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■春臣×春也
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「兄様っ。だいじょうぶ? 重くない?」
春也の手には、二輪のカーネーションが握られている。
「兄様、重いの全部持ってくれたから…」
「大丈夫だよ、春也」
隣を歩く春臣は両手にビニール袋を持っている。
近所のスーパーの袋だ。
中には、今夜、カレーライスに使う材料が入っている。
じいさまの家で、日舞の稽古が終わってから、
春也と二人で買い物をしてきた。
今日は母の日。
花屋でカーネーションを選んで、一輪ずつラッピングして貰った。
それからスーパーで材料を買って、母様達にカレーライス作ることにした。
まだ小さい弟は、赤い花を大事そうに抱えた。
他愛の無い会話を繰り返しながら、じいさまの家の方へと歩いていく。
公園を通り掛かった時、春臣が足を止めた。
園内を見ている。中央に噴水がある。
他には、滑り台、シーソーなどのカラフルな遊具がある普通の公園だ。
「春也、どうしたの?」
「あ、あの子…」
ブランコに一人で座っている男の子が居た。
5歳前後だろうか。今にも泣き出しそうな顔で、鎖を握り締めている。
弟は、まるで悲しみが移ったような声で言う。
「あの子、誰かとケンカしちゃったのかな…」
「どうかなあ」
「誰かに嫌われちゃったのかな…」
「なんで春也が泣きそうになってんだよ」
ブランコの鎖が鳴って、男の子が飛び降りた。
「ママ!」と叫んで、駆け出す。
その先には、一人の女性。
男の子は、彼女の足に飛び付いた。
母親は愛おしげに、我が子の髪を撫でる。
二人は、さも当たり前かのように手を繋いだ。
親子は公園を出て、俺達の傍を通り過ぎた。
「ママー、今日のごはんなにー?」
先程の泣きそうな表情が幻だったかのように、弾むような声だった。
母親の返事は聞こえなかった。
数秒後、男の子の喜ぶ声が耳に届いた。
夕焼けの下で、親子の長い影が出来る。
影の手も、しっかりと結ばれていた。
弟は頬を綻ばせる。
「兄様。あの子のおうちもカレーかもしれないね」
「聞こえたのか?」
「ううん。でも、あの子、嬉しそうだったから」
春也の靴に、石が当たる。
白くて丸い小石。
春也はそれを蹴りながら前に進む。
小さな弟と小石が、よたよたと歩いていく。
「母様達、喜んでくれるかな。ぼく達のプレゼント」
「うん。きっとな」
「ねえ、兄様」
「うん?」
「ぼく、兄様の母様にも、喜んで貰えるかな?」
「春也の母様じゃなくて?」
「うん。兄様の母様は、ぼくのこと嫌いみたいだから」
腹違いの弟は、また小石を蹴る。
転がっていく。
他の黒い石に当たって、止まった。
「ぼくのこと、ちょっと好きになってくれるといいな」
弟は夕焼けを見つめている。
真っ赤な空。
空の端は紫に滲んでいる。カラスが何処かで鳴いた。
また石が飛んで行く。
弟は、付いて来ない兄を振り向く。
「どうしたの、兄様?」
「いや…」
「あ。やっぱり荷物重いの? ぼくに、ひとつ持たせて?」
兄の左手からビニール袋を取る。
重さに、くらりと身体が揺れた。
なんとか踏み止まって、照れたように笑う。
「春也、俺が持つから」
「でも。ぼく、お花しか持ってないし」
「じゃあ、こうしよう?」
手提げの片方を取る。二人で一緒に持つことにした。
兄の左手にはビニール袋ひとつ、右手には弟と一緒に持っている袋。
弟の左手には兄と一緒に持っている袋、右手にはカーネーション。
「これでいいだろう、春也?」
「うん」
「じゃあ、早く帰ろう」
「うん。帰ろ」
夕焼けの下で、小さな兄弟の長い影が出来る。
二人の影の真ん中には、ビニール袋がぶら下がっていた。
