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■アイヴィー×ハルヤ
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「乗せてくれてありがと、アイヴィー」
ハルヤは黄色いタクシーの助手席に座っていた。
後部座席には、紙袋が2つ置いてある。
アルフォンソ島のスーパーの袋だ。
「荷物、重かったんだ。ほんと助かったよ」
「どーいたしましてっ」
運転席には長い金髪のタクシードライバー。
空色のワイシャツに、黒のネクタイを緩く結んでいる。
街を走行中に、紙袋を抱えた眼鏡の王子を見掛けた。
よろよろ歩いてて、危なっかしくて。
クラクションを鳴らしたが、王子は気付かない。
運転席の窓を開けて、タクシーの方から乗客を捕まえた。
「よっ、マージナルプリンス。送ってやろうか?」
やっと気付いた王子は、驚いたように俺の名を口にした。
運転手はミラー越しに、後部座席を見る。
アイヴィーも日頃お世話になっているスーパーの袋だ。
「今日、寮の奴等とイイコトでもすんのか?」
「うん。レッドの提案でね、バーベキューパーティなんだ」
「ふうん。それでお前がじゃんけんに負けたんだ?」
「そうだけど」
「お前、じゃんけん弱いなー」
「そんなの、しょうがないじゃん…」
「バンド組んだばっかの時も、よく負けてたもんな?」
「だって、じゃんけんって強くなる方法とかないし…」
「お前の場合は特別弱いんだよ。最初にいっつもパー出すからな」
「え…マジで?」
他愛の無い会話を繰り返しながら、車は学院へと向かう。
公園を通り掛かった時、信号が赤に変わった。
園内の中央に噴水がある。
他には、滑り台、シーソーなどのカラフルな遊具がある普通の公園だ。
ブランコに一人で座っている男の子が居た。
5歳前後だろうか。今にも泣き出しそうな顔で、鎖を握り締めている。
ブランコの鎖が鳴って、男の子が飛び降りた。
彼は何か叫んで、駆け出す。
その先には、一人の女性。
男の子は、彼女の足に飛び付いた。
母親は愛おしげに、我が子の髪を撫でる。
二人は、さも当たり前かのように手を繋いだ。
親子は公園を出て、何か言葉を交わしながら、歩いていく。
夕焼けの下で、親子の長い影が出来る。
影の手も、しっかりと結ばれていた。
「ホームシックか、ハルヤ?」
「ううん。平気」
「なーんだ。傷心のとこ慰めて、好感度上げようと思ったのに」
ハルヤに笑顔が戻る。
学院の正門が見えてきた。車は振動もなく滑らかに止まる。
「とーちゃーく。ご乗車頂き、ありがとーございましたっ」
「うん。今日はありがと、アイヴィー。じゃ、またね」
ハルヤは助手席のドアを開けようとする。
が、ロックされていて開かない。
「あれっ? なんか開かないんだけど」
「ああ。俺が閉めてるから」
運転席には集中ドアロックが付いている。
スイッチひとつで、全てのロックが開閉可能だ。
「なにイジワルしてんのさ、開けてよ」
「お客さーん、タクシー代を頂いてませんがー?」
「アイヴィー、俺達からお金取ったことないじゃん?
