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Marginal Prince Short Story
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■テオ×ジョシュア シリアス
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ウーティス寮サロンには静かな時間が流れていた。
ハルヤとアンリはそれぞれ、紅茶を飲みながら本を読んでいた。
会話はなく、ページを繰る音が時折聞こえてくるだけだった。
扉が静かに開く。

「良かった、二人とも居たね」

アンリが怪訝な表情を見せる。

「二人? 僕達がどうかしたの?」

「今日、テオから手紙が届いたんだ」

ジョシュアは手に封筒を持っていた。
前年度の生徒代表の名前に、ハルヤが顔を上げる。

「へえ。テオから?」

「うん。一応、生徒代表室宛だったんだけどね。
二人のこと、たくさん書いてあったから伝えようと思って」

「…アンリはなんか解る気がするけど…俺も? なんで?」
「僕は、ハルヤの方が解るような気がするけれど?」

顔を見合わせる二人に、ジョシュアはふっと笑う。
持ってきた便箋を読み上げる。
上質の紙には、テオの優美な文字で、陽気な文章が並んでいる。

「ハルヤにはね…『東洋の黒い真珠はさぞ美しくなったことだろうね?』って書いてあるよ?」

「…あはは…変わんないなあ、テオ」

「後は『東洋の黒い真珠が恋しくて、
プラックパールを手に入れたけれども、
君の瞳の輝きには敵わなかった』とか」

「や…何言ってんだよ…もう…」

ハルヤは恥ずかしさで、俯いてしまっている。
暫くテオと話していなかったせいで、耐性がなくなっていた。
彼が在学中は会う度に真珠と言われていたので最後には慣れたが、
何か月も過ぎた後に、それもジョシュアの声で言われると、
なんだか、とても恥ずかしかった。

他人事であるアンリは、可笑しそうに言う。

「紙の上でも煩い人だね、テオって」

「アンリのことも書いていたよ?
『氷の微笑を収めた写真があれば送ってくれないか?』って」

「送らせないよ?」

「『ああ、今まさに氷の微笑が浮かんでいるのだろうね!』
…テオによまれているね、アンリ?」

アンリは顔を背け、ハルヤは苦笑する。

「なんか元気そうだね、テオ」
「…うん、そうだね」

ジョシュアの声色が翳りを見せたことにハルヤは気付かなかった。

「あ。そう言えば、テオ…こ…婚約、したんだっけ?」
「うん。ホテル王と言われる家のご令嬢とね」
「どうせ、政略結婚でしょ?」
「アンリ」
「僕、何か間違ったことを言った?」

ジョシュアは返す言葉を見失う。
アンリの言う通りだった。

テオは海運王メネシス一族の末裔として、
メネシスと利害関係が強いホテル王の娘と婚約した。
その意味する所は、互いの家を協力関係と認め合うこと。

悪く言えば、互いの子供達を人質に取り合った、ということだ。
愛を前提とした結婚でないのは、誰の目にも明らかだった。

ハルヤはカップを両手で持ち、感慨深げに言う。
「政略結婚なんて、戦国時代の話かと思ってたけど今でもあるんだ…」
アンリは変わらず冷たく返す。
「もちろんあるよ。一族と財力を維持する為にはね」

ハルヤは手の中にある紅茶に視線を落とす。
同年代の子が婚約した、というだけでもびっくりすることなのに、
政治的な理由で結ばれたなんて。
学院に居る時はいつも楽しそうだったテオ。
太陽の笑顔が消えていないか、少し心配になった。

「ねえ」とアンリが声を上げる。
「その手紙、ジョシュアのことは書いてなかったの?」
「ああ、俺には『生徒代表だからと言って、気を詰め過ぎないように』って」
「へえ。彼、まともなことも言えるんだね」
「アンリ。テオに失礼だよ」
「失礼なんて思わないよ、彼は」

アンリは本を持って、席を立つ。

「失礼するよ。いい? 僕の写真、絶対に送らないでね?」
「解ってるよ、アンリ」

アンリが退室すると、ジョシュアはくすりと笑った。
ハルヤは不思議そうに見つめている。

「ジョシュア?」
「ハルヤは何の写真が良いと思う?」
「え?」
「やっぱりアンジェロ・ボルジアが良いかな? テオは見ていないからね」
「…ジョシュア、写真送るつもりなの?」
「もちろん。テオの頼みを無碍にはできないよ」
「でも、さ。アンリに怒られない?」
「見つからないようにするよ。アンリには秘密にしてくれるかい?」
「う、うん。てゆうか言えないよ…コワくて」
「それから、ハルヤのキモノ姿も送りたいんだけど」
「ええっ? 俺なんかの写真送っても…」
「喜ぶと思うよ? テオ」

大喜びするテオの笑顔が容易に想像できて、
ハルヤは、ちょっと笑ってしまった。

「ね? いいかな、ハルヤ?」
「…しょうがないな」
「ありがとう」
「他の人達の写真は送んないの?」
「送りたいな。彼等は快諾してくれると思うけどね」
「…あ、そっか。そうだよねえ」
「じゃあ、また後でね、ハルヤ」
「うん」

ジョシュアは退室し、自分の部屋へ戻った。
ドアを閉めると、その表情は先までとは違い、沈んでいた。
ゆっくりと歩いて、ベッドに腰掛ける。

――ハルヤが真珠ならば、ジョシュアの瞳はルビーだね?

テオは俺の深紅の瞳のことを、ルビーのようだと言っていた。
呪われた色、とまで噂されるこの色を。
ハルヤやアンリと同じように「美しい」「綺麗だね」と言っていた。
グラントによって流れた血の色、そう囁かれる赤を。
「私の好きな色だ」と、何度も言ってくれた。

封筒から二枚目の便箋を取り出す。

初めの行には「私のルビーへ」と書かれている。
最後の方を見る。
優美な文字は其処だけ、小さく見えた。

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それから、もう何かで知っているかもしれないけれどね?
私は婚約することになったんだ。
まだよく知らない相手を、これから愛せるか、少し不安だよ。

どうやら、私の心は学院に置いてきてしまったようでね。
気が付くと君達のことを考えているんだ。
真珠も氷の微笑もルビーも。私にとっては美しい宝石達だったから。

すまない。これで最初で最後の手紙にするよ。
読み終わったら、燃やしてくれていい。
ではね、私の宝石。

愛していたよ。

      テオ・メネシス
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