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Marginal Prince Short Story
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■テオ×ハルヤ テオ×ジョシュア
■小説ベース
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ウーティス寮。
サロンから出たハルヤは、玄関へ向かう後姿を見掛けた。
腕時計を覗いてみる。
夜9時半。これから出掛けるにしては遅い時間だ。
後姿を追ってみると、緑翠の髪が見えた。

「ジョシュア? 何処行くの?」
「ああ、ハルヤ。ちょっと、生徒代表室にね」
「こんな時間に仕事? 大変なんだね…」
「ああ、違うんだよ。本を忘れてきたみたいでね、すぐに戻るよ」
「そっか…なら良いんだけど…」
「どうしたの?」
「あ。そう言えば、生徒代表室って入ったことないなと思って…」
「そうだね。普通は入る機会のない部屋だから」

ジョシュアは、口許に手をあてる。
二時間前まで居た生徒代表室の様子を思い出す。
机の上に機密書類を置いていないか、綺麗に片付けてきたか。
普段から散らかすようなことはないのだが、念の為の確認だった。
一般生徒の目に触れてはならないもの。
あの部屋には、そればかりが詰まっているのだから。

「ハルヤ、見てみるかい? 生徒代表室」
「良いの? 俺、生徒代表じゃないのに?」
「大丈夫だよ。今日はもう誰も来ないから。一緒に行こうか」

学生課棟。
ジョシュアは、ハルヤを連れて一番奥の部屋へと向かう。
この時間では課の職員も一人も居なかった。
長い廊下には、二人の歩く音だけが寂しく響いている。
夜の校舎は、少し怖い。
特にこの廊下は、独特の孤独感が漂っている。
ハルヤも同じ感想を抱いたのか、俺に一歩近付いてきた。

「あのさ、生徒代表室でいつもどんなことしてるの?」
「そうだね…学院の運営委員との会議があったり、
トップシークレットの資料を読む時に使うことが多いかな。
後は、静かだからね、考え事をしたい時とか」
「考え事…?」
「うん。色々と、ね」

それ以上、ハルヤは聞いてこなかった。
重厚な扉の前に立つ。

「さあ、此処だよ」

ジョシュアが生徒代表室の扉を開ける。
おずおずと入ったハルヤは息を飲んだ。

「うわ…美術館みたい…」

部屋の壁を取り囲むように、肖像画が飾られていた。
ジョシュアは扉を閉め、靴音を響かせながらハルヤの傍に立つ。

「歴代の生徒代表達だよ。あちらから就任した順に並んでいるんだ」

手で示されたものは、相当古い絵のようだった。
元は白だったらしい背景はすっかり色褪せている。
セピアの色合いが長い時を重ねていることを示唆していた。
ハルヤは肖像画を見上げながら、部屋をくるりと見渡す。
学院の歴史の長さを感じずにはいられなかった。
これほど多くの生徒代表達によって、学院が維持、運営されてきたのだと。

「いつか、ジョシュアも此処に飾られるんだね」
「うん。俺は此処に、ね」

現在の生徒代表は、自分の席となる場所を指差す。
一番新しい絵、その隣だった。
ハルヤは、知っている顔を見つけた。

「あ、テオだ」

ジョシュアの前に生徒代表だったテオ・メネシス。
黄金に波打つ髪質で、テオの髪は歩く度に輝いていた。
太陽と海を愛する彼は、褐色の肌がよく似合った。
ギリシャにある実家からは、船やヨットを持ち込んで、
休日には聖アルフォンソ島をクルーズして楽しんでいた。
太陽のように笑う人で、彼が生徒代表の頃は、
まさに、聖アルフォンソ学院の太陽と言っても過言ではなかった。
ハルヤは、テオの顔を見ながら、くすりと笑う。

「おっかしな人だったよねー。ねえ、テオって昔からああいう人?」
「ああいうって?」
「誰にでも美しいとか言う人なんでしょ?
日本には居ないタイプだからさ、最初はほんと、びっくりしちゃったよ」
「テオは、ハルヤのこと気に入っていたからね」
「アジア顔が珍しかったのかなあ」

