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Marginal Prince Short Story
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■ジョシュア×アンリ
夜にしか使えない魔法の続編
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ジョシュアの部屋に訪れると、彼は薄くて大きな本を読んでいた。

「ジョシュア? 絵本を読んでいるの?」

「ああ、偶然ライブラリで見つけてね、懐かしくて借りて来たんだ。
アンリは読んだことがあるかい?」

ジョシュアが見せた本には猫の絵が描かれていた。
もちろん、知らないタイトルだ。

「ないよ。僕、絵本って殆ど知らないから」

「え? 子供の時は何を読んでいたんだい?」

「まあ、神秘学関連の本かな。
サン・ジェルマンの家には、そういう古い本が山程あるからね。
本を開けたら、おかしなものが飛び出してくることもあったし」

「…おかしなもの?」

アンリは、ふふと笑う。

「ジョシュアは、これが好きだったの? この猫の絵本が」

「ああ、好きだよ。そうだ。アンリ、俺が読んであげようか?」

「僕は17歳だ。一人で読めるよ」

アンリは絵本を奪う。
表紙に書かれていた作者名は、日本人のものだった。

何度も生き返る猫の話だった。
色々な人間に飼われ、愛されるが、
猫は自分が一番好きだった。
死んでも死んでも何度も生き返るのが自慢だった。

ある日、一匹の白猫と出会う。
白猫の前で宙返りを見せても、白猫は振り向かない。

猫は自慢することをやめ、白猫の傍に居ることだけを望む。
一緒に暮らし、やがて、たくさんの子供が産まれた。
猫は、自分より、子供達と白猫の方が好きになっていた。

ある朝、白猫が動かなくなる。

猫は初めて泣く。何度も何度も泣く。
泣き止んだ時、猫は動かなくなっていた。
そして猫は、ニ度と生き返らなかった。

アンリは、絵本を閉じる。

「これ、子供には向かない話ではないの?」

「絵本の中では珍しい話かもしれないね」

「どうして死んだの? 何度でも生き返る猫なのに、
白猫を失っただけで、どうして生き返らなくなるの?」

「不思議かい、アンリ?」

「…ジョシュアは不思議ではないの?」

「うん」

「そう…僕がおかしいのか。欠陥品だからね、僕は」

「アンリ。この絵本の解釈はね、人によって様々なんだ。
答えはひとつじゃない。不思議に思うのはおかしなことではないよ」

「ねえ…ジョシュアは? 君はどんな感想を持つの?」

「そうだね。もし、自分に何度でも生き返る力があったら、
何があったら、生き返らなくなるだろう、と考えてしまうな」

「生き返らなくなる、理由?」

「うん。アンリは、どう思う?」

「…この前の休暇」

「え?」

「あの時なら、僕は生き返らなかったかもしれない」

「どうして?」

「退屈だったから」

この前の休暇は、アンリ以外全員が寮を空けていた。
ユウタとレッドはシチリア、ハルヤとシルヴァンは京都、
ジョシュアは、ロレートに呼ばれて、内々の食事会に出席していた。

「アンリ…俺達が居なくて、寂しかったのかい?」

「違う」

「本当かな?」

「君が居なくて、つまらなかっただけだ」

「…えっ?」

「休暇の最終日に近付くにつれて、皆がぽつりぽつりと戻って来たけれど、
あの時は、君が最後まで戻ってこなかった」

「…そう、だったね。飛行機が遅れてしまって」

「君が居ないのは、退屈でつまらない」

「アンリ…」

ジョシュアは突然僕を抱き締めた。
いつもはそっと触れるのに、今日は苦しいくらいだった。

「…ジョシュア? どうしたの、急に?」

「嬉しいんだ…アンリがそんなこと言ってくれるの初めてだから…」

「…嬉しい? 僕、君を喜ばせるようなことを言った?」

「うん…もう少し、このままで居ても良いかい?」

「君の好きにすれば」

「ありがとう」

アンリは絵本が目に入った。
表紙に大きく描かれた猫。

その緑色の瞳と目が合う。

何度も死んで何度も生き返った猫は、
白猫を失って初めて、本当に死んだ。

何人もの人間の飼い主に愛された猫は、
たった一匹の白猫が死んだことで、
二度と生き返らなくなった。

『生き返る』という特殊な力を捨てたのだろうか。
かつて、自らの『王位継承権』を放棄したプリンスのように。

何ものにも変えがたく。
もしそれを失ったら死んでも良いと、思える存在。

「…ねえ。ジョシュア」

「うん」

「聞きたいことがある」

「なんだい?」

「君は、どうして、この猫が死んだと思う?」

「そうだね。白猫を愛していたからだと思うよ」

「ジョシュア。もうひとつ聞いても良い?」

「うん」

「僕の白猫は、君なの?」


fin
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