこの料理ってウマイんでしょ、やっぱ?」

「誰がお前に恵んだりするものか」

「もう。ケーチー!」


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