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■王子×王×側近
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王の寝室。
国王カーディス1世は、ベッドに腰掛けている。
少し離れた所に、ジョシュアは俯いて立っていた。
今日の昼食会の時、ジョシュアに付いていた従者から小さな紙を受け取った。
このように大勢の人間が参列している会合時に、
口に出せない連絡がある場合に、使用される紙だ。
何事かと思い、綴られた文字を見る。
――相談したいことがあります。何時になっても構いません。お時間を頂けませんか?
カーディスは紙に一行付け加える。
『0時で良ければ、俺の寝室に来い』と記し、その従者に持たせた。
叔父は、立ち尽くしている甥を見やる。
淡いグリーンのワイシャツを着ている。
正装というにはラフ過ぎるが、寝巻というには堅苦しい姿だった。
この部屋に入ってから、目を合わせようとしていない。
叔父の方から、声を掛ける。
「悪いな、こんな時間になって」
甥は顔を上げず、固い礼を述べる。
「いいえ。お休み前なのに、お時間を取って頂き、ありがとうございます」
「早速、話を聞こうか。煩い臣下に、お前の睡眠を妨害するなと言われているしな」
ジョシュアは落としていた首を、意を決して上げる。
「俺、大切に想っている人がいるんです」
叔父は、ほう、と驚いたように言った。
「お前に姫が居たとは。めでたい話じゃないか。
男子校に居ながら、どうやって出会った?
見掛けに拠らず、器用な奴だな」
「いえ、すみません…違うんです」
「違う?」
「俺が好きなのは、カーディス、貴方です」
「何だと…」
「好きになってはいけないと思う程、貴方への想いが強くなる。
どうしても止められなくて…俺、どうすれば良いか解らないんです」
「それが相談、か」
「はい」
カーディスは、ベッドから出て、扉を開ける。
其処に控えていた従者に告げる。
「人払いを頼む。お前も含めてだ、ラルヴィス中将」
「陛下」
「下がれ」
臣下は何か言葉を飲み込んで、頭を下げる。
「御意」
重厚な扉が閉まった。
寝室に戻って来た叔父は、再びベッドに腰掛ける。
ジョシュアを真摯に見つめて言う。
「お前は俺に、亡き父の幻影を見ているのだと思う。
俺は弟だからな、似ているのだろう」
「そんな、俺は貴方を」
「違うと言い切れるのか。でなければ、お前が俺に焦がれる理由もあるまい」
「…確かに貴方が父に似ている部分があるのは認めます。
貴方が初めて俺の名を呼んだ時、父の声かと錯覚する程でした」
「だろうな。親でさえ時折間違える程、俺達の声は似ているからな」
「ですが、俺は真剣に貴方のことを」
甥が言い終わる前に叔父は遮った。
「これから言うことは、お前にとって残酷な話だ。聞けるか、ジョシュア?」
「はい。お聞きします」
「俺はお前のことを大切な甥だと思っているが、
お前に特別な感情は、抱いていない」
「はい…」
「しかし、今宵限りの夢で構わないなら、父代わりに腕枕くらいしてやろう」
「…えっ?」
「今まで、俺に何も望んで来なかったお前だ。
余程の決意で言ったのだろう。それを無碍に切り捨てられるか。
但し、これで最初で最後にする。
お前は、俺などのことを考えていてはいけない人間だ。
今宵、俺への想いを断ち切ると誓えるか」
「カーディス…」
「それで良いのならば、来い。ジョシュア」
叔父は、ベッドに腰掛けている。
その隣に恐る恐る甥が座ると、叔父は甥の前で頭を下げた。
「すまない、ジョシュア」
「何を謝っているのです?」
「全てだ。お前には謝り切れない。
お前が父を失い、俺への想いを抱かせたのも俺の責任だ」
「…責任?」
「お前の父エドワードは、クリスティーナに出会い、王位を捨てた。
俺は全く予想もしていなかった形で、玉座に就くことになった。
元々、兄が王となる予定だったし、
俺に王など到底向いていないと思っていたからな。
即位当時、俺は今まで以上に荒れていた。
その未熟な俺を見て、兄をもう一度王位に戻そうという動きが起こった。
そして、兄貴は…殺された。
俺を王位に留め、私腹を肥やそうとした愚か者共によって暗殺された。
お前が父を失ったのは、俺の責任だ。
奴等は処分したが、しかし、結果、奴等の願いが叶った形で、
今も俺が玉座に就いているのだからな」
「いい加減、自分を責めるのは止めてくれませんか。
暗殺計画のこと、貴方は何も知らなかったのでしょう?
