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Marginal Prince Short Story
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■アンリ×ハルヤ
■「雨降ってて、うっとうしいなって思ってただけ」
----------------
雨の午後。
ハルヤは本を持って、サロンに向かっていた。
今日は天気良くないから、ちょっと長い本でも読もうかと思った。
廊下の空気は湿り気を帯びていて、重たく感じた。

サロンの前まで来ると、歌声が聞こえた。アンリの声だった。

ハルヤは扉を開けることも、離れることもできなかった。
ドア越しに聞こえてくる歌声。

低い声が、囁くように音を紡いでいる。
ゆったりと繊細な旋律。バラードのようだった。

歌が雨音と折り重なる。切なさが胸に滲み込んで来る。

歌詞はフランス語らしくて、よく聞き取れない。
もしかしたら、アンリが作った歌なのかもしれない。
なんとなく、そう思った。
アンリは、どんな想いで歌っているんだろう。
急に歌声が止まった。

「誰か居るの?」

アンリの声に、慌てて自分の部屋に駆け出した。


離れていく靴音。
アンリはフェンスに凭れる。どうやら聞かれたらしい。
僕に返事をしないことで、相手が誰かなのかは検討が付く。
僕の声を黙って聞いていたことに罪悪感を感じ、
詫びることも、茶化すこともできないような人間は、
この寮に一人しかいない。
彼なら別に、聞かれても良いと思えた。
僕が歌っていたことも、彼は誰にも言えないだろう。
水溜まりには小さな円が落ちては消えた。
空はまだ重苦しい雲に覆われている。



ハルヤは、自分の部屋に飛び込んだ。
大して走ってもいないのに心臓は高鳴っている。
頭の中では今聞いたばかりの曲が流れ始める。

それから俺は暇さえあればベースに触れていた。
耳コピだし、1回しか聞いてないけど、
忘れないようにコードに起こしておこうと思った。

レッドが作った曲を一緒に編曲したことはあったけど。
頼まれてもいないのに、こんなに丁寧に曲に接したことはなかった。
気が付くと自分の中で曲が流れてる。
講義中も、寝る前も。
歌詞の意味を想像したり。
曲の名前はなんだろうとか。
ずっとこの曲に捕らわれているみたいだった。

一週間後。コードに書き起こして、編曲が終わった。
原曲は殆ど変えてない。
繰り返しを入れたりとか再構成しただけだ。
最初から、完成度の高い曲だった。
もし、ライブで披露したら、みんな驚くと思うけど。

壁に立て掛けてあるベースを取る。
この曲が聞けるのは俺だけでいい。

外は今日も雨。しとしとと雨音が部屋に響く。
アンリはまた歌っているのかもしれない。

俺の指から、アンリの曲が流れる。
雨の音と溶け合っていく。

暫く、止みそうにない。


fin
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