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■ジョシュア×ハルヤ
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「やあ。ハルヤ」
サロンに入ると優しい声がした。
ジョシュアの声だ。
「これからお茶にしようと思っていたんだ。ハルヤも一緒にどうかな?」
聖アルフォンソ学院の生徒代表で、同じウーティス寮に住んでいる。
彼のことは学院に入る前から知っていた。
『クリスティーナ・グラント』
『王冠を賭けた恋』
『悲劇の王子』
その複雑な境遇から、彼は様々に報道されていた。
『クリスティーナ・グラント』
ジョシュアのお母さん。綺麗な人で、あったかい笑顔に似合う人だった。
彼女は、愛したを亡くした後、ボランティア運動で世界を飛び回っていた。
そのニュースを聞いた時、珍しく感動した。彼女の笑顔が印象的だった。
それから俺はジョシュアのことを知った。
『王冠を賭けた恋』
ジョシュアのお父さん、プリンス・エドワードは、
世界中から批判を浴びても、王位継承権を捨て、クリティーナを選んだ。
当時、エドワード氏には婚約者が別に居たし、
利害関係が複雑なグラント家の令嬢であることも問題視された。
その二人から生まれたのがジョシュア。
彼の境遇が、俺と似ているかもしれないと思った。
皇族と自分じゃ雲泥の差だけど、
俺も禁じられた恋愛の末に生まれた子供だから。
自分より一歳上の、あの王子に、自分の姿を重ねていた。
『悲劇の王子』
ニュースで、王子を見たのはこれが最後。
クリスティーナさんはボランティアの活動中に病気で亡くなった。
両親を失った彼は『悲劇の王子』と呼ばれた。
テレビに映し出された通夜には、彼女を慕う大勢の人が集まっていた。
アナウンサーは、彼女がボランティアで訪れた世界各国から、
花や感謝の手紙が届いている、と報じていた。
通夜の最前列に王子が居た。小さな肢体が黒に染まっている。
『悲劇の王子』は、一度も涙を見せなかった。
幼い声で母への最後の手紙を読み、参列者に礼を述べ、頭を下げていた。
そんな王子を見た時、俺は涙が零れて来た。
テレビを見ていて突然泣き出した俺に、母様は驚いていた。
「どうしたの?」と聞かれても、自分でもよく解らない。
説明することもできなくて、ただ涙を流すことしかできなかった。
まるで、ジョシュアの分まで、俺が泣いているみたいだった。
母様は俺を抱き締めて、背中を撫でてくれた。
俺には抱き締めてくれる母様が居るのに、あの子には居ないんだと思うと、
余計に苦しくて、俺は暫く涙が止まらなかった。
翌日、じいさまの家で日舞の稽古があった。
目を赤く腫らした俺は、じいさまも兄様も心配させた。
父様も、珍しく俺に声を掛けてくれた。
その時も俺は一度も会ったことのない王子を思い出して、泣いてしまった。
それ以降、王子はメディアに姿を現さなくなった。
偶に見掛けるのは、憶測や噂の切れ端だけ。
何年か経って、ふと思い出した時、
王子の消息を調べてみたことがあった。
何処かに留学しているらしい、ということしか解らなかった。
しかも留学先は、メディアによって違う記述もあった。
俺が王子と『再会』したのは辺境の島。
聖アルフォンソ学院。
「初めまして。ジョシュア・グラントです」
その日の夕食は緊張し過ぎて、フォークを床に落としたくらいだっだ。
ジョシュアは「大丈夫だよ」と言って、バトラーに新しいフォークを頼んでくれた。
なんとか慣れてきて、話せるようになったけど。
やっぱり、彼の傍に居られることは、不思議に思う。
気が付くと、彼のことをぼうっと見ていたりする。
こんな孤島の学校で、しかも同じ寮になるなんて。
ずっと雲の上の存在だった。新聞やテレビの中に居る人だった。
だけど、君のことを知っていて。
彼の母が亡くなった時は、自分のことのように泣いていた。
そのことは、彼には言っていないし、これからも言う気はない。
「ハルヤは何を飲む?」
ウーティス寮サロン。
ずっと遠くから見ていた王子様が、俺の名前を呼んでいる。
これから、王子様とお茶の時間だ。
「あの、ジョシュアと同じの」
「ん。了解」
彼は立ち上がって、俺の為にコーヒーを注ぐ。
こぽこぽと温かい音がして、サロンはコーヒーの香りに包まれていく。
テーブルの上には美味しそうなクッキーが並んでいた。
「どうぞ、ハルヤ」
「ありがと」
コーヒーカップからは、湯気がゆらりと昇っている。
ジョシュアも自分の席に着く。彼の人差し指が取っ手に絡む。
カップが唇に近付いていて、前髪が揺れた。白い喉が、こくりと動く。
君と二人でコーヒーが飲める日が来るなんて。
人生って、ほんとわかんない。
ジョシュアがカップを置く。静かに陶器の音が鳴る。
そんな何でもない音すら心地好く聞こえて、頬が自然に綻ぶ。
移ったように、ジョシュアも微笑んだ。
「ハルヤ、何かいいことでもあったのかい?」
「あ、ごめん。別に何もないんだけど、でも…」
「でも?」
「なんか、しあわせだなって思っちゃった」
