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■ディーノ×アンリ
■小説ベース ダーク
---------------------
僕の身辺で起こる不穏な事件。
自分の身体を守る為に、僕が選んだ護衛は、
シチリアンマフィアの中でも、最も血に塗れたマンゾーニ家だった。
マンゾーニの次期ボス、ディーノ・マンゾーニを、
僕のビジネスパートナーに選んだ。
長く、ウェーブのかかった黒髪。
浅黒い肌。その口と顎には髭。
地の底から聞こえてくるような低い声。
どれを取っても、うんざりするシチリアーノだ。
「お迎えに参りました、お姫様」
ディーノは黒塗りの車で正門前に現れた。
車の前で立って、後部座席のドアを開けている。
僕は彼を一瞥しただけで、言葉を返さないまま、車に乗った。
デーィノはその後に続いて、入った。
広い後部座席には、僕と彼しかいない。
助手席と運転席には、知らない男達が乗っていた。
ディーノは白いスーツに身を包んでいた。
淡いピンクのシャツに、ネイビーのネクタイを結んでいる。
「会いたかった、くらい言えよ、アンリ」
「空港へ行って」
「可愛い顔して冷たいな。こんなヤツは初めてだ」
「車を出して」
ディーノは口許だけで笑う。
僕の言葉では、この車は動かない。
運転手もマンゾーニの下っ端だ。
ディーノが「出せ」と短く言って初めて、エンジンが掛かった。
長いドライブの始まりだ。
ディーノは黒革のシートの上で足を組む。
僕の許可なく、腕を肩に回してきた。
「さて、お姫様? 今日はどちらの舞踏会に?」
「説明した筈だ。サルデーニャだよ」
「ああ。イタリアの離島な。あそこは気候が良い」
「サルデーニャで商談があるから、君達はその送迎と護衛を」
「さすがに良いスーツ着てるな。ドレスの方が似合いそうだが」
「それから、今夜は現地で宿泊するから…」
「お前の髪って、本当、綺麗だな。好きだぜ?」
「ディーノ。ビジネスの話をしている最中だ」
「良いだろう、普通の話をしたって。俺達はファミリーなんだぜ?」
「ビジネスパートナーと同義ではないの?」
「俺達の世界じゃ、ファミリーというのさ。
だから、お前のことはよく知っておきたい」
浅黒い手が、無遠慮に僕の手を取る。
できることなら振り払いたかったが、それは敵わないことだった。
この車に乗っている者は、皆銃を所持している筈だ。
それでなくとも、このマフィアに逆らえば、どうなるかは解らない。
ビジネス上では僕の方が雇い主だが、
力で、捻じ伏せられるのがどちらかは嫌でも解った。
「俺がお前を守る。ナイトと言っても良い。そう思わないか、俺の、お姫様?」
僕の瞳を見ながら、手の甲に唇を落とした。
「君がナイト? 殺し屋の間違いでしょう」
「ナイトと殺し屋こそ、同義じゃないのか?」
ディーノは片手で僕の顎を掴まえる。
「この島には、これと同じ名前のケーキがあるんだって?」
「何のこと」
「天使の顎って言うんだろう?」
長い指が、僕の顎を引き寄せる。
されるままでしか居られないのが、堪らなく不愉快だった。
「ディーノ…悪ふざけも大概にして」
「ふざけてなんかないさ」
「君達には莫大な契約金を払っている筈だよ」
「ああ、感謝しているよ。サン・ジェルマン伯爵家の次期当主サマ?」
黒髪が僕の背に触れた。
彼の顎鬚に、首の後ろを撫でられる。
「こんな、こと、僕は、頼んでない…」
「俺達はファミリー、だろ?」
「だから、何だと言うの…」
生暖かいものに、首筋をなぞられる。
耳朶を、甘く噛まれた。
吐息が首に掛かる。マフィアは低く笑っていた。
「良いんだぜ? 俺の腕を擦り抜けても」
「…擦り抜けた後…どうするつもり?」
「さあな」
殺されるかもしれない。
常にその想いが頭をよぎる。
この男の手は、とっくに血に塗れている。
幾人もの血を浴び、それでも尚、
こうして薄い笑いを浮かべているのだから。
僕の背が、後部座席のシートに打ちつけられた。
黒革に髪が散らされる。
運転席と助手席から、薄汚い忍び笑いが聞こえてくる。
自分のものとは思えない荒い息遣いも。
やっと、黒髪越しに空港が見えてきた。
僕は、呼吸を整えながら、言葉を放つ。
「…ディーノ…空港だ」
「残念だな、もう着いちまったか」
僕の肩から顔を上げる。
余裕しかない表情で僕を見下ろしている。
息は微塵も乱れていない。
「おや? アンリ、ネクタイが曲がっているぜ?」
僕には睨み付けることしかできなかった。
ディーノは骨張った指で、丁寧にネクタイを直す。
「じゃ、また後で迎えに行くよ、お姫様」
マフィアの目が細く光る。獰猛な鷹の目だ。
今夜も、僕の部屋に来るのかもしれない。
もしその予感が当たっていたとしても。
断れない。
断る気も、起こらない。
「ディーノ」
「何かな、お姫様?」
「もしビジネス関係を断ったら、君は、僕から離れるの?」
「お前次第さ」
ディーノは口の中だけで笑う。
くぐもった笑い声が耳に残った。
「開けろ」彼の命令で後部座席のドアが開いた。
fin
■小説ベース ダーク