俺は貴方を尊敬こそすれ、露ほども恨みません」
甥の強い口調に圧倒されたのか、叔父は暫く黙っていた。
やがて、吐き捨てるように掠れた声を放つ。
「尊敬などと言うな。お前にとって、罵るべき相手だぞ」
「いいえ。断じて違う」
ジョシュアの怒気のこもった声。
カーディスは言葉を失う。
初めて聞く筈なのに。
これはまるで。
ジョシュアはカーディスを強い眼差しで見上げる。
「貴方は、父を暗殺した人間を世間に公表しなかった。
『自分への罰』だと、長い間、兄殺しの汚名を甘んじて受けてきたのでしょう。
それでも貴方の人柄と功績が、ロレート全体を貴方に惹き付けている。
貴方は弁明するより、民の為になることに心血を注いできたからだ。
そんな貴方を、どうして罵ることができますか?
俺は、貴方が叔父であることを誇りに思います」
カーディスは息を吐いた。
「本当に兄貴の子なのだな、ジョシュア。
馬鹿が付く程、真面目なところが似ている。
まるで兄貴に叱られているようだ」
「叱ってなどいません、俺はっ」
「冗談が通じないのも遺伝だな」
「…すみません」
「ジョシュア。お前の髪に触れても良いか?」
「え、あ、はい」
緩やかな波のある髪に、叔父の指が入っていく。
一度、また一度と触れられる毎に、
ジョシュアは、ずっと抑えて来た感情が溢れそうになる。
髪に触れられただけで、肩が張り詰め、息が止まりそうだった。
叔父は甥の頭を撫でながら、しみじみと呟く。
「美しい髪だ。髪は、クリスティーナに似ているのだな」
次の瞬間、ジョシュアの目には、叔父の胸元が映った。
叔父は唇で、俺の髪に触れていた。
声が出ない程、鼓動が早く打っている。
頬に叔父の大きな手が添えられる。
上を向かされ、目が合う。
新聞では見たことのない、温かい眼差し。
叔父が、自分を見つめている。
「瞳も、母と同じ色か」
瞼に、叔父の口髭が当たっていた。
確かめるように、目許に口付けを落とされる。
「顔と気質は、兄貴にそっくりだな」
手が添えられていない方の頬に、柔らかい感触を感じた。
長い髪が俺の肩をさらさらと流れる。
薄いシャツ越しに伝わる僅かな刺激が、最後の留め金を外した。
弾かれたように、甥の身体が動く。
叔父の背が、柔らかなベッドに深く沈んだ。
叔父の瞳には、三つの紅い月が映る。
大きな月は夜空で重く光っている。
残る二つは潤むほど熱く、自分を見下ろしていた。
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王の寝室。
国王カーディス1世は、ベッドに腰掛けている。
少し離れた所に、ジョシュアは俯いて立っていた。
今日の昼食会の時、ジョシュアに付いていた従者から小さな紙を受け取った。
このように大勢の人間が参列している会合時に、
口に出せない連絡がある場合に、使用される紙だ。
何事かと思い、綴られた文字を見る。
――相談したいことがあります。何時になっても構いません。お時間を頂けませんか?
カーディスは紙に一行付け加える。
『0時で良ければ、俺の寝室に来い』と記し、その従者に持たせた。
叔父は、立ち尽くしている甥を見やる。
淡いグリーンのワイシャツを着ている。
正装というにはラフ過ぎるが、寝巻というには堅苦しい姿だった。
この部屋に入ってから、目を合わせようとしていない。
叔父の方から、声を掛ける。
「悪いな、こんな時間になって」
甥は顔を上げず、固い礼を述べる。
「いいえ。お休み前なのに、お時間を取って頂き、ありがとうございます」
「早速、話を聞こうか。煩い臣下に、お前の睡眠を妨害するなと言われているしな」
ジョシュアは落としていた首を、意を決して上げる。
「俺、大切に想っている人がいるんです」
叔父は、ほう、と驚いたように言った。
「お前に姫が居たとは。めでたい話じゃないか。
男子校に居ながら、どうやって出会った?
