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Marginal Prince Short Story
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■オーギュスト×アンリ
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「大学教授って、みんな少年のようだね」

アンリはスーツ姿で、手にはビジネスバッグを持っていた。
普段は事業で外出する際に使用しているものだ。
今日は、先程見学してきた学会の資料が入っている。

「少年の好奇心と探究心を持ったまま、大人になったんだね、彼等は」
「成程。そうだね。不思議なことが大好きな人の集まりだから」

隣を歩くオーギュストもスーツ、手には革の鞄を持っている。
茶色の革は使い込まれていて、しっくりと彼に馴染んでいる。

今日初めて、アンリを神秘学の学会に連れて行った。
一度見てみたいから連れて行け、という彼の要望だった。
優秀なアンリならば、学会で討論される内容も理解できるし、
最新の研究情報に触れる良い機会だと思う。
いち教師としても、生徒の勉強意欲は尊重したい。

しかし、当初私は断った。
神秘学の研究者で、アンリの家を知らない者は居ない。
その手の文献には必ず名が載るサン・ジェルマン伯爵。
末裔であるアンリは、初代の血を最も濃く引いている。
言わば、現存する唯一の研究資料だ。

どんな大金を積んでも欲しがる輩が、神秘学の学会には集まっている。
学会に出席したことで万が一素性が割れれば、
アンリがやっと手に入れたアルフォンソという安息の地。
それが一瞬にして奪われる危険性がある。

なるべく丁寧に説明したのだが、
この子は「舞台で自己紹介でもしない限りバレないよ」と冷笑した。
君の顔が割れている人物にはどう対処するのかねと諭せば、
黄金の瞳は私を見上げて言った。「君が守って」と。

無事に会場を後にすることができた。
念の為、アンリのシチリアマフィアのお友達に、
協力を要請して正解だったかもしれない。

「ボージェ教授は今日の学会、楽しめた?」
「うん。興味深い研究発表が2、3あったかな」
「そう」
「アンリの興味を引いたものはあったかい?」
「君の」
「ありがとう」

他愛の無い会話を繰り返しながら、駅の方へと歩いていく。
公園を通り掛かった時、アンリが足を止めた。
園内を見ている。中央に噴水がある。
他には、滑り台、シーソーなどのカラフルな遊具がある普通の公園だ。

「アンリ? どうかしたかね?」
「…ううん。別に」

ブランコに一人で座っている男の子が居た。
5歳前後だろうか。今にも泣き出しそうな顔で、鎖を握り締めている。

「オーギュスト。行こう」
「おや。アンリ、見てご覧?」

ブランコの鎖が鳴って、男の子が飛び降りた。
「ママ!」と叫んで、駆け出す。
その先には、一人の女性。
男の子は、彼女の足に飛び付いた。

母親は愛おしげに、我が子の髪を撫でる。
二人は、さも当たり前かのように手を繋いだ。
親子は公園を出て、私達の傍を通り過ぎた。

「ママー、今日のごはんなにー?」

先程の泣きそうな表情が幻だったかのように、弾むような声だった。
母親の返事は聞こえなかった。
数秒後、男の子の喜ぶ声が耳に届いた。

夕焼けの下で、親子の長い影が出来る。
影の手も、しっかりと結ばれていた。

「私には縁のない光景だね」
「オーギュ?」
「私は神秘学に恋をしているから。あの子のような子供は授からない」
「そう。君の心を捕らえているのは、神秘学なんだね」
「ああ」
「研究者なのだから、神秘学と結婚していると言うべきではないの?」
「いいや。一生、片思いだよ。どんなに焦がれても、私の手には届かない」

夕闇は、徐々に濃くなっていく。
一番星が控えめに顔を覗かせている。
もうすぐ月も昇り始めるだろう。

「だからね、私の息子はアンリしか居ないんだよ」

アンリの肩が僅かに跳ねて、歩みが止まる。
沈みゆく夕陽の陰になり、表情は伺えない。
消え入るような反論が聞こえてくる。

「…何を言うの、オーギュ。君は僕の教師でしょう」


fin
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