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Marginal Prince Short Story
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■シルヴァン×ジョシュア
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「ありがとう、シルヴァン。一緒に来てくれて」

ジョシュアは右腕に焦茶色の紙袋を抱えています。
アルフォンソ島のスーパーの袋です。
中には、今夜バーベキューパーティで使う食材が入っています。

「シルヴァンが手伝ってくれて助かったよ」
「いえいえ。僕、丁度、暇でしたから」

隣を歩く僕も紙袋を持っています。
こちらの方に重いものを中心に入れておきました。
僕の体力は、こういう時に使っておかないと。

レッドの提案で、今夜はバーベキューパーティ。
まあ、そこまではいつものことなんですが。
買い出しを誰にするかじゃんけんで決めたら、
ジョシュアが負けたので。つい付いて来てしまいました。
王子様をお一人で歩かせるのは心配でしたし、荷物持ちさせるのも気が引けて。
本人は全然気にしていないんですけどね。
いつも誰かが傍に居る彼と、二人で居られることなんて、
こういう時でもなければ、なかなかありませんからね。

ジョシュアの紙袋が、くしゃりと音を立てました。

「シルヴァン」
「あ、はい?」
「なんだか、周りを気にしているね。何か探しているのかい?」
「ああ、いえ。蝶が飛んでいたので」
「蝶?」
「ええ。ほら、あそこに。春ですね」

他愛の無い会話を繰り返しながら、学院の方へと歩いていきます。
一歩一歩進む度に惜しいような気がしていました。
このまま二人で何処かへ行ってしまいたいところですが、
ジョシュアが許してくれる筈、ありませんよね。

公園を通り掛かった時、ジョシュアが足を止めました。
園内を見ています。中央には噴水。
他には、滑り台、シーソーなどのカラフルな遊具がある普通の公園でした。

「ジョシュア、どうしました?」
「ああ、うん。あの子、どうしたのかなと思ってね」

ブランコに一人で座っている男の子が居ました。
5歳前後でしょうか。今にも泣き出しそうな顔で、鎖を握り締めています。

その光景を、ジョシュアは深刻に見つめていました。
通りすがりの子どもにも心を砕くなんて。本当に貴方という人は。

ジョシュアに気に掛けて貰えるあの子が、ちょっと羨ましいです。

ブランコの鎖が鳴って、男の子が飛び降りました。
「ママ!」と叫んで、駆け出します。
その先には、一人の女性。
男の子は、彼女の足に飛び付きました。

母親は愛おしげに、我が子の髪を撫でて。
二人は、さも当たり前かのように手を繋いで。
親子は公園を出て、僕達の傍を通り過ぎました。

「ママー、今日のごはんなにー?」

先程の泣きそうな表情が幻だったかのように、弾むような声。
母親の返事は聞こえませんでしたが、
数秒後、男の子の喜ぶ声が耳に届きました。

夕焼けの下で、親子の長い影が出来ます。
影の手も、しっかりと結ばれていました。

ちらと隣を覗くと、宝石のような瞳は、輝きを失っていました。

「ジョシュア、お母上のこと、思い出してしまいました?」

彼の母は、クリスティーナ・グラント。
ジョシュアの父、プリンス・エドワードのご逝去後、
地雷除去など世界中でボランティアをされていました。
ノーベル平和賞を取るだろうと言われるほど熱心な方でした。

お母上のお気持ちも解らないではありません。
愛した人との思い出が詰まった家に居られず、
ジョシュアの顔を見ることさえ、彼女にはできなかったのでしょう。

熱心にボランティアに励むことが、彼女にとって、
悲しみを忘れる唯一の方法だったのかもしれません。
世界中の人の手を取り、多くの笑顔を貰うことで、
彼女自身も存在意義を持ち直し、励まされたのでしょう。
そして、ご活動中にアフリカで病死され、
幼い子供の許には戻らないまま、愛した人の傍に。

18歳になった子供は、生徒代表として、立派過ぎる程に振舞っています。

「大丈夫だよ。さあ、帰ろうか。遅くなると皆に心配掛けてしまうし」

誰かに頼ることを知らないまま、育ったのでしょう。
彼が寂しい時、母は他の手を取っていたのですから。
孤独も、不安も、自分の中に閉じ込めて。
誰にも心配を掛けまいと、人には「大丈夫」と口にして。
自分の部屋では、ずっと独りで、膝を抱えてきたのではありませんか。

「ねえ、ジョシュア。僕達も、あの親子の真似をしてみませんか?」
「真似って?」
「僕の手でよければ、いつでもお貸ししますよ?」
「ありがとう。優しいね、シルヴァンは」

夕焼けを浴びた横顔は、仄暗くて。
空いている左手は、きつく握られていました。

「でも、すまない。止めて置くよ」

ジョシュアの左手は紙袋に添えられました。
紙が摺れる音がして。
彼は搾り出すような声で、低く呟きました。

「一度、触れてしまったら、離せなくなってしまいそうだから」


fin
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