マージナルプリンスはトクベツとかなんとか言って」
「コトシのハルからセイドがカワリましたー」
「…なんで棒読み? で、タクシー代って幾ら?」
「王子様のキス1回」
「ちょ、な、なに言ってんの!」
「ハルヤはどっちかって言うとお姫様かな?」
「アイヴィー!」
運転手は自分の頬を、人差し指で示す。
「今日は、ほっぺで許してやるぜ?」
「イ、イヤに決まってるでしょ」
「じゃあ降ろしてやんなーい」
「…親バカのお父さんみたいなこと言わないでよ」
「そいつは、当たらずも遠からず、ってとこだなあ」
ほんの冗談のつもりだった。照れる顔が久し振りに見たくなっただけ。
このシャイボーイに、そんな行動ができるわけがないのは百も承知だ。
ドアロックのスイッチを押そうと手を伸ばすと、
頬に温かいものが触れた。
たった一瞬だったが、この柔らかい感触は。
眼鏡の王子を見るとイチゴのように赤い顔をしていた。
「コレで良いんでしょ…降ろしてよ」
アイヴィーは目をぱちくりと瞬かせた後、はははっと笑い出す。
「俺、タクシードライバーやってて良かったー! おとーさんは嬉しいぞ、ハルヤ!」
「イミわかんないこと言ってないで、早くドア開けてっ」
「いやー、おとーさん、今夜は返したくない気分になっちゃったなー」
「何、言い出してんの?」
「せっかく久し振りに会えたんだから、デートくらい付き合えよ」
「デートって…」
「ハルヤ、俺とじゃ嫌か?」
「そ、それは…」
俯いたまま否定して来ない王子に、運転手はますます機嫌を良くする。
「んじゃ、ドコ行っちゃおうかなー」
「でも、俺が帰らないと、みんなバーベキューできないし」
「あ、そーか。それじゃっ」
携帯電話を取り出して、2回だけボタンを押す。
アイヴィーは携帯の向こうに、こう言った。
「よっ、シルヴァン。あのさ、さっきハルヤに街で会ったんだわ。
んで、悪いんだけどハルヤ攫ってくから。後のことヨロシクー。んじゃっ」
それだけ言って、電話を切った。
「あ、アイヴィー!」
「ちゃんと連絡入れたんだから文句ないだろ? じゃ、発車しまーす」
ドライバーの指は停車ランプを解除して、サイドブレーキを下ろした。
ウーティス寮サロン。
シルヴァンは一方的に切られた携帯電話を耳から離す。
周りには、今夜のパーティを楽しみにしている寮生達。
談笑しながら、皆ハルヤの帰りを待っていた。
ジョシュアとユウタは穏やかに、レッドとアンリは活発に言葉を交わしていた。
シルヴァンは「あの、皆さん?」と声を上げると、サロンが一時的に静まる。
「すみません。悲しいお知らせで申し訳ないんですが…」
生徒代表は首を傾げた。
「どうしたんだい、シルヴァン?」
「今日のパーティ、中止みたいです」
「何かあったのかい?」
「ハルヤが攫われました」
静寂の後、叫びと疑問の声が幾つか上がった。
レッドはシルヴァンに詰め寄る。
「じゃあ、今の電話、犯人からか!?」
「ええ。まあ、アイヴィーなんですけどね、誘拐犯」
「はああー!? あいつバカか!?」
「それは尤もですね」
「ったく、ハルヤも易々と攫われてんじゃねーよ!」
「ハルヤが誘惑したんじゃないですか…無自覚に」
「あ、在り得るな…ハルヤのヤツ、自分のこと、ゼンゼン解ってねーからな」
「ええ…アイヴィーの声、異常に浮かれてましたし」
「浮かれてた?」
「はい。おそらく、ハルヤに何か嬉しいことでも言われたんでしょう」
「許せねえ…」
「そうですね。ハルヤを取り返したい所ですが、相手は車ですからね」
バイクでも今からでは追い着けない、とシルヴァンは思う。
しかもスタント並に運転が上手いアイヴィーが相手では歯が立たない。
アンリはどうでもいい、と言わんばかりに頬杖を突く。
「別に心配無いでしょ。取って喰われるわけじゃないんだし」
「喰われたらどーすんだよ!」
ジョシュアは、レッドの肩に手を置く。
「レッド、落ち着いて。彼は学院から認定されたドライバーだ。
生徒を安全に送迎すること、緊急時には保護することを任されている。
ハルヤのことは必ず無事に返してくれるよ」
アンリは冷笑する。
「生徒代表殿、そのドライバーが誘拐犯なんだけど?」
「…まあ、とにかく。パーティはまた今度にしよう?」
「そうだね…」
ユウタは肩を落とす。アンリは扉の向こうに姿を消した。
レッドは怒りが治まらない様子で、どかっとソファに座る。
「アイヴィーのヤツ…。おい、シルヴァン! 電話掛け直せねーのか?」
「ダメですね。電源を切っているようです」
「確信犯じゃねーかよ! 今度会ったら、ぎったんぎったんにしてやる…」
「逆に、ぎったんぎったんにされますって」
「くそー。今日は、じゃんけんで買い出し係を決めようとか言わなきゃ良かった!