いつも機嫌の良い人だった。本人曰く、享楽主義。
その瞳に映るものは、彼には全てが眩しく映るらしかった。
彼自身も、周囲を明るく照らすように陽気な人だった。


「君は『東洋の黒い真珠』だね」

ハルヤの入学初日に、テオに付けられた呼び名。
新入生の第一目は、生徒代表の学院案内から始まる。
ハルヤを案内したのは、当時の生徒代表、テオ・メネシスだった。

それからテオは、折に触れてはウーティス寮のハルヤに会いに来た。
自分はシュヌーシア寮であるにも関わらず。
ウーティスのサロンで、ハルヤがアンリと紅茶を飲んでいると、
アンリは突然、ふう、と溜め息を吐いた。
「ハルヤ。生徒代表のお出ましのようだよ?」
間もなく、扉が盛大に開かれた。
黄金の髪に小麦色の肌を持つ生徒代表は、
アンリとハルヤを見るなり、笑顔が全開になった。

「これはこれは。美しい君達が揃うと、まるで一枚の絵画のようだね!」
「…ごきげんよう、生徒代表。相変わらず賑やかな人だね」
「君も相変わらず妖艶だね、その氷の微笑は」
冷笑をむしろ嬉しそうに受け止め、満足気に二人を眺める。
「ああ、いっそ君達を額縁に入れて、私の部屋に飾っておきたいくらいだよ!」
ハルヤは、あはは、と苦笑いを浮かべる。
アンリは最上級生に対して、口には出していないものの、
その顔には「煩いな」と書かれているのがハルヤにも見て取れた。
一向に気にしていないテオは、意気揚々とハルヤの傍に寄る。
「やあ。今日も麗しいね、東洋の黒い真珠」
「こ、こんちは。テオ」
「今度、デッド・プリンスのライブがあるそうだね」
「あ、うん。よく知っているね」
「もちろん。私は熱烈なファンだからね。ライブには必ず伺うよ」
「あ、ありがと」
「ライブの時に、君に渡す薔薇の花束を持っていくね?」
「あのっ、そんな、気使わなくていいから」
「遠慮することはないのだよ? あ、薔薇ではない方が良かったかい?」
「いや、そういう意味じゃなくって…」
「東洋の黒い真珠は、どんな花が好きなのかな?」
「えっと…うちのライブに花束持ってくる人、居ないから…」
「そうなのかい? では今回は止めておこうか。他の物を考えておこう」
「ああ、うん…」
「そうだ。私と二人でクルージングをしてくれる気にはなったかな?」
「いや、それはまた今度、ね」
「ああ、なんと美しいオリエンタルスマイルだ」
「それは、どうも」
「東洋の神秘的微笑が間近で見られて、私は満足だよ」

テオは海運王メネシス一族の次期当主。
一族は有り余る資産を保有しており、世界的なパトロンでもあった。
彼等が手を差し伸べた無名の芸術家が大成した例は少なくない。
此処、聖アルフォンソ学院にも多額の寄付を行っている。
第三学生寮シュヌーシア寮は、メネシスの寄付で建築されたものだ。

「やっぱり貴方の声でしたか。こんにちは、テオ」
サロンの扉が開いて、ジョシュアが顔を見せた。
「やあ、ジョシュア。お邪魔しているよ。ウーティスの花達を愛でていたんだ」
「…花達? ああ、二人のことですか…」
ジョシュアは、テオの後方から二つの視線に当てられる。
ひとつは「この人、邪魔だから何処かに連れ出して」という冷たい視線、
もうひとつは「助けて、ジョシュア」という救いを求める視線だった。
ジョシュアは、二人の要求は汲み取ったものの、テオは上級生で生徒代表だ。
彼に失礼なことは間違っても言いたくない。
一体どうしたら良いものかと困っていると、テオが口を開いた。

「そうだ。ジョシュア、少し君の時間を貰っても良いかい?」
「ええ…それは構いませんが…?」
「ありがとう。では、失礼するよ、ウーティスの花達」
「あ、うん。またね、テオ」
ほっとしたようにハルヤが返事する。
アンリは何も言わなかった。
その視線は、ジョシュアの額に向けられていた。

