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Marginal Prince Short Story
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■細か過ぎて伝わらない森番
夕暮れ時、微かに泣き声がした。森の奥からだ。

声がするほうへ向かってみると、
先月入学したばかりのラビ様が、
お一人で泣きじゃくっていらした。
私に気付いたラビ様は、涙で濡れた目で私を見上げた。

「あ、森番の……」

「はい。森番のバロウズでございます。
ラビ様、何があったのですか」

「あ、あのウサギさんが」

ラビ様は震える手で指をさした。

「急に、バタっと倒れて、動かなくて」

月桂樹の根元には、一匹のウサギが、
目を開けたまま、寝転がっていた。
黄金色の美しい毛並、垂れ下がった長い耳。
それは、エリザベスだった。

「し、死んじゃったの?」

私には一目でそうでないと知れたが、
念の為、失礼して、エリザベスのお腹を拝見する。
白いお腹は、やはり、ゆっくりと動いていた。

「大丈夫ですよ、ラビ様。
彼女は今、うたた寝しているのです」

「うたた寝? 眠ってるの?」

「はい。起きたばかりの時間帯ですから、
まだ眠たかったのでしょう。ウサギは夜行性ですから」

「でも、目、開いてるよ?」

「はい。外出時に休憩をとる際などは、
目を開けたまま眠ることがございます。
周囲には、眠っていないと見せかける為です」

「どうして?」

「動物の世界で、ウサギは弱い身の上でございますから、
外敵から身を守る為の知恵なのでしょう」

「じゃあ、ウサギさんって、
眠る時、いつも目、開けてるの?」

「いえ。安心できる寝床で眠る時は、
きちんと目を閉じて、眠りますよ」

「ふうん。そっか。ウサギさん、今、眠ってるだけなんだ。
突然、倒れたから僕ビックリしちゃった」

「驚かせてしまい、申し訳ございません。
エリザベスに代わり、深くお詫び申し上げます。
今後は生徒様を驚かせないよう、
私から彼女にご注意させて頂きますので」


空は白み、直に夜が明ける。
翌日の早朝、私はエリザベスに会いに行った。
彼女の巣穴は森の奥。そこだけ木が少なく、
夜には星が綺麗に見える場所だ。

夜行性のウサギは夕刻に目覚め、夜間に活動する。
夜明け前に寝床に戻り、日中は巣穴で眠っている。
無論、個体差やその日のご気分にもよるが、
大まかにはそのように一日を過ごされている。

エリザベスに会うには、彼女が起きた直後か、
眠る直前に、このご自宅へ伺うのが最善と言える。

私が会いに行った時、彼女はご在宅ではなかった。
月桂樹の下に腰を下ろし、少し待たせて頂いていると、
夜の散歩から戻った彼女が姿を見せた。

手土産に持参したタンポポをお見せすると、
彼女は私に飛びついてきた。
私の膝に乗ったまま、タンポポをお食べになった。

「エリザベス。今日は貴女にお話があって、
会いに参りました。昨日のことなのですが」

エリザベスはこちらを見向きもしない程、
一心にタンポポを召し上がっていた。

「お食事中に失礼しました。お話は後程に致しましょう」

エリザベスの温かい体温を膝で感じながら、
私は彼女のお食事が終わるのを待っていた。

お食事後、エリザベスは満足したように、
目を細めたりしていた。

「お口に合いましたか、エリザベス」

そっと背中を撫でる。黄金色の毛は柔らかく、心地好い。
このままゆっくり過ごしていたいと思いかけたが、
本日はご注意したいことがあったことを思い出した。

「ああ、そうでした。エリザベス。昨日、森で、
ラビ様にお会いしたのを覚えておいでですか?」

反応がない。

「エリザベス?」

手に当たる小さな背は、上下に動いている。
お顔を覗くと、エリザベスは目を閉じて眠っていた。


fin
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