fin
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「兄様っ。だいじょうぶ? 重くない?」
春也の手には、二輪のカーネーションが握られている。
「兄様、重いの全部持ってくれたから…」
「大丈夫だよ、春也」
隣を歩く春臣は両手にビニール袋を持っている。
近所のスーパーの袋だ。
中には、今夜、カレーライスに使う材料が入っている。
じいさまの家で、日舞の稽古が終わってから、
春也と二人で買い物をしてきた。
今日は母の日。
花屋でカーネーションを選んで、一輪ずつラッピングして貰った。
それからスーパーで材料を買って、母様達にカレーライス作ることにした。
まだ小さい弟は、赤い花を大事そうに抱えた。
他愛の無い会話を繰り返しながら、じいさまの家の方へと歩いていく。
公園を通り掛かった時、春臣が足を止めた。
園内を見ている。中央に噴水がある。
他には、滑り台、シーソーなどのカラフルな遊具がある普通の公園だ。
「春也、どうしたの?」
「あ、あの子…」
ブランコに一人で座っている男の子が居た。
5歳前後だろうか。今にも泣き出しそうな顔で、鎖を握り締めている。
弟は、まるで悲しみが移ったような声で言う。
「あの子、誰かとケンカしちゃったのかな…」
「どうかなあ」
「誰かに嫌われちゃったのかな…」
「なんで春也が泣きそうになってんだよ」
ブランコの鎖が鳴って、男の子が飛び降りた。
「ママ!」と叫んで、駆け出す。
その先には、一人の女性。
男の子は、彼女の足に飛び付いた。
母親は愛おしげに、我が子の髪を撫でる。
二人は、さも当たり前かのように手を繋いだ。
親子は公園を出て、俺達の傍を通り過ぎた。
「ママー、今日のごはんなにー?」
先程の泣きそうな表情が幻だったかのように、弾むような声だった。
母親の返事は聞こえなかった。
数秒後、男の子の喜ぶ声が耳に届いた。
夕焼けの下で、親子の長い影が出来る。
影の手も、しっかりと結ばれていた。
弟は頬を綻ばせる。
「兄様。あの子のおうちもカレーかもしれないね」
「聞こえたのか?」
「ううん。でも、あの子、嬉しそうだったから」
春也の靴に、石が当たる。
白くて丸い小石。
春也はそれを蹴りながら前に進む。
小さな弟と小石が、よたよたと歩いていく。
「母様達、喜んでくれるかな。ぼく達のプレゼント」
「うん。きっとな」
「ねえ、兄様」
「うん?」
「ぼく、兄様の母様にも、喜んで貰えるかな?」
「春也の母様じゃなくて?」
「うん。兄様の母様は、ぼくのこと嫌いみたいだから」
腹違いの弟は、また小石を蹴る。
転がっていく。
他の黒い石に当たって、止まった。
「ぼくのこと、ちょっと好きになってくれるといいな」
弟は夕焼けを見つめている。
真っ赤な空。
空の端は紫に滲んでいる。カラスが何処かで鳴いた。
また石が飛んで行く。
弟は、付いて来ない兄を振り向く。
「どうしたの、兄様?」
「いや…」
「あ。やっぱり荷物重いの? ぼくに、ひとつ持たせて?」
兄の左手からビニール袋を取る。
重さに、くらりと身体が揺れた。
なんとか踏み止まって、照れたように笑う。
「春也、俺が持つから」
「でも。ぼく、お花しか持ってないし」
「じゃあ、こうしよう?」
手提げの片方を取る。二人で一緒に持つことにした。
兄の左手にはビニール袋ひとつ、右手には弟と一緒に持っている袋。
弟の左手には兄と一緒に持っている袋、右手にはカーネーション。
「これでいいだろう、春也?」
「うん」
「じゃあ、早く帰ろう」
「うん。帰ろ」
夕焼けの下で、小さな兄弟の長い影が出来る。
二人の影の真ん中には、ビニール袋がぶら下がっていた。
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