テオは、ジョシュアを連れて、寮を出る。
キャンパス内を歩いていると生徒達から、テオに声が掛かる。
その全てに、微笑みながら挨拶を返していた。

「ジョシュア」
「あ、はい」
「今日は生徒代表室に行こうか。静かだからね、あの部屋は」
「でも、俺まで入っても良いんですか?」
「もちろん構わないよ。私が共に居るのだからね」

学生課を横切って進んでいくと、長い廊下が見えた。

「この奥が、生徒代表室なんだよ」

テオの後に続く。二人の歩く音だけが響いている。
まだ日も高いというのに、此処だけひんやりと涼しい気がした。
窓から見えるキャンパスや生徒達。
その日常的な空間から、切り離されているような感覚に襲われた。

「…なんだか、寂しい場所ですね」

自分の声に驚いた。思ったままを口にするなんて。
すぐさま非礼を詫びた。
生徒代表は微笑を浮かべながら、こう言った。

「それは一理あるね。けれども一理でしかないと、私は思うよ」

テオは自信に満ちた声で言った。
その意味を考えている間に、「此処だよ」と言われた。

顔を上げると、荘厳な木製の扉。
一般生徒の立ち入りを許さない重々しさを感じる程だった。
テオは片手で扉を開ける。

「ようこそ、生徒代表室へ」

開かれた扉、その向こうは異様な光景だった。
肖像画が壁に並んでいる。多くの目が自分を見下ろしている。
その数に圧倒され、畏怖すら覚えた。

「私の先輩方だよ」
「こんなに…」
「ああ。歴史が長いようだね、この学院は」

周りを見渡してみると、広い机の上に、
PCが一台と、その傍にアンティークな木製電話があった。

電話の方は、何十年も前から使用されているらしかった。
昔の貴族が使っていたような丸型のシックなデザインだ。
受話口と送話口は鈍い金色で、微かに黒に覆われている。
レトロな代物の隣には、近年に生まれたばかりの文明の箱。
其処には長い時を経た過去と現代が鎮座していた。

「ジョシュア。君は森が好きだったね?」
「あ、はい」
「見てご覧? 此処から見る森も、なかなかのものだよ」

自分より遥かに大きな窓。テオの隣から外を眺める。
眼下に広がる月桂樹の森。
ウーティス寮の自室からもよく見ているが、初めて見る角度だった。
何故だか此処から見る森の方が、より深く、広大に見えた。

「気に入って貰えたかな?」
「ええ…とても」

アルフォンソ王が、ナイチンゲールに導かれて、生まれた森。
彼は此処で、居場所を持ち、そして祖国へと還った。
学院に入学した時に、最初に聞いた伝説は、当時の俺を優しく包んだ。
それからずっと、この月桂樹の森が好きだった。

「迷った時は森に聞け。さすれば自ずと答えが見える」

テオは、そう言って、少し笑う。
窓に背を預けて、一枚の肖像画を眺める。

「クラウスがね、そう言っていたんだ」
「貴方の前の…」
「うん。ドイツ軍人の家系でね、とても生真面目な人だった」

テオはいつもの陽気さを失い、憂いの表情を見せていた。
取り残されたかのような瞳で肖像画を見ていた。

「信じられないよ。彼はもう居なくて、彼の席に私が居るなんて」

テオのこれほど沈んだ声を、ジョシュアは聞いたことがなかった。
皆の前では明るい太陽であるテオ。

恒星の如く、一人で輝くことのできる人だと思っていた。

テオは、クラウスから目を逸らす。
ジョシュアを見た時には、いつもの笑顔に戻っていた。

「すまない。私の独り言など聞かせてしまって」
「いえ…」
「ああ、其処に座ってくれたまえ。
ウーティスの話を聞かせて欲しかったんだ」
「はい」

聖アルフォンソ学院には、第一学生寮ウーティスを始め、
アルファルド、シュヌーシアと三つの寮がある。
それぞれは独立国家のようであり、交流は殆どなかった。
只一人、生徒代表だけが、全ての寮を管轄していた。

