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■ソクーロフ×アイヴィー
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「ソクーロフ、居るかー?」
アイヴィーが保健室のドアを開けると、
そこには、医師と生徒が向かい合って座っていた。
「あっ…」
金髪の少年に見上げられる。
ソクーロフは来客を一瞥する。
「今、カウンセリング中だ。終わるまで外で待ってろ」
「へいへい。邪魔してごめんな、マージナルプリンス?」
「いっ、いえ。ごめんなさい、ぼくのせいで…」
カウンセラーはクライアントの手を取る。
「ミハイル、君のせいではない。君は予約をして此処に来ているのだから。
用も無いのに押し掛けて来た方が悪い」
ミハイルは主治医に尋ねる。
「…タクシーのお兄さん?」
「ああ。年齢的にはタクシーのおじさんだがな」
「おいコラ! わざわざ言い直すな!」
「まだ居たのか。カウンセリングの邪魔だぞ、アイヴィー」
「そーですか。失礼しましたっ」
保健室の扉が閉まる。
カウンセラーはクライアントに詫びる。
「すまない、ミハイル。煩い邪魔が入って。
カウンセリングを続けよう」
ミハイルは、ぱちくりと目を瞬かせている。
それに気付いた医師は、彼の名を呼ぶ。
「どうしたのかな?」
「あ、あの、博士…」
「なんだい?」
「あっ、ごめんなさい、やっぱり、何でもない、です…」
アイヴィーは保健室の建物から出て、木に背を預けていた。
ポケットから煙草を出す。
木漏れ日が温かい。
足元を見渡すと、白や黄色の花達が咲いていた。
いつのまにか、すっかり春の陽気に包まれている。
深く息を吸う。
それだけで幸せだった。
保健室から金髪の生徒が出てくる。
大きな瞳に涙をいっぱいに溜め、頬を濡らしている。
生徒は、アイヴィーに気付いて、涙を拭く。
アイヴィーは、がしっと少年の肩を掴んだ。
「君! あいつに泣かされたのか? あのサディスト、こんな幼気な少年まで…」
「ち、ちがうの! ぼく、カウンセリングの後は、いつも涙が出るの」
「いつも!? いつも何やってんだ、あの鬼畜医師め…」
「アイヴィーさん、ぼくは大丈夫だから! 博士は悪くないから!」
必死の訴えに圧倒された大人は「…そ、そうか?」と鞘を収める。
「あれ、俺の名前よく知ってんね?」
「さっき、博士が貴方のこと、そう呼んでたから…」
「ああ。そうだな。えっと、君は…」
「はっ、はじめまして…。ぼくはミハイル。
ミハイル・リューリコヴィッチ・ネフスキーです」
深く頭を下げる少年につられて、
大人も深く頭を下げる。
「これはご丁寧にどうもっ。よろしくな、ミハイル」
「はい、よ、よろしく。…あっ、あの」
「ん?」
「ぼく…アイヴィーさんと、少しお話したいな。
もしよかったら、ぼくと、お話してくれませんか?」
「ああ。てゆうか、今、お話してると思うけど?」
「あっ、ご、ごめんなさい…」
「あははっ、かわいーんだな、ミハイルは」
「か、かわいい…?」
アイヴィーは草の上に胡坐をかいて座った。
足首を持って、小首を傾げる。
「で? 俺にお話ってなーに?」
ミハイルは、アイヴィーから少し離れた所で正座する。
緊張した面持ち。
透き通るような顔は、仄かに春色に染まっていた。
ミハイルは、手を膝の上で握り締める。
「あの…えっと…」
「うん」
「あ、アイヴィーさんは、博士のお友達、ですか?」
アイヴィーは苦笑する。
「どうかなー? お友達、とはちょっと違うかもな」
「えっ、お友達じゃないの? じゃあ、なんで博士は…」
「あいつが、どうかした?」
「あの。アイヴィーさんとお話してる時の博士、
楽しそうだったから、お友達なのかなって、思って」
「…楽しそーだった?」
「うん。博士の楽しそうな顔なんて、初めて見たから…
ぼく、ちょっとびっくりしちゃって…。
