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Marginal Prince Short Story
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■レッド×アンリ
■レッドのシナリオ若干
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「こんにちは。アンリ、居るかな?」

眼鏡の上級生は、切れ長な目を更に細めた。

聖アルフォンソ祭を1か月後に控えたある日。
ウーティス寮サロンに、見慣れぬ顔がやってきた。
訪れたのは上級生3名。
リーダー核らしい眼鏡の男が、小柄な双子を従えている。

眼鏡の生徒は、端整な顔立ちに、肩より長い金髪。
一応は優雅な振る舞いを身に付けてはいるものの、
どこか人を見下したような微笑が気に食わない、とレッドは思った。

サロンに居たのはレッド、シルヴァン、ハルヤのみ。
レッドが代表して答える。

「アンリなら部屋に居ると思うけど…あいつに何の用?」

上級生は眼鏡を押し上げて、意味ありげに微笑む。

「ちょっと、ね」

双子が、クククッと声を揃えて笑う。
若干高めの声が同時に聞こえた。
シンメトリーに口許を手で隠す。

ハルヤは小声でシルヴァンに尋ねる。

「何、この人達? なんかコワイし…」

「三名とも、大財閥のご子息ですよ。
眼鏡の方の子会社に当たるのが、双子の方の家だったと思います。
アンリより学年はひとつ上の筈ですが、何のご用でしょうね」

「え。シルヴァン、知ってる人?」

「いえ。悪い噂を幾つか耳にしている程度ですよ」

「ごきげんよう、先輩方」

上級生の後方から、アンリが現れる。
眼鏡は、右手を胸に置いて一礼した。

「やあ。アンリ。今年も会いに来たよ、君の元へ」

プリンスのように、優雅に振る舞っているつもりだろうが、
その仰々しさは、アンリの目には滑稽にしか映らなかった。

この人の頭上に、冠は見えない。

こんな見せ掛けのプリンスの礼より、
ただコーヒーを飲んでいるだけの彼の方が余程優雅だ。

「1年振りだね、アンリ。今日のご機嫌は麗しいかな?」

「…あまり」

不機嫌な顔を隠さないアンリに、眼鏡は可笑しそうに笑う。

「相変わらず、冷たくて美しい姫君だ。
その美しさ、白雪姫のように硝子の棺に入れて、
飾って置きたいな、永遠にね」

「…先輩も相変わらずですね。そろそろ会える頃かと思っていました」

「俺が、恋しかった?」

「そうは言っていません」

「冗談だよ。お察しの通り、今年も文化祭のお願いに来たんだ」

「では、今年は先輩が演出係なんですか?」

「ああ。お前の為にね。俺の『お願い』は学院全体の意思だと思って貰いたい。
今年も、引き受けてくれるかい、プリンセス?」

「昨年と同じですよ。僕の部屋へどうぞ。お話しましょう、先輩?」


アンリは、自分の部屋へ眼鏡と双子を招く。
上級生三人を前に、アンリは脚を組む。
両の指を絡めて、小首を傾げた。

「では、先輩方のご希望から伺いましょうか?」

双子が一緒に書類を差し出す。

「ああ。俺達の希望はこの紙にまとめてきたぜ。結構悪くないだろう?」

アンリは一応、受け取って斜め読みするフリをした。
内容など見なくとも大体解る。
自分が文化祭で着用させられるプリンセスの衣装デザインだ。

淡いピンクのドレスに、白いティアラ。

頭痛がする。
聖アルフォンソ学院は男子校なのだから、女性の衣装は必要無い筈だ。
しかも何故僕がこの衣装を着る破目になるのだろう。

こめかみを押さえながら、視線を紙の下の方へ移す。
羅列する数字。
僕にとっては、こちらだけが重要だ。
『手に持つのは花束かティディベアで』などという注意書きはどうでもいい。
彼等は僕の事業に投資してくれる顧客だ。
文化祭当日、彼等の望む衣装を着るだけで法外な資金を提供してくれる。

これはあくまでビジネスだ。

そう自分に言い聞かせ、こめかみから手を外す。
大袈裟に溜息を吐き、悲しげな表情を作った。

「確かに悪くはないですが…残念です」

「え?」

「先輩方は、僕のこと、もう少し高く評価してくれると思っていたので」

「も、もちろんだよ、アンリ! じゃあ、この額でどう?」

双子が慌てふためく度に、額がどんどん上がっていく。

暫くして、アンリが打ち切った。

「では、今年はこれで。光栄です、先輩方。
僕をこれほど高く評価してくれて」

双子は、一斉に首を仰向ける。

「どーいたしまして。全く、敵わないな、アンリには」

「ほんとだね。てゆうか、これ以上はマジでムリ」

交渉の間、静観していた眼鏡が、やっと口を開いた。

「そうだね。アンリは賢い子だから参ってしまうな」

眼鏡はアンリの前で跪いて、
白い手を取った。

「当日を、楽しみにしているよ、プリンセス?」

沈黙が降りる。
バニラボイスは、その温度を急激に下げた。

「…先輩。今の、加算しておきますね」

「へえ?」

「何です」

「…アンリは、代償さえ払えば何でも許してくれるのか?」

「アンリ!!」

レッドの声と共に、部屋のドアが開いて、どたばたと人が倒れた。
一番下で潰されているのがシルヴァン。
その上で「ごめんね、大丈夫?」と慌てているのがハルヤ。
既に起き上がって、上級生を見下ろしているのがレッドだ。

