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Marginal Prince Short Story
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■テオ×クラウス
■小説ベース
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ウーティス寮から出て来た生徒代表、クラウスは苛々していた。
シルヴァンとの言葉の応酬が原因だ。
生真面目な俺と自由人なあいつでは性格が真逆過ぎて、疲れる。
俺はひとつ溜め息を吐く。
最近、あいつのせいで溜め息の数が多くなったような気がする。

ウーティスから出ると、月桂樹の森へと繋がる入り口があった。
木々の中から、黄金の髪を持つ生徒が出て来た。
ゆったりと歩く様子は何か悟っているようでもあった。
享楽主義が、人前では見せないような顔をしている。
俺と目が合うと、普段の陽気な笑顔になった。

「おや、クラウス? ご機嫌斜めのようだね?」
「…そう思うのなら話し掛けるな、テオ」
「不機嫌な時を除いたら、クラウスに話し掛けられないよ。特に最近は」
「…常に機嫌が悪いというのか、俺が」
「正確には、ウーティスから出て来た時、かな?」
「そんなことはない」
享楽主義はいつものように、楽しそうな笑顔を浮かべた。

テオ・メネシス。17歳。高等部第二学年。
次期生徒代表の最有力候補と言われている生徒だが、
当の本人は気にしていないようだった。
慌てず騒がず、日々楽しく暮らしていた。

森から出て来たばかりのテオは、
「少し、時間をくれる?」と俺を誘って、再び森へ入った。
森の空気は真新しい。いつも新鮮な空気が其処にはある。
ナイチンゲールの鳴き声が音楽のようにも聞こえた。
俺達は木陰で腰を降ろしていた。

「ああ…今日もいい天気だねえ」
たったそれだけのことを如何にも幸せそうに言える奴だった。
「クラウスを怒らせるなんて、なかなかのツワモノだね」
木漏れ陽を受けて、黄金の髪が輝く。
俺より背の低いテオは、可笑しそうに俺をちらと覗いた。
「ダイヤのように屈強な身体と心を持つクラウスを。これほど乱すなんて」
「またダイヤなどと…お前は可笑しなことばかり言うな」
「でも世界一硬い鉱物だよ? 私にはこれ以上ぴったり来る宝石が思い付かないな」
「俺が堅物だと言いたいのか? お前も結構俺を怒らせてるぞ?」
「そう? それは嬉しいな」
「…褒めてないぞ?」
「先程クラウスを怒らせたのは、あの背の高い生徒?」
「ああ、そうだ。ったく。あいつは在り得ん、意味が解らん…」
「確かに、クラウスとは性格が合わないような気がするね」
「合うわけがない。この前もまた街に連れ出されたし」
「おや。クラウス、彼とデートをしたの?」
「テオ! 本当にお前は可笑しなことばかり…」
「二人で行ったんだろう?」
「それは、そうだが、しかし」
「羨ましいな。今度の休日には、私と海に行って欲しいものだね?」
「あのなあ…休日にはアクティヴィティがあるだろうが」
「自主活動なのだから何でも良いんだよ。海の生物研究とでも言えばいいし」
俺は大きな溜め息を吐く。
「何故だ…アルベルトといい、お前といい、シルヴァンといい、
何故、俺の周りには、お気楽な奴ばかり集まるんだ…」
「それは仕方ないね。クラウスの前では皆、お気楽者だよ」
のどかに笑う。不思議と、こちらまで安らぐような笑顔だった。

「ああ、そうだ。クラウスに聞きたいことがあったんだ」