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■カーディス×側近
■王の寝室。第一話~最終話の続編。
---------------------------------
「ラルヴィス。この後の予定は?」
ロレート公国の公用車。
後部座席に、一国の主カーディス1世が居た。
お召し物は黒の燕尾服。晩餐会の帰り道だった。
主の右隣に居る私が答える。
「邸に戻ります。お疲れ様でした、陛下」
「別に疲れてはいないさ。俺は座って居ただけだからな」
白のリボンタイを外し、襟許を緩める。
陛下の右には私、左は私の部下が固めていた。襲撃や暗殺に備えたものだ。
灰色の軍服は、深紅の襟が高く立てられている。
主は左の従者に声を掛ける。
「お前、少しやつれたのではないか?」
「そのように見えますか。すみません、自己管理が足りませんね」
彼は、私より2つ年若い部下。仕事は極めてよくやってくれている。
主に心酔しているせいか、陛下と同じように髪を長く伸ばしていた。
「ラルヴィスに仕事を押し付けられているのか?」
「いえ。閣下は下官にもお優しい方ですから」
「本当か。信じがたいな。上官に言いにくいのなら俺に言え?」
冗談だと思ったらしい部下は、口許を隠して上品に笑う。
主は、キャラメル色の髪を避けて、部下の頬に手を添えた。
「やはり、顎のラインが、以前より細くなっている」
頬から顎へと指を這わせる。
部下は息を飲んで、主を見つめていた。
「陛下、私の部下にお気遣い頂き、恐れ入ります」
私が謝辞を述べると、主はやっと手を離した。
部下は、私に恐縮しているのか、目を伏せている。
主は満足そうな笑みを浮かべて言う。
「何、俺に仕える者達を気遣うのは当然だ」
「私への当て付けかと思いましたが」
「まさか」
他愛の無い会話を繰り返しながら、車は邸へと向かう。
公園を通り掛かった時、信号が赤に変わった。
園内の中央に噴水がある。
他には、滑り台、シーソーなどのカラフルな遊具がある普通の公園だ。
ブランコに一人で座っている男の子が居た。
5歳前後だろうか。今にも泣き出しそうな顔で、鎖を握り締めている。
ブランコの鎖が鳴って、男の子が飛び降りた。
彼は何か叫んで、駆け出す。
その先には、一人の女性。
男の子は、彼女の足に飛び付いた。
母親は愛おしげに、我が子の髪を撫でる。
二人は、さも当たり前かのように手を繋いだ。
親子は公園を出て、何か言葉を交わしながら、歩いていく。
夕焼けの下で、親子の長い影が出来る。
影の手も、しっかりと結ばれていた。
車が動き出して、影が見えなくなる。
視界から親子が消えて初めて、ずっと目で追っていたのだと気付いた。
母は私を捨てた。あのように手を繋いだことはない。
義母は優しかったが、早くに天に召された。
今はもう、彼女の手を取ることは叶わない。
「ラルヴィス」
「あ、はい」
「そう言えば、例の話だがな」
『例の話』などした記憶はない。
何か案件があったかと思いを巡らせていると、
私の左手に何かが触れた。
視線だけ移すと、主の右手に覆われていた。
私の手を取ったまま、陛下の膝の影に寄せられる。
運転手からも部下からも、見えない位置で、
陛下の指が、私の指の間を割り、全ての指を絡め取る。
指に直接伝わるぬくもり。
義母の手もこんな風に温かかった。
「俺では力不足か? ラルヴィス」
いつになく優しい声に、溺れそうになる。
だが、今は執務中だ。部下も居る。
部下の前で醜態を晒せるような性格ではなかった。
眉を顰め、やっと言葉を返す。
「いいえ」
家族が一人も居なくとも、良い。
他の誰も要らない。
「貴方しか居ません、陛下」
主の手を握り返した。
fin
■王の寝室。第一話~最終話の続編。
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「ラルヴィス。この後の予定は?」
ロレート公国の公用車。
後部座席に、一国の主カーディス1世が居た。
お召し物は黒の燕尾服。晩餐会の帰り道だった。
主の右隣に居る私が答える。
「邸に戻ります。お疲れ様でした、陛下」
「別に疲れてはいないさ。俺は座って居ただけだからな」
白のリボンタイを外し、襟許を緩める。
陛下の右には私、左は私の部下が固めていた。襲撃や暗殺に備えたものだ。
灰色の軍服は、深紅の襟が高く立てられている。
主は左の従者に声を掛ける。
「お前、少しやつれたのではないか?」
「そのように見えますか。すみません、自己管理が足りませんね」
彼は、私より2つ年若い部下。仕事は極めてよくやってくれている。
主に心酔しているせいか、陛下と同じように髪を長く伸ばしていた。
「ラルヴィスに仕事を押し付けられているのか?」
「いえ。閣下は下官にもお優しい方ですから」
「本当か。信じがたいな。上官に言いにくいのなら俺に言え?」
冗談だと思ったらしい部下は、口許を隠して上品に笑う。
主は、キャラメル色の髪を避けて、部下の頬に手を添えた。
「やはり、顎のラインが、以前より細くなっている」
頬から顎へと指を這わせる。
部下は息を飲んで、主を見つめていた。
「陛下、私の部下にお気遣い頂き、恐れ入ります」
私が謝辞を述べると、主はやっと手を離した。
部下は、私に恐縮しているのか、目を伏せている。
主は満足そうな笑みを浮かべて言う。
「何、俺に仕える者達を気遣うのは当然だ」
「私への当て付けかと思いましたが」
「まさか」
他愛の無い会話を繰り返しながら、車は邸へと向かう。
公園を通り掛かった時、信号が赤に変わった。
園内の中央に噴水がある。
他には、滑り台、シーソーなどのカラフルな遊具がある普通の公園だ。
ブランコに一人で座っている男の子が居た。
5歳前後だろうか。今にも泣き出しそうな顔で、鎖を握り締めている。
ブランコの鎖が鳴って、男の子が飛び降りた。
彼は何か叫んで、駆け出す。
その先には、一人の女性。
男の子は、彼女の足に飛び付いた。
母親は愛おしげに、我が子の髪を撫でる。
二人は、さも当たり前かのように手を繋いだ。
親子は公園を出て、何か言葉を交わしながら、歩いていく。
夕焼けの下で、親子の長い影が出来る。
影の手も、しっかりと結ばれていた。
車が動き出して、影が見えなくなる。
視界から親子が消えて初めて、ずっと目で追っていたのだと気付いた。
母は私を捨てた。あのように手を繋いだことはない。
義母は優しかったが、早くに天に召された。
今はもう、彼女の手を取ることは叶わない。
「ラルヴィス」
「あ、はい」
「そう言えば、例の話だがな」
『例の話』などした記憶はない。
何か案件があったかと思いを巡らせていると、
私の左手に何かが触れた。
視線だけ移すと、主の右手に覆われていた。
私の手を取ったまま、陛下の膝の影に寄せられる。
運転手からも部下からも、見えない位置で、
陛下の指が、私の指の間を割り、全ての指を絡め取る。
指に直接伝わるぬくもり。
義母の手もこんな風に温かかった。
「俺では力不足か? ラルヴィス」
いつになく優しい声に、溺れそうになる。
だが、今は執務中だ。部下も居る。
部下の前で醜態を晒せるような性格ではなかった。
眉を顰め、やっと言葉を返す。
「いいえ」
家族が一人も居なくとも、良い。
他の誰も要らない。
「貴方しか居ません、陛下」
主の手を握り返した。
fin
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