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Marginal Prince Short Story
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■ソクーロフ×アイヴィー
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アルフォンソ島の小さなバー。
保健医とタクシードライバーが居た。

マスターにそれぞれ注文する。アイヴィーは片手を挙げる。

「俺、ジントニック」
「私はいつものを頼む」

ロマンスグレイのマスターは滑らかな動作で酒を作り始める。

アイヴィーはバーカウンターに頬杖を付く。

「ソクーロフ。例の男、どーなった?」
「ああ、お前が連れて来た暗殺者か。何の収穫もなかったぞ」
「やっぱねー。下っ端ぽかったもんなー。弱っちかったし」
「お前の前では、大抵の者が弱いだろう」
「あら。褒めてくれてんの?」
「事実を言ったまでだ」
「可愛くないねー」
「アイヴィー、煙草を持っているか?」
「ああ」アイヴィーは煙草の箱を取り出してみせる。
「1本くれ」
「あいよ」

アイヴィーは箱の上部をトンと叩いてから、ソクーロフに差し出す。
白い指が引き抜くのを待って、黒いジッポを出す。
煙草の先が橙に染まると、慣れた手つきで蓋を閉めた。
黒いジッポは、アイヴィーが昔から使っているものだ。
その裏には大きなひっかき傷。
黒塗りの箱に、白く歪んだ線が入っていた。

数年前。黒いジッポに傷が付いた時。
そのジッポは捨てて新しいのを買った方が良い、とソクーロフは言った。
しかしアイヴィーは頑なに拒んだ。
「捨てたら、いつか忘れちまうだろ?」そう笑って見せて。

ソクーロフは、隣をちらと盗み見る。
煙草を銜えて、自分で火を点けている。
あれから何度も季節は変わったのに。
今も、傷付いたジッポは彼の手の中にある。
ソクーロフは黒の傷から視線を剥がす。

薄暗いバーカウンターには、静かな時間と2本の紫煙が流れる。

マスターは二人の前にグラスを差し出す。
どちらも透明な酒が入っている。
アイヴィーはグラスを持つと、隣のグラスに寄せる。

「んじゃ、カンパイ」

グラスの氷が音を立てて回る。

「あ、ソクちゃんさあ」
「その呼び方止めろ」
「お前、この前も同じの飲んでたな。それ、ウオッカ?」
「ああ」
「美味いの?」
「飲んでみるか?」
「え。間接チュウのお誘い?」
「なんだそれは」
「いや。イイのイイの。いただきまーす」

アイヴィーが透き通った酒を呷る。
舌に電気が走り、喉に鋭い熱が駆け巡った。
その痛みに激しく咳き込む。
涙目で医師を睨み付ける。

「なんだコレ!? ノド燃えたぞ!?」

医師は眼鏡を押し上げる。

「スピリタス。70回蒸留した世界最高純度のウオッカだ。
アルコール度数96度。別名『世界最強の酒』と言う」
「96度!?」
「ああ。酒とは名ばかりの精製アルコールだ」
「なんじゃそりゃ…」

サディストから渡されたものを、一気に飲んだ自分を悔やむ。
俺がバカだった。

「ソクーロフ…こんなの今までフツーに飲んでたのかよ」
「消毒用エタノールのアルコール度数は80度だ。それと大して変わるまい」
「お前が保健室で飲んでる水、エタノールだったのかよっ!?」
「他に飲む物が無いからな、保健室は」
「いや、それ飲み物じゃねーから」
「ちなみにスピリタスを希釈すれば、消毒用エタノールになる」
「いや、そんな知識必要ねーから」

アイヴィーの頭はぐるぐると回り始め、直ぐにカウンターに突っ伏してしまう。
急激に瞼が重みを増し、身体が動かなくなってくる。
「そのまま眠れ、アイヴィー」
目だけをサディストに向ける。
「お前、俺をぐでんぐでんにして、どーするつもりだ…」
「聞きたいか」
「いや…どうしよう…」
「言っても良いが、明日には記憶が無いだろう。安心して眠れ」
「くそ…もう眼が…開かねえ…」

保健医は、完全に夢に落ちたタクシードライバーを肩に背負う。

「マスター。空き部屋を貸りるぞ、明日までな」


fin
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