各寮では、在籍年数の長い生徒や、最も信頼の厚い生徒が、
自然とその国の長となっていた。
ウーティスに於いて、その役割を担っていたのがジョシュアだった。

生徒代表であるテオは時折こうして、
ジョシュアにウーティスの様子を尋ねてくることがあった。
代表にとっては任務であり、義務的な仕事。
当初は、事細かに寮生達のことを聞かれるのかと覚悟していた。
しかしテオは、まるで世間話をするかのように、
いつも楽しそうにジョシュアの話を聞いていた。

「ハルヤはウーティス寮で元気にやっているかな?」
「ええ。特にレッドとシルヴァンと仲良くしていますよ」
「ああ、そうだ。アンリは? 誰かと揉めていない?」
「大丈夫ですよ」
「ウーティスは個性豊かなのに平和そのもののようだね。
これもジョシュアがまとめてくれているからだな。礼を言うよ。
ウーティスは君が居るから、安心して任せられる」
「いいえ。とんでもない。俺は何も」
「私が、ウーティスで一番気に懸けているのは誰だと思う?」
「東洋の黒い真珠、でしょう?」
「彼は美そのものだからね。私の宝石箱に入れておきたいくらいだ」
「気に入っているんですね、ハルヤのこと」
「ああ。他にも居るがね」
「えっ? アンリですか?」

テオはジョシュアの頬に手を添える。
あたたかい手だった。

「君だよ、ジョシュア」
「俺、ですか?」
「そう、君だ」

小麦色の親指で、ジョシュアの頬を撫でる。

「悲しいよ、私は。君の滑らかな肌が少しでも荒れることは」

そっと手を離す。頬には体温の余韻が残る。

「ジョシュア。近頃、あまり眠れていないね?」

静かながらも断定的な口調。
事実、その通りだった。

「はい…」
「自分が、次の生徒代表候補だと噂されていることが原因かな?」
「ええ。俺に生徒代表なんて大役、相応しくないと思っています」
「相応しいかどうかは、選ばれた時点で認められているのだよ」
「テオ」
「ん?」
「貴方は、生徒代表に指名されて、良かったと思っていますか?」
「無論だよ。おかげで新入生にいち早く会える。私が最も気に入っている仕事だ」
「そうですか」
「願わくば、次の生徒代表にも任期を終える頃には、
私と同じように、満足感を味わって欲しい」
「貴方は強い人なんですね」
「いいや。私は享楽主義なのだよ、先祖代々ね」

世界的パトロンと呼ばれる家系の子息が笑う。
PCから機械的な音が聞こえる。ディスプレイに長髪の男が映った。

「テオー。ミーティング始めよーぜ…って誰か来てんのか?」

学院の専属ドライバー、アイヴィーだった。
ジョシュアも彼の車に乗ったことはあるが、
何故、生徒代表のテオとコンタクトが取れるのか解らなかった。
彼は数多く居るドライバーの一人ではないのか?
これからミーティング? それも定期的に行っているような雰囲気だ。
テオは、ふふと笑って長髪の男に応じる。

「少々タイミングが悪いよ、アイヴィー」
「おいおい、テオ。生徒代表室に美人連れ込んで何してんだよ」
「何もできなかったよ、君のせいで」
「そいつはグッドタイミングだったな」

テオは生徒達と話すのと変わりなく、ドライバーと言葉を交わしていた。
軽口を叩く姿は、生徒と居る時より、親しげにさえ見える。
テオは、ジョシュアを振り返る。

「すまない。仕事のようだ。これから彼に付き合わなくてはならない」
「解りました。それじゃ、失礼します」
「うん。またウーティスに遊びに行かせて貰うよ」

重い扉が閉まる。
ジョシュアの靴音が消えるまで、生徒代表と長髪の男は喋り出さなかった。
生徒代表は、歴代の肖像画を見上げている。視線の先には、一番新しい絵。
PCのディスプレイでは、紫煙が昇っていた。長髪の男は、ゆっくりと煙を吐き出す。