ハルヤが負けるに決まってんじゃん! あいつ最初にパー出すんだぞ!」
「どっちが確信犯ですか…」
「あー! ハルヤを返せー!」
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「乗せてくれてありがと、アイヴィー」
ハルヤは黄色いタクシーの助手席に座っていた。
後部座席には、紙袋が2つ置いてある。
アルフォンソ島のスーパーの袋だ。
「荷物、重かったんだ。ほんと助かったよ」
「どーいたしましてっ」
運転席には長い金髪のタクシードライバー。
空色のワイシャツに、黒のネクタイを緩く結んでいる。
街を走行中に、紙袋を抱えた眼鏡の王子を見掛けた。
よろよろ歩いてて、危なっかしくて。
クラクションを鳴らしたが、王子は気付かない。
運転席の窓を開けて、タクシーの方から乗客を捕まえた。
「よっ、マージナルプリンス。送ってやろうか?」
やっと気付いた王子は、驚いたように俺の名を口にした。
運転手はミラー越しに、後部座席を見る。
アイヴィーも日頃お世話になっているスーパーの袋だ。
「今日、寮の奴等とイイコトでもすんのか?」
「うん。レッドの提案でね、バーベキューパーティなんだ」
「ふうん。それでお前がじゃんけんに負けたんだ?」
「そうだけど」
「お前、じゃんけん弱いなー」
「そんなの、しょうがないじゃん…」
「バンド組んだばっかの時も、よく負けてたもんな?」
「だって、じゃんけんって強くなる方法とかないし…」
「お前の場合は特別弱いんだよ。最初にいっつもパー出すからな」
「え…マジで?」
他愛の無い会話を繰り返しながら、車は学院へと向かう。
公園を通り掛かった時、信号が赤に変わった。
園内の中央に噴水がある。
他には、滑り台、シーソーなどのカラフルな遊具がある普通の公園だ。
ブランコに一人で座っている男の子が居た。
5歳前後だろうか。今にも泣き出しそうな顔で、鎖を握り締めている。
ブランコの鎖が鳴って、男の子が飛び降りた。
彼は何か叫んで、駆け出す。
その先には、一人の女性。
男の子は、彼女の足に飛び付いた。
母親は愛おしげに、我が子の髪を撫でる。
二人は、さも当たり前かのように手を繋いだ。
親子は公園を出て、何か言葉を交わしながら、歩いていく。
夕焼けの下で、親子の長い影が出来る。
影の手も、しっかりと結ばれていた。
「ホームシックか、ハルヤ?」
「ううん。平気」
「なーんだ。傷心のとこ慰めて、好感度上げようと思ったのに」
ハルヤに笑顔が戻る。
学院の正門が見えてきた。車は振動もなく滑らかに止まる。
「とーちゃーく。ご乗車頂き、ありがとーございましたっ」
「うん。今日はありがと、アイヴィー。じゃ、またね」
ハルヤは助手席のドアを開けようとする。
が、ロックされていて開かない。
「あれっ? なんか開かないんだけど」
「ああ。俺が閉めてるから」
運転席には集中ドアロックが付いている。
スイッチひとつで、全てのロックが開閉可能だ。
「なにイジワルしてんのさ、開けてよ」
「お客さーん、タクシー代を頂いてませんがー?」
「アイヴィー、俺達からお金取ったことないじゃん?