「おいっ! 貴様、調子に乗ってんじゃねえ! アンリから離れろ!」

眼鏡は笑みを浮かべながら、自分の金髪に指を通す。

「こちらはアンリのお友達かな? アンリには似合わない暑苦しい男だね」

「なんだと、てめえ…」

レッドの拳に冷たい手が触れる。アンリだ。

「先輩。彼は確かに暑苦しいですが、彼のこと、
貴方には、とやかく言われたくありませんね」

「おや。アンリ、この男を庇護するの?」

「違います」

「解ったよ。アンリ。さっきのは冗談だ。気を悪くしないでくれ」

「ええ。もちろん。冗談だと理解しています」

「今日は邪魔が入ってしまったから、失礼するよ。
詳しい打ち合わせはまた後日にしよう?」

「はい。…先輩、ひとつ忠告しておきます」

「何かな?」

「あまり冗談が過ぎると、戸締りに気を付けた方が良いかもしれませんよ?
尤も、幾ら鍵を掛けても意味を為さないかもしれませんが」

「怒った顔も美しいね、アンリは」

レッドの手が、眼鏡の胸倉に掴みかかる前に、
アンリは「レッド」と呼び止めた。

「なんで止めんだよ、アンリ! こいつ1回殴っとこーぜ!?」

「ビジネスの場で、手を上げないで。この人は僕の『取引先』だ」

「アンリ。そんなビジネスドライな言い方は止めてくれないか」

「僕は間違ったことを言っていませんよ。
貴方と、ビジネス以外のことをする気はありませんから」

「そう。ではまた、面白いビジネスを考えておくよ。またね、アンリ」

上級生3名が退室していく。
その場に残ったのは、アンリとレッド。
そして、シルヴァンに支えられて、やっと起き上がったハルヤだ。

アンリはソファに座り直す。

「君達、盗み聞きしてたんだね?」

「すみません、アンリ。レッドがどうしてもと言うので」

「シルヴァン! お前もノリノリだっただろ!?」

騒ぎ出す二人を放置し、ハルヤがアンリの隣に座る。

「ね、アンリ。…さっきの金額マジ? あの人達、払えるの?」

「ああ。彼等のことは事前に調査済みだからね。彼等が支払えるギリギリの額だよ。
多少の無理はするかもしれないけれどね?」

「知らなかったあ…文化祭の影で、こんな額のお金が動いてるなんて…。
あ。ねえ、このことジョシュアは知ってるの?」

「まさか。知らせる必要が無いよ、あの優等生には」

「確かに、生徒代表の耳には入れない方が賢明ですね。
彼も聞いてしまったら、何らかの対応をせざるを得ません。
最悪の場合、ジョシュアがアンリを処分することになりますし」

「なんで、こんなことやってんの、アンリ?
らしくない、っていうかさ、普段ならあの人達を睨み付けて終わりじゃん?」

「僕にとっては、これもビジネスなんだよ。
1日だけ嫌な思いをすれば、僕の事業へ莫大な投資が受けられるのだからね。
どうせ上級生の言うことを聞かなくてはならないのなら、報酬を頂きたいし。
だけど、これほどの額を支払ってくれるなんて、彼等もどうかしてるよね」

「どーかしてんのはお前だろ!?」

「何故、怒っているの、レッド」

「おい。アンリ…さっき、あいつに何された?」

「何って」

「加算する、って言っただろ!?」

「別に。彼の唇が僕の手に触れただけ。
お姫様ごっこがしたかったのではないの?」

「馬鹿かお前!? もうあいつ等に関わるな!」

「来年の文化祭も彼等が演出係なら、関わることになると思うけれど?」

「じゃあ、俺がやってやるよ! 来年は俺が演出を担当する!」

「…君が?」

「そしたら、あいつ等もデカイ顔できないだろ?
お前に似合いそうな役、俺がバッチリ考えてやるから!」

アンリは、レッドの瞳をじっと見据える。
レッドの提案に乗れば、来年は上級生からの投資は消える。
彼等の言うことを聞くのはもちろん嫌だが、
正直、自分の事業にとって、失うには惜しい『取引先』だ。

「なあ、アンリ! そうしよーぜ! 俺が用意した役ならイイだろ?」

アンリは冷たい吐息を漏らす。

「…プリンセス以外なら、ね」


fin
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