さっき、博士にも聞こうと思ったんだけど、聞けなくて…。
でも、ごめんなさい…ぼくの気のせい、だったのかな……うわっ」
突然、頭を撫でられたミハイルが声を上げた。
タクシーのお兄さんは上機嫌だ。
金髪を愛おしげに撫でる。
「お前、イイ奴だなー、ミハイルー♪」
「…え、えっ?」
「サンキュ。今の話、ソクーロフに自慢しとくわ」
「…って言う話を聞いちゃったわけ♪」
アイヴィーは自慢気に笑う。
保健室。
ミハイルと別れたアイヴィーは、
先程の出来事を医師に向かって、やや大袈裟に語った。
医師は相槌も打たず、その誇張された話を聞いていた。
アイヴィーは椅子の背凭れを前にして座っている。
そのままズルズルと医師に向かってくる。
「んじゃ、感想を聞こうか、ソクーロフ博士?」
ウキウキしている運転手とは逆に、
カウンセラーは真剣に呟く。
「驚いたな…ミハイルが初対面の人間とそれほど話せるとは…」
「…おーい。もしもーし」
「確かに以前に比べれば、笑顔を見せる頻度も多い。
自己開示の範囲が徐々に広くなっているな…」
「…おーい。帰って来ーい」
「積極性が増したのは、やはりユウタとの出会いがきっかけか…」
「…むー。」
「カウンセリングは、ひとつ段階を上げても良いかもしれないな」
席を立った医師は、綺麗に整理された棚からファイルを引き抜く。
パラパラとページを飛ばして、
ミハイルの写真が挟まれたカルテを手に取る。
それを眺めたまま、医師はぴたりと動かなくなる。
黙考の時間に入ってしまったらしい。
おそらく今、研究者の頭脳は恐ろしい速さで回転し、
その生徒にとって最適なカウンセリング療法を編み出しているのだろう。
専門分野の思考中は周りが見えなくなる。研究者の悪い癖だ。
アイヴィーは肩を竦める。
「はいはい、俺はオアズケねー。ったく、つれないオトコ」
傍にある簡易ベッドに寝転がる。
手を頭の下に敷き、足を組む。
目を閉じる。
保健室の窓から、心地良い春風が吹いてきた。
fin
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「ソクーロフ、居るかー?」
アイヴィーが保健室のドアを開けると、
そこには、医師と生徒が向かい合って座っていた。
「あっ…」
金髪の少年に見上げられる。
ソクーロフは来客を一瞥する。
「今、カウンセリング中だ。終わるまで外で待ってろ」
「へいへい。邪魔してごめんな、マージナルプリンス?」
「いっ、いえ。ごめんなさい、ぼくのせいで…」
カウンセラーはクライアントの手を取る。
「ミハイル、君のせいではない。君は予約をして此処に来ているのだから。
用も無いのに押し掛けて来た方が悪い」
ミハイルは主治医に尋ねる。
「…タクシーのお兄さん?」
「ああ。年齢的にはタクシーのおじさんだがな」
「おいコラ! わざわざ言い直すな!」
「まだ居たのか。カウンセリングの邪魔だぞ、アイヴィー」
「そーですか。失礼しましたっ」
保健室の扉が閉まる。
カウンセラーはクライアントに詫びる。
「すまない、ミハイル。煩い邪魔が入って。
カウンセリングを続けよう」
ミハイルは、ぱちくりと目を瞬かせている。
それに気付いた医師は、彼の名を呼ぶ。
「どうしたのかな?」
「あ、あの、博士…」
「なんだい?」
「あっ、ごめんなさい、やっぱり、何でもない、です…」
アイヴィーは保健室の建物から出て、木に背を預けていた。
ポケットから煙草を出す。
木漏れ日が温かい。
足元を見渡すと、白や黄色の花達が咲いていた。
いつのまにか、すっかり春の陽気に包まれている。
深く息を吸う。
それだけで幸せだった。
保健室から金髪の生徒が出てくる。
大きな瞳に涙をいっぱいに溜め、頬を濡らしている。
生徒は、アイヴィーに気付いて、涙を拭く。
アイヴィーは、がしっと少年の肩を掴んだ。
「君! あいつに泣かされたのか? あのサディスト、こんな幼気な少年まで…」