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僕の身辺で起こる不穏な事件。
自分の身体を守る為に、僕が選んだ護衛は、
シチリアンマフィアの中でも、最も血に塗れたマンゾーニ家だった。
マンゾーニの次期ボス、ディーノ・マンゾーニを、
僕のビジネスパートナーに選んだ。
長く、ウェーブのかかった黒髪。
浅黒い肌。その口と顎には髭。
地の底から聞こえてくるような低い声。
どれを取っても、うんざりするシチリアーノだ。
「お迎えに参りました、お姫様」
ディーノは黒塗りの車で正門前に現れた。
車の前で立って、後部座席のドアを開けている。
僕は彼を一瞥しただけで、言葉を返さないまま、車に乗った。
デーィノはその後に続いて、入った。
広い後部座席には、僕と彼しかいない。
助手席と運転席には、知らない男達が乗っていた。
ディーノは白いスーツに身を包んでいた。
淡いピンクのシャツに、ネイビーのネクタイを結んでいる。
「会いたかった、くらい言えよ、アンリ」
「空港へ行って」
「可愛い顔して冷たいな。こんなヤツは初めてだ」
「車を出して」
ディーノは口許だけで笑う。
僕の言葉では、この車は動かない。
運転手もマンゾーニの下っ端だ。
ディーノが「出せ」と短く言って初めて、エンジンが掛かった。
長いドライブの始まりだ。
ディーノは黒革のシートの上で足を組む。
僕の許可なく、腕を肩に回してきた。
「さて、お姫様? 今日はどちらの舞踏会に?」
「説明した筈だ。サルデーニャだよ」
「ああ。イタリアの離島な。あそこは気候が良い」
「サルデーニャで商談があるから、君達はその送迎と護衛を」
「さすがに良いスーツ着てるな。ドレスの方が似合いそうだが」
「それから、今夜は現地で宿泊するから…」
「お前の髪って、本当、綺麗だな。好きだぜ?」
「ディーノ。ビジネスの話をしている最中だ」
「良いだろう、普通の話をしたって。俺達はファミリーなんだぜ?」
「ビジネスパートナーと同義ではないの?」
「俺達の世界じゃ、ファミリーというのさ。
だから、お前のことはよく知っておきたい」
浅黒い手が、無遠慮に僕の手を取る。
できることなら振り払いたかったが、それは敵わないことだった。
この車に乗っている者は、皆銃を所持している筈だ。
それでなくとも、このマフィアに逆らえば、どうなるかは解らない。
ビジネス上では僕の方が雇い主だが、
力で、捻じ伏せられるのがどちらかは嫌でも解った。
「俺がお前を守る。ナイトと言っても良い。そう思わないか、俺の、お姫様?」
僕の瞳を見ながら、手の甲に唇を落とした。
「君がナイト? 殺し屋の間違いでしょう」
「ナイトと殺し屋こそ、同義じゃないのか?」
ディーノは片手で僕の顎を掴まえる。
「この島には、これと同じ名前のケーキがあるんだって?」
「何のこと」
「天使の顎って言うんだろう?」
長い指が、僕の顎を引き寄せる。
されるままでしか居られないのが、堪らなく不愉快だった。
「ディーノ…悪ふざけも大概にして」
「ふざけてなんかないさ」
「君達には莫大な契約金を払っている筈だよ」
「ああ、感謝しているよ。サン・ジェルマン伯爵家の次期当主サマ?」
黒髪が僕の背に触れた。
彼の顎鬚に、首の後ろを撫でられる。
「こんな、こと、僕は、頼んでない…」
「俺達はファミリー、だろ?」
「だから、何だと言うの…」
生暖かいものに、首筋をなぞられる。
耳朶を、甘く噛まれた。
吐息が首に掛かる。マフィアは低く笑っていた。
「良いんだぜ? 俺の腕を擦り抜けても」
「…擦り抜けた後…どうするつもり?」
「さあな」
殺されるかもしれない。
常にその想いが頭をよぎる。
この男の手は、とっくに血に塗れている。
幾人もの血を浴び、それでも尚、
こうして薄い笑いを浮かべているのだから。
僕の背が、後部座席のシートに打ちつけられた。
黒革に髪が散らされる。
運転席と助手席から、薄汚い忍び笑いが聞こえてくる。
自分のものとは思えない荒い息遣いも。
やっと、黒髪越しに空港が見えてきた。
僕は、呼吸を整えながら、言葉を放つ。
「…ディーノ…空港だ」
「残念だな、もう着いちまったか」
僕の肩から顔を上げる。
余裕しかない表情で僕を見下ろしている。
息は微塵も乱れていない。
「おや? アンリ、ネクタイが曲がっているぜ?」
僕には睨み付けることしかできなかった。
ディーノは骨張った指で、丁寧にネクタイを直す。
「じゃ、また後で迎えに行くよ、お姫様」
マフィアの目が細く光る。獰猛な鷹の目だ。
今夜も、僕の部屋に来るのかもしれない。
もしその予感が当たっていたとしても。
断れない。
断る気も、起こらない。
「ディーノ」
「何かな、お姫様?」
「もしビジネス関係を断ったら、君は、僕から離れるの?」
「お前次第さ」
ディーノは口の中だけで笑う。
くぐもった笑い声が耳に残った。
「開けろ」彼の命令で後部座席のドアが開いた。
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