マージナルプリンスはトクベツとかなんとか言って」
「コトシのハルからセイドがカワリましたー」
「…なんで棒読み? で、タクシー代って幾ら?」
「王子様のキス1回」
「ちょ、な、なに言ってんの!」
「ハルヤはどっちかって言うとお姫様かな?」
「アイヴィー!」
運転手は自分の頬を、人差し指で示す。
「今日は、ほっぺで許してやるぜ?」
「イ、イヤに決まってるでしょ」
「じゃあ降ろしてやんなーい」
「…親バカのお父さんみたいなこと言わないでよ」
「そいつは、当たらずも遠からず、ってとこだなあ」
ほんの冗談のつもりだった。照れる顔が久し振りに見たくなっただけ。
このシャイボーイに、そんな行動ができるわけがないのは百も承知だ。
ドアロックのスイッチを押そうと手を伸ばすと、
頬に温かいものが触れた。
たった一瞬だったが、この柔らかい感触は。
眼鏡の王子を見るとイチゴのように赤い顔をしていた。
「コレで良いんでしょ…降ろしてよ」
アイヴィーは目をぱちくりと瞬かせた後、はははっと笑い出す。
「俺、タクシードライバーやってて良かったー! おとーさんは嬉しいぞ、ハルヤ!」
「イミわかんないこと言ってないで、早くドア開けてっ」
「いやー、おとーさん、今夜は返したくない気分になっちゃったなー」
「何、言い出してんの?」
「せっかく久し振りに会えたんだから、デートくらい付き合えよ」
「デートって…」
「ハルヤ、俺とじゃ嫌か?」
「そ、それは…」
俯いたまま否定して来ない王子に、運転手はますます機嫌を良くする。
「んじゃ、ドコ行っちゃおうかなー」
「でも、俺が帰らないと、みんなバーベキューできないし」
「あ、そーか。それじゃっ」
携帯電話を取り出して、2回だけボタンを押す。
アイヴィーは携帯の向こうに、こう言った。
「よっ、シルヴァン。あのさ、さっきハルヤに街で会ったんだわ。
んで、悪いんだけどハルヤ攫ってくから。後のことヨロシクー。んじゃっ」
それだけ言って、電話を切った。
「あ、アイヴィー!」
「ちゃんと連絡入れたんだから文句ないだろ? じゃ、発車しまーす」
ドライバーの指は停車ランプを解除して、サイドブレーキを下ろした。
ウーティス寮サロン。
シルヴァンは一方的に切られた携帯電話を耳から離す。
周りには、今夜のパーティを楽しみにしている寮生達。
談笑しながら、皆ハルヤの帰りを待っていた。
ジョシュアとユウタは穏やかに、レッドとアンリは活発に言葉を交わしていた。
シルヴァンは「あの、皆さん?」と声を上げると、サロンが一時的に静まる。
「すみません。悲しいお知らせで申し訳ないんですが…」
生徒代表は首を傾げた。
「どうしたんだい、シルヴァン?」
「今日のパーティ、中止みたいです」
「何かあったのかい?」
「ハルヤが攫われました」
静寂の後、叫びと疑問の声が幾つか上がった。
レッドはシルヴァンに詰め寄る。
「じゃあ、今の電話、犯人からか!?」
「ええ。まあ、アイヴィーなんですけどね、誘拐犯」
「はああー!? あいつバカか!?」
「それは尤もですね」
「ったく、ハルヤも易々と攫われてんじゃねーよ!」
「ハルヤが誘惑したんじゃないですか…無自覚に」
「あ、在り得るな…ハルヤのヤツ、自分のこと、ゼンゼン解ってねーからな」
「ええ…アイヴィーの声、異常に浮かれてましたし」
「浮かれてた?」
「はい。おそらく、ハルヤに何か嬉しいことでも言われたんでしょう」
「許せねえ…」
「そうですね。ハルヤを取り返したい所ですが、相手は車ですからね」
バイクでも今からでは追い着けない、とシルヴァンは思う。
しかもスタント並に運転が上手いアイヴィーが相手では歯が立たない。
アンリはどうでもいい、と言わんばかりに頬杖を突く。
「別に心配無いでしょ。取って喰われるわけじゃないんだし」
「喰われたらどーすんだよ!」
ジョシュアは、レッドの肩に手を置く。
「レッド、落ち着いて。彼は学院から認定されたドライバーだ。
生徒を安全に送迎すること、緊急時には保護することを任されている。
ハルヤのことは必ず無事に返してくれるよ」
アンリは冷笑する。
「生徒代表殿、そのドライバーが誘拐犯なんだけど?」
「…まあ、とにかく。パーティはまた今度にしよう?」
「そうだね…」
ユウタは肩を落とす。アンリは扉の向こうに姿を消した。
レッドは怒りが治まらない様子で、どかっとソファに座る。
「アイヴィーのヤツ…。おい、シルヴァン! 電話掛け直せねーのか?」
「ダメですね。電源を切っているようです」
「確信犯じゃねーかよ! 今度会ったら、ぎったんぎったんにしてやる…」
「逆に、ぎったんぎったんにされますって」
「くそー。今日は、じゃんけんで買い出し係を決めようとか言わなきゃ良かった!
ハルヤが負けるに決まってんじゃん! あいつ最初にパー出すんだぞ!」
「どっちが確信犯ですか…」
「あー! ハルヤを返せー!」
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