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Marginal Prince Short Story
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■ソクーロフ×アイヴィー
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「ソクーロフせんせー。質問があるんですけどー」

アイヴィーは両腕に、焦茶色の紙袋を抱えている。
アルフォンソ島のスーパーの袋だ。
中には、酒と肴がゴロゴロと入っている。
今宵、アイヴィーの部屋を会場に、二人で飲むことになっている。

「なんだ。アイヴィー。言ってみろ」
「なんで俺が一人で全部持たなきゃなんないんですかー」

ソクーロフは両手をポケットに入れていた。
右手だけ出す。人差し指を立てて、アイヴィーの腕に触れる。

「お前、この筋肉は何の為のものだ?」
「酒を持つ為のものじゃねーよ。てゆうか、これ飲むの殆どお前だし!」
「私に逆らうな」

手首から上になぞっていく。
細い指が、蛇のように腕を這う。
アイヴィーの上腕が、びくりと震えた。
眉間に皺を寄せて、小さく呻く。

「ソ、ソクーロフ…まだ家に着いてないだろっ…」
「他愛の無い奴」

ささやかな抵抗も虚しく、荷物は持って貰えないまま、家に近付いていく。
公園を通り掛かった時、ソクーロフが足を止めた。
園内を見ている。中央に噴水がある。
他には、滑り台、シーソーなどのカラフルな遊具がある普通の公園だ。

「どうした、ソクーロフ?」
「いや。何でもない」

アイヴィーは園内を覗き込む。
ブランコに一人で座っている男の子が居た。
5歳前後だろうか。今にも泣き出しそうな顔で、鎖を握り締めている。

「ソクーロフ。知ってる子?」
「いいや」
「おい。まさか、お前…」
「なんだ」
「あの子に手を出すのは止めとけ! 逮捕されちゃうぞ!」
「アイヴィー。前から思っていたのだが、一度、脳の検査をしてやろうか」
「だってお前、ミハイルのこと泣かしてんだろ!?」
「どんな誤解をしている」

ブランコの鎖が鳴って、男の子が飛び降りた。
「ママ!」と叫んで、駆け出す。
その先には、一人の女性。
男の子は、彼女の足に飛び付いた。

母親は愛おしげに、我が子の髪を撫でる。
二人は、さも当たり前かのように手を繋いだ。
親子は公園を出て、俺達の傍を通り過ぎた。

「ママー、今日のごはんなにー?」

先程の泣きそうな表情が幻だったかのように、弾むような声だった。
母親の返事は聞こえなかった。
数秒後、男の子の喜ぶ声が耳に届いた。

夕焼けの下で、親子の長い影が出来る。
影の手も、しっかりと結ばれていた。

アイヴィーは、ひひ、と笑う。

「なんか良いねー。ああいうの」
「そうだな。あれが家庭のあるべき姿なのだろうな」

そう言ったソクーロフは、先に歩き出す。
一瞬見えた横顔は、羨望を感じているようだった。
肩を竦めて、背を追い駆ける。

「なあ、ソクーロフ。荷物、いっこ持ってよ」
「断る」
「じゃあ。交換条件、付けてあげちゃう」
「条件?」
「いっこ持ってくれたら、俺が手を繋いであげてもイイよ?」
「面白い取引だな。荷物と引き換えに、お前が私に奉仕するというのか」
「いや、奉仕っていうと、なんかヤなかんじなんですけど…」
「乗ってやってもいいぞ、アイヴィー」
「え…マジ…?」
「但し」

ソクーロフの微笑は夕焼けを浴びている。
それは恐ろしく美しい。

「奉仕の内容は、私が決める」


fin
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