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■ハルヤ ユウタ ハルオミ
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「ハルヤは、いつから英語で話せるようになったの?」
ユウタは、ハルヤの部屋に遊びに来ていた。
二人きりの時は、こうやって日本語で話したりする。
ハルヤは、もう一年も此処に居るから、英語の方に慣れてるみたいで、
頭の中で英語を和訳するのに時間が掛かる時もあるくらいだった。
普段使ってないと、日本語を忘れていくみたい。
俺はそんなことまだ全然ないけど。
そういう時「えっと…ごめん、待ってね…」って言いながら、
困った笑顔で日本語を探し始めるハルヤは、ちょっと格好良い。
俺も、いつかは日本語が解んなくて、探せるくらいになるのかな。
「んー。いつかなあ。ちゃんと話せるようになったのは此処に来てからだけど。
覚え始めたのは小学生の頃くらい、かなあ」
「小学生の頃から?」
「うん。俺がね、英語を習いたいなって言ったんだ。
それで、兄様と一緒に英語教室に通ってたんだよ。
日舞も海外公演があるから、英語は覚えた方が良いって、じいさまも勧めてくれてさ。
あ。その時から、俺達をこの学院に入れたかったのかもしれないね」
「ハルヤは、どうして英語を習いたかったの?」
「…俺ね、『ありがとう』も言えなかったんだよ」
「サンキューって?」
「うん。だいぶ、昔の話になるけどね。季節は丁度今頃かな。
俺が小さい頃、兄様と京都の桜を見に行ったことがあるんだよ」
「京都の?」
「あ、うん。俺の母様、祇園で芸妓してたから。
京都は一年のうちで、春が一番の観光シーズンで大勢の人が集まってた。
日本各地の方言が飛び交ってたし、海外から来てる人も多くてね」
「あ。そうだよねー。俺も旅行で行った時、すごい外国人多かった」
「俺達は、川沿いの桜を見てた。擦れ違う人達の中で、
桜色のソフトクリームを持ってる人が居てね、
桜のソフトクリームに、八つ橋っていうお煎餅がスプーンみたいに刺さってるんだ」
「うわあ。美味しそー!」
「そうなんだ。きっと俺が、それをずっと見てたんだろうね。
兄様が『買ってくるから、此処で待ってろ』って人混みの中に消えて行って。
俺は、広い河原で一人で座って待ってた。
風が吹く度に、桜吹雪が見られたし、最初はちゃんと待ってたんだけど、
なかなか兄様が帰って来なくてね。俺、段々心配になってきちゃったんだ」
「そうだよね…俺も姉貴に置いてかれてたら、ちょっと困る」
「うん。もしかして、兄様に捨てられちゃったんじゃないかとか、
兄様が悪い人に攫われちゃったかも、とか。
俺、膝抱えて、結構泣きそうだったんだよね」
「…解るかも」
「その時、隣に誰かが座ったんだ。
兄様が戻って来たと思ったら、全然知らない外国人の男の子で。
男の子は、その時、何か言ってくれたんだけど、
俺には何語かも解らなくて、戸惑ってた。
そしたら彼は、自分の胸ポケットに差してた、桜の小枝を俺に差し出したんだ。
綺麗に咲いた桜の花が二つ付いててね。
俺が受け取ると、彼は笑顔でまた何か言ってくれた」
「へえー。ハルヤに『泣かないで』みたいなこと言ってたのかな?」
「そうだと思う。そのうちに俺を呼ぶ声が聞こえて、兄様が戻って来た。
手には二つ、桜色のソフトクリームを持ってた。
俺が立ち上がると、男の子にも、俺が兄様を待ってたことが解ったみたいで、
何か言葉を掛けてくれた。多分『よかったね』って言ってたんだと思う」
「うん。きっとそうだね」
「その男の子も友達を待ってたみたいでね、
後ろから、たこ焼を二つ持ってる男の子とお父さんみたいな人が来たんだ。
男の子は俺に手を振って、彼等の所へ行った。
俺は手を振り返すのが精一杯で、結局一言も話せなかったんだ。
初めて『外国人』に話し掛けられて、すっごいドキドキしちゃって。
子供の時だって、サンキューくらいは知ってた筈なのにね」
「それでハルヤは、英語を習いたくなったんだ?」
「うん。もし今度会えたら、ちゃんと英語で『ありがとう』って言いたくって。
俺、あの男の子が居なかったら、きっと泣き出してたと思うから。
それに、英語も早くから覚えられたし。
…男の子には、もう会えないと思うけど。
英語が話せたら今度は俺が、誰かを助けられるかもって思って」
「そっかあ。会えたら良いのにね」
「うん…会いたいな。桜の時期になるとね、思うんだ。
今なら、ありがとうって言えるのにって。
俺、あの時も、すごくもどかしかった。
男の子はたくさん話してくれたのに、俺に聞き取れた英語は、名前だけだったから」
「え? 桜をくれた男の子の名前?」
「ううん。たこ焼を持ってた友達の名前。
最後に男の子が、友達のことそう呼んでたから」
「何て名前だったの?」
「確かブライアンって聞こえたんだよね」