fin
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「やあ。ハルヤ」
サロンに入ると優しい声がした。
ジョシュアの声だ。
「これからお茶にしようと思っていたんだ。ハルヤも一緒にどうかな?」
聖アルフォンソ学院の生徒代表で、同じウーティス寮に住んでいる。
彼のことは学院に入る前から知っていた。
『クリスティーナ・グラント』
『王冠を賭けた恋』
『悲劇の王子』
その複雑な境遇から、彼は様々に報道されていた。
『クリスティーナ・グラント』
ジョシュアのお母さん。綺麗な人で、あったかい笑顔に似合う人だった。
彼女は、愛したを亡くした後、ボランティア運動で世界を飛び回っていた。
そのニュースを聞いた時、珍しく感動した。彼女の笑顔が印象的だった。
それから俺はジョシュアのことを知った。
『王冠を賭けた恋』
ジョシュアのお父さん、プリンス・エドワードは、
世界中から批判を浴びても、王位継承権を捨て、クリティーナを選んだ。
当時、エドワード氏には婚約者が別に居たし、
利害関係が複雑なグラント家の令嬢であることも問題視された。
その二人から生まれたのがジョシュア。
彼の境遇が、俺と似ているかもしれないと思った。
皇族と自分じゃ雲泥の差だけど、
俺も禁じられた恋愛の末に生まれた子供だから。
自分より一歳上の、あの王子に、自分の姿を重ねていた。
『悲劇の王子』
ニュースで、王子を見たのはこれが最後。
クリスティーナさんはボランティアの活動中に病気で亡くなった。
両親を失った彼は『悲劇の王子』と呼ばれた。
テレビに映し出された通夜には、彼女を慕う大勢の人が集まっていた。
アナウンサーは、彼女がボランティアで訪れた世界各国から、
花や感謝の手紙が届いている、と報じていた。
通夜の最前列に王子が居た。小さな肢体が黒に染まっている。
『悲劇の王子』は、一度も涙を見せなかった。
幼い声で母への最後の手紙を読み、参列者に礼を述べ、頭を下げていた。
そんな王子を見た時、俺は涙が零れて来た。
テレビを見ていて突然泣き出した俺に、母様は驚いていた。
「どうしたの?」と聞かれても、自分でもよく解らない。
説明することもできなくて、ただ涙を流すことしかできなかった。
まるで、ジョシュアの分まで、俺が泣いているみたいだった。
母様は俺を抱き締めて、背中を撫でてくれた。
俺には抱き締めてくれる母様が居るのに、あの子には居ないんだと思うと、
余計に苦しくて、俺は暫く涙が止まらなかった。
翌日、じいさまの家で日舞の稽古があった。
目を赤く腫らした俺は、じいさまも兄様も心配させた。
父様も、珍しく俺に声を掛けてくれた。
その時も俺は一度も会ったことのない王子を思い出して、泣いてしまった。
それ以降、王子はメディアに姿を現さなくなった。
偶に見掛けるのは、憶測や噂の切れ端だけ。
何年か経って、ふと思い出した時、
王子の消息を調べてみたことがあった。
何処かに留学しているらしい、ということしか解らなかった。
しかも留学先は、メディアによって違う記述もあった。
俺が王子と『再会』したのは辺境の島。
聖アルフォンソ学院。
「初めまして。ジョシュア・グラントです」
その日の夕食は緊張し過ぎて、フォークを床に落としたくらいだっだ。
ジョシュアは「大丈夫だよ」と言って、バトラーに新しいフォークを頼んでくれた。
なんとか慣れてきて、話せるようになったけど。
やっぱり、彼の傍に居られることは、不思議に思う。
気が付くと、彼のことをぼうっと見ていたりする。
こんな孤島の学校で、しかも同じ寮になるなんて。
ずっと雲の上の存在だった。新聞やテレビの中に居る人だった。
だけど、君のことを知っていて。
彼の母が亡くなった時は、自分のことのように泣いていた。
そのことは、彼には言っていないし、これからも言う気はない。
「ハルヤは何を飲む?」
ウーティス寮サロン。
ずっと遠くから見ていた王子様が、俺の名前を呼んでいる。
これから、王子様とお茶の時間だ。
「あの、ジョシュアと同じの」
「ん。了解」
彼は立ち上がって、俺の為にコーヒーを注ぐ。
こぽこぽと温かい音がして、サロンはコーヒーの香りに包まれていく。
テーブルの上には美味しそうなクッキーが並んでいた。
「どうぞ、ハルヤ」
「ありがと」
コーヒーカップからは、湯気がゆらりと昇っている。
ジョシュアも自分の席に着く。彼の人差し指が取っ手に絡む。
カップが唇に近付いていて、前髪が揺れた。白い喉が、こくりと動く。
君と二人でコーヒーが飲める日が来るなんて。
人生って、ほんとわかんない。
ジョシュアがカップを置く。静かに陶器の音が鳴る。
そんな何でもない音すら心地好く聞こえて、頬が自然に綻ぶ。
移ったように、ジョシュアも微笑んだ。
「ハルヤ、何かいいことでもあったのかい?」
「あ、ごめん。別に何もないんだけど、でも…」
「でも?」
「なんか、しあわせだなって思っちゃった」
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