「ち、ちがうの! ぼく、カウンセリングの後は、いつも涙が出るの」
「いつも!? いつも何やってんだ、あの鬼畜医師め…」
「アイヴィーさん、ぼくは大丈夫だから! 博士は悪くないから!」
必死の訴えに圧倒された大人は「…そ、そうか?」と鞘を収める。
「あれ、俺の名前よく知ってんね?」
「さっき、博士が貴方のこと、そう呼んでたから…」
「ああ。そうだな。えっと、君は…」
「はっ、はじめまして…。ぼくはミハイル。
ミハイル・リューリコヴィッチ・ネフスキーです」
深く頭を下げる少年につられて、
大人も深く頭を下げる。
「これはご丁寧にどうもっ。よろしくな、ミハイル」
「はい、よ、よろしく。…あっ、あの」
「ん?」
「ぼく…アイヴィーさんと、少しお話したいな。
もしよかったら、ぼくと、お話してくれませんか?」
「ああ。てゆうか、今、お話してると思うけど?」
「あっ、ご、ごめんなさい…」
「あははっ、かわいーんだな、ミハイルは」
「か、かわいい…?」
アイヴィーは草の上に胡坐をかいて座った。
足首を持って、小首を傾げる。
「で? 俺にお話ってなーに?」
ミハイルは、アイヴィーから少し離れた所で正座する。
緊張した面持ち。
透き通るような顔は、仄かに春色に染まっていた。
ミハイルは、手を膝の上で握り締める。
「あの…えっと…」
「うん」
「あ、アイヴィーさんは、博士のお友達、ですか?」
アイヴィーは苦笑する。
「どうかなー? お友達、とはちょっと違うかもな」
「えっ、お友達じゃないの? じゃあ、なんで博士は…」
「あいつが、どうかした?」
「あの。アイヴィーさんとお話してる時の博士、
楽しそうだったから、お友達なのかなって、思って」
「…楽しそーだった?」
「うん。博士の楽しそうな顔なんて、初めて見たから…
ぼく、ちょっとびっくりしちゃって…。
さっき、博士にも聞こうと思ったんだけど、聞けなくて…。
でも、ごめんなさい…ぼくの気のせい、だったのかな……うわっ」
突然、頭を撫でられたミハイルが声を上げた。
タクシーのお兄さんは上機嫌だ。
金髪を愛おしげに撫でる。
「お前、イイ奴だなー、ミハイルー♪」
「…え、えっ?」
「サンキュ。今の話、ソクーロフに自慢しとくわ」
「…って言う話を聞いちゃったわけ♪」
アイヴィーは自慢気に笑う。
保健室。
ミハイルと別れたアイヴィーは、
先程の出来事を医師に向かって、やや大袈裟に語った。
医師は相槌も打たず、その誇張された話を聞いていた。
アイヴィーは椅子の背凭れを前にして座っている。
そのままズルズルと医師に向かってくる。
「んじゃ、感想を聞こうか、ソクーロフ博士?」
ウキウキしている運転手とは逆に、
カウンセラーは真剣に呟く。
「驚いたな…ミハイルが初対面の人間とそれほど話せるとは…」
「…おーい。もしもーし」
「確かに以前に比べれば、笑顔を見せる頻度も多い。
自己開示の範囲が徐々に広くなっているな…」
「…おーい。帰って来ーい」
「積極性が増したのは、やはりユウタとの出会いがきっかけか…」
「…むー。」
「カウンセリングは、ひとつ段階を上げても良いかもしれないな」
席を立った医師は、綺麗に整理された棚からファイルを引き抜く。
パラパラとページを飛ばして、
ミハイルの写真が挟まれたカルテを手に取る。
それを眺めたまま、医師はぴたりと動かなくなる。
黙考の時間に入ってしまったらしい。
おそらく今、研究者の頭脳は恐ろしい速さで回転し、
その生徒にとって最適なカウンセリング療法を編み出しているのだろう。
専門分野の思考中は周りが見えなくなる。研究者の悪い癖だ。
アイヴィーは肩を竦める。
「はいはい、俺はオアズケねー。ったく、つれないオトコ」
傍にある簡易ベッドに寝転がる。
手を頭の下に敷き、足を組む。
目を閉じる。
保健室の窓から、心地良い春風が吹いてきた。
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