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Marginal Prince Short Story
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■アイヴィー×ソクーロフ
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「あちゃー、満員御礼じゃん」

今宵3件目のバーは、席が埋まっていた。
アルフォンソ島の中では比較的に大きなバーだが、空席が見当たらない。
アイヴィーは頭を押さえ、連れを振り向く。

「他の店にするか。ソクーロフ、後どっか、イイ店知ってる?」
「待て。すぐに席が空く」

店内を振り向くと、二人連れの客が席を立った。
アイヴィーは口笛を吹いて、連れを小突く。

「ラッキー♪」

店員が即座に席の準備をし、そこへ案内された。
席に着いた二人は、薄っぺらいメニューを眺める。
アイヴィーは色褪せた文字を指で辿る。

「んー。じゃあ、バーボンのハイボール」
「同じものをロックで」

人で溢れる店内には、気怠げな興奮で満ちている。
時折、店の奥から、けたたましい笑い声が飛ぶ。
酒の席で聞く大声は、何処か虚しい。

アイヴィーは眉を顰める。

「この店、ちょっと煩いかな?」

「構わないさ。どうせ、お前には私の声しか聞こえない」

「…あの。ど、どういう意味デスか?」

「カクテルパーティ効果と言うだろう」

「…カクテル?」

「1953年に心理学者が提唱した、人間の聴覚の特徴だ。
人は、カクテルパーティのような雑踏の中でも、隣の人間の声が聞こえる。
この現象は録音では実証されない。つまり、心理的に必要の無い雑音を遮断し、
聞きたい音、好きな音だけを耳に入れているんだ。
だからお前には、私の声しか聞こえない、というわけだ」

「そ、そうですか」

店員がアイヴィーの前に琥珀の酒を置く。
背の高いグラスから炭酸の泡が弾ける。
ソクーロフの前には、手の中に収まる程のロックグラス。
荒く削られた球形の氷が、自己を主張していた。

喉を潤したアイヴィーは饒舌に喋り始める。

「そういや。ソクーロフ、この席が空くってよく解ったな?
持つべき者はカウンセラーの友達だねー。優れた洞察力ですこと」

「そのくらいならば、カウンセラーになる前から解る。
私は生まれつき、他者の思考や感情を読み取る能力が発達しているからな」

「そりゃー、可哀想に」

アイヴィーはグラスを口許に運んだ。
カウンセラーは手の動きが止まる。
この話をして、哀れむ言葉など掛けられたことが無かった。
アイヴィーは、濡れたグラスの頬を指でなぞる。

「ヒトが口に出さないことは、知らない方がイイこと、だろ?」

「それは否定できないな」

「ねね。最初に見破った嘘って何?」

「親の嘘だ。物心付いてすぐに、この世にサンタクロースが居ないと分かった」

「へえ。サンタクロースか。意外とカワイーじゃん?」

「最初の嘘はな」

カウンセラーは、手の中のグラスを見つめている。
琥珀色の酒に、大きなアイスボールが浮かんでいる。
グラスから手を離し、話を戻す。

「ロシアではジェット・マロースが、サンタに相当する。
もみの木の下にプレゼントを置いたのが誰なのか、親の態度で知れた。
ジェット・マロースについて話す親の表情が、
通常より嫌に、にこやかなのが気になってな。
眼は泳いでいるし、言動の不一致も見受けられた。
脈を取ったら常より上昇していたしな」

「お前、その頃から脈取れたのかよ!?」

「脈ぐらい子供でも取れるだろう」

「子供は脈取ろうと思わねーから。てゆうか大人も」

「そうか」

「ソクちゃん、今まで大変だったんだねー」

「だから、その呼び方は止めろと」

「またまたー。ホントは嬉しいんじゃないのー?」

「ふさげるな」

アイヴィーは徐に医師の手首を掴む。
医師を見ながら、小首を傾げる。

「ほら。脈拍、上昇してるよ?」

「何を言う。お前、私の正常値など知らないだろう?」

「好きだよ、ソクちゃん」

医師が黙ると、
店の奥から手を叩いて笑う声が聞こえてきた。
アイヴィーは、ひひと笑う。

「あ。脈、ちょっと早くなった♪」

医師は憮然とした様子で、離せ、と手を振り払った。

「アイヴィー。お前、大分酔っているようだから、今日はこれで失礼する」

「悪かったってば。そんな怒るなよ、ソクーロフ」

「怒っているのではない」

「待ってよ。お詫びに、俺んちに泊めてやるからさ♪」

「どこがお詫びなんだ?」

「この前さ、軍のお偉方から、高そうなボトル貰っちゃったんだー。
これがキツイ酒でさー。一人じゃ飲み切れそうになくって。
酒豪さんに手伝って貰えると嬉しいなー」

「その酒、美味いんだろうな?」

「うん。じゃ、行こ行こ♪」

「腕を組むな」


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