見掛けに拠らず、器用な奴だな」
「いえ、すみません…違うんです」
「違う?」
「俺が好きなのは、カーディス、貴方です」
「何だと…」
「好きになってはいけないと思う程、貴方への想いが強くなる。
どうしても止められなくて…俺、どうすれば良いか解らないんです」
「それが相談、か」
「はい」
カーディスは、ベッドから出て、扉を開ける。
其処に控えていた従者に告げる。
「人払いを頼む。お前も含めてだ、ラルヴィス中将」
「陛下」
「下がれ」
臣下は何か言葉を飲み込んで、頭を下げる。
「御意」
重厚な扉が閉まった。
寝室に戻って来た叔父は、再びベッドに腰掛ける。
ジョシュアを真摯に見つめて言う。
「お前は俺に、亡き父の幻影を見ているのだと思う。
俺は弟だからな、似ているのだろう」
「そんな、俺は貴方を」
「違うと言い切れるのか。でなければ、お前が俺に焦がれる理由もあるまい」
「…確かに貴方が父に似ている部分があるのは認めます。
貴方が初めて俺の名を呼んだ時、父の声かと錯覚する程でした」
「だろうな。親でさえ時折間違える程、俺達の声は似ているからな」
「ですが、俺は真剣に貴方のことを」
甥が言い終わる前に叔父は遮った。
「これから言うことは、お前にとって残酷な話だ。聞けるか、ジョシュア?」
「はい。お聞きします」
「俺はお前のことを大切な甥だと思っているが、
お前に特別な感情は、抱いていない」
「はい…」
「しかし、今宵限りの夢で構わないなら、父代わりに腕枕くらいしてやろう」
「…えっ?」
「今まで、俺に何も望んで来なかったお前だ。
余程の決意で言ったのだろう。それを無碍に切り捨てられるか。
但し、これで最初で最後にする。
お前は、俺などのことを考えていてはいけない人間だ。
今宵、俺への想いを断ち切ると誓えるか」
「カーディス…」
「それで良いのならば、来い。ジョシュア」
叔父は、ベッドに腰掛けている。
その隣に恐る恐る甥が座ると、叔父は甥の前で頭を下げた。
「すまない、ジョシュア」
「何を謝っているのです?」
「全てだ。お前には謝り切れない。
お前が父を失い、俺への想いを抱かせたのも俺の責任だ」
「…責任?」
「お前の父エドワードは、クリスティーナに出会い、王位を捨てた。
俺は全く予想もしていなかった形で、玉座に就くことになった。
元々、兄が王となる予定だったし、
俺に王など到底向いていないと思っていたからな。
即位当時、俺は今まで以上に荒れていた。
その未熟な俺を見て、兄をもう一度王位に戻そうという動きが起こった。
そして、兄貴は…殺された。
俺を王位に留め、私腹を肥やそうとした愚か者共によって暗殺された。
お前が父を失ったのは、俺の責任だ。
奴等は処分したが、しかし、結果、奴等の願いが叶った形で、
今も俺が玉座に就いているのだからな」
「いい加減、自分を責めるのは止めてくれませんか。
暗殺計画のこと、貴方は何も知らなかったのでしょう?
俺は貴方を尊敬こそすれ、露ほども恨みません」
甥の強い口調に圧倒されたのか、叔父は暫く黙っていた。
やがて、吐き捨てるように掠れた声を放つ。
「尊敬などと言うな。お前にとって、罵るべき相手だぞ」
「いいえ。断じて違う」
ジョシュアの怒気のこもった声。
カーディスは言葉を失う。
初めて聞く筈なのに。
これはまるで。
ジョシュアはカーディスを強い眼差しで見上げる。
「貴方は、父を暗殺した人間を世間に公表しなかった。
『自分への罰』だと、長い間、兄殺しの汚名を甘んじて受けてきたのでしょう。
それでも貴方の人柄と功績が、ロレート全体を貴方に惹き付けている。
貴方は弁明するより、民の為になることに心血を注いできたからだ。
そんな貴方を、どうして罵ることができますか?
俺は、貴方が叔父であることを誇りに思います」
カーディスは息を吐いた。
「本当に兄貴の子なのだな、ジョシュア。
馬鹿が付く程、真面目なところが似ている。
まるで兄貴に叱られているようだ」
「叱ってなどいません、俺はっ」
「冗談が通じないのも遺伝だな」
「…すみません」
「ジョシュア。お前の髪に触れても良いか?」
「え、あ、はい」
緩やかな波のある髪に、叔父の指が入っていく。
一度、また一度と触れられる毎に、
ジョシュアは、ずっと抑えて来た感情が溢れそうになる。
髪に触れられただけで、肩が張り詰め、息が止まりそうだった。
叔父は甥の頭を撫でながら、しみじみと呟く。
「美しい髪だ。髪は、クリスティーナに似ているのだな」
次の瞬間、ジョシュアの目には、叔父の胸元が映った。
叔父は唇で、俺の髪に触れていた。
声が出ない程、鼓動が早く打っている。
頬に叔父の大きな手が添えられる。
上を向かされ、目が合う。
新聞では見たことのない、温かい眼差し。
叔父が、自分を見つめている。
「瞳も、母と同じ色か」
瞼に、叔父の口髭が当たっていた。
確かめるように、目許に口付けを落とされる。
「顔と気質は、兄貴にそっくりだな」
手が添えられていない方の頬に、柔らかい感触を感じた。
長い髪が俺の肩をさらさらと流れる。
薄いシャツ越しに伝わる僅かな刺激が、最後の留め金を外した。
弾かれたように、甥の身体が動く。
叔父の背が、柔らかなベッドに深く沈んだ。
叔父の瞳には、三つの紅い月が映る。
大きな月は夜空で重く光っている。
残る二つは潤むほど熱く、自分を見下ろしていた。
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