fin
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「ハルヤは、いつから英語で話せるようになったの?」
ユウタは、ハルヤの部屋に遊びに来ていた。
二人きりの時は、こうやって日本語で話したりする。
ハルヤは、もう一年も此処に居るから、英語の方に慣れてるみたいで、
頭の中で英語を和訳するのに時間が掛かる時もあるくらいだった。
普段使ってないと、日本語を忘れていくみたい。
俺はそんなことまだ全然ないけど。
そういう時「えっと…ごめん、待ってね…」って言いながら、
困った笑顔で日本語を探し始めるハルヤは、ちょっと格好良い。
俺も、いつかは日本語が解んなくて、探せるくらいになるのかな。
「んー。いつかなあ。ちゃんと話せるようになったのは此処に来てからだけど。
覚え始めたのは小学生の頃くらい、かなあ」
「小学生の頃から?」
「うん。俺がね、英語を習いたいなって言ったんだ。
それで、兄様と一緒に英語教室に通ってたんだよ。
日舞も海外公演があるから、英語は覚えた方が良いって、じいさまも勧めてくれてさ。
あ。その時から、俺達をこの学院に入れたかったのかもしれないね」
「ハルヤは、どうして英語を習いたかったの?」
「…俺ね、『ありがとう』も言えなかったんだよ」
「サンキューって?」
「うん。だいぶ、昔の話になるけどね。季節は丁度今頃かな。
俺が小さい頃、兄様と京都の桜を見に行ったことがあるんだよ」
「京都の?」
「あ、うん。俺の母様、祇園で芸妓してたから。
京都は一年のうちで、春が一番の観光シーズンで大勢の人が集まってた。
日本各地の方言が飛び交ってたし、海外から来てる人も多くてね」
「あ。そうだよねー。俺も旅行で行った時、すごい外国人多かった」
「俺達は、川沿いの桜を見てた。擦れ違う人達の中で、
桜色のソフトクリームを持ってる人が居てね、
桜のソフトクリームに、八つ橋っていうお煎餅がスプーンみたいに刺さってるんだ」
「うわあ。美味しそー!」
「そうなんだ。きっと俺が、それをずっと見てたんだろうね。
兄様が『買ってくるから、此処で待ってろ』って人混みの中に消えて行って。
俺は、広い河原で一人で座って待ってた。
風が吹く度に、桜吹雪が見られたし、最初はちゃんと待ってたんだけど、
なかなか兄様が帰って来なくてね。俺、段々心配になってきちゃったんだ」
「そうだよね…俺も姉貴に置いてかれてたら、ちょっと困る」
「うん。もしかして、兄様に捨てられちゃったんじゃないかとか、
兄様が悪い人に攫われちゃったかも、とか。
俺、膝抱えて、結構泣きそうだったんだよね」
「…解るかも」
「その時、隣に誰かが座ったんだ。
兄様が戻って来たと思ったら、全然知らない外国人の男の子で。
男の子は、その時、何か言ってくれたんだけど、
俺には何語かも解らなくて、戸惑ってた。
そしたら彼は、自分の胸ポケットに差してた、桜の小枝を俺に差し出したんだ。
綺麗に咲いた桜の花が二つ付いててね。
俺が受け取ると、彼は笑顔でまた何か言ってくれた」
「へえー。ハルヤに『泣かないで』みたいなこと言ってたのかな?」
「そうだと思う。そのうちに俺を呼ぶ声が聞こえて、兄様が戻って来た。
手には二つ、桜色のソフトクリームを持ってた。
俺が立ち上がると、男の子にも、俺が兄様を待ってたことが解ったみたいで、
何か言葉を掛けてくれた。多分『よかったね』って言ってたんだと思う」
「うん。きっとそうだね」
「その男の子も友達を待ってたみたいでね、
後ろから、たこ焼を二つ持ってる男の子とお父さんみたいな人が来たんだ。
男の子は俺に手を振って、彼等の所へ行った。
俺は手を振り返すのが精一杯で、結局一言も話せなかったんだ。
初めて『外国人』に話し掛けられて、すっごいドキドキしちゃって。
子供の時だって、サンキューくらいは知ってた筈なのにね」
「それでハルヤは、英語を習いたくなったんだ?」
「うん。もし今度会えたら、ちゃんと英語で『ありがとう』って言いたくって。
俺、あの男の子が居なかったら、きっと泣き出してたと思うから。
それに、英語も早くから覚えられたし。
…男の子には、もう会えないと思うけど。
英語が話せたら今度は俺が、誰かを助けられるかもって思って」
「そっかあ。会えたら良いのにね」
「うん…会いたいな。桜の時期になるとね、思うんだ。
今なら、ありがとうって言えるのにって。
俺、あの時も、すごくもどかしかった。
男の子はたくさん話してくれたのに、俺に聞き取れた英語は、名前だけだったから」
「え? 桜をくれた男の子の名前?」
「ううん。たこ焼を持ってた友達の名前。
最後に男の子が、友達のことそう呼んでたから」
「何て名前だったの?」
「確かブライアンって聞こえたんだよね」
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