「今の美人が、ジョシュア・グラントだな?」
「ああ。そうだよ」
「次期、生徒代表の最有力候補、か」
「生徒達の間ではそう噂されているようだね」
「テオ。お前はジョシュアが任命されると思っているのか?」

生徒代表は運営組織からの指名制だ。
辺境の王子達の中で、王となるに相応しい者が選ばれる。断ることはできない。
新しい生徒代表の名は、全生徒に公表される日まで、
例え、知っていても生徒代表の口からは言えない。
テオは直接的な回答を避けながらも、こう言った。

「彼ならば、この聖アルフォンソ学院を立派に引き継いでくれると確信してるよ」
「へえ。お前さんが言うなら、間違いないな」
「全てを知らされるというのは、時に酷なものだね」
「世の中には、知らない方が幸せなことってあるからな」
「ああ。だから、君の存在はありがたかったよ。同じ立場の人間だからね、君も」
テオは、アイヴィーを正面から見つめる。
「聖アルフォンソ学院理事会、直轄の警備組織。
その責任者が、君のように愉快な人物でね。お気楽者同士、気が合ったせいかな」
「そいつは光栄だな。俺達の総帥にそんなこと言って貰えちゃうと」
アイヴィーの軽口に微笑む。
このように楽しい時間も、残り少ないことが残念に思えた。
肖像画を見上げる。其処に前年度の生徒代表が居る。
クラウス。君も最後は、こんな寂寞たる想いに駆られたかい?

「アイヴィー。私からの最後のお願いだよ」
肖像画を見つめたまま、テオは静かに告げた。
「私の時以上に優しくしてやってくれ。彼は私と違って繊細だからね」
その言葉は暗に、次期生徒代表の名を告げていた。


それから数か月。
現在、生徒代表室の席にはジョシュアが座っている。
ジョシュアは、いつかテオが言っていた独り言を思い出していた。

貴方はもう、此処には居ない。
貴方が座っていた席に、今は俺が座っている。
今でも、本当に俺が生徒代表で良かったのかと不安に思う。
俺に、貴方の後継ぎが務まっているだろうか。

ハルヤはテオの肖像画を懐かしげに見ている。

「テオ、元気かなあ?」
「うん。彼ならきっと」
「天気の良い日はさ、やっぱ海をクルーズしてんのかな?」
「そうかもしれないね。彼は太陽と海を愛していたから」
「あ。そう言えば、俺…」
「どうしたの、ハルヤ?」
「テオにね、二人でクルーズしようって随分言われてたんだけど、
俺、面倒だったし、船って酔いそうだったから、断ってたんだよね。
それで結局、一回も実現しないまま卒業させちゃったなあ、と思って…」

テオを見つめる目は、少し悔恨の色が滲んでいた。
申し訳無さそうに視線を逸らして、呟く。

「一回くらい、言うこと聞いてあげれば良かったな」

ジョシュアは、テオの代わりに言わなくてはと思った。
きっとこれも生徒代表の仕事だ。こほんと咳払いする。

「ありがとう。そう言ってくれるだけで私は満足だよ、東洋の黒い真珠」

振り返ったハルヤに、ジョシュアは微笑した。

「テオなら、きっと、こう言うんじゃないかな?」
「ん。そうかも」
「…東洋の黒い真珠、か」
「どうしたの、ジョシュア?」
「本当、ハルヤにぴったりだなと思ってね。神秘的で美しいから」
「やっ…ジョシュアまで、テオみたいなこと言わないでよ…」
「なんだかテオの気持ちが解った気がする。
可愛い君が見たかったんだね、テオは。
東洋の黒い真珠と呼ばれると、君はそうやって困ったり、照れたりするから」
「ちょっと、ジョシュア…」
「ごめん。これ以上言うと、テオにも怒られてしまいそうだね」

二人はもう一度、肖像画を見上げる。
テオは、太陽のように笑っていた。
今も何処かで、こんな笑顔を見せている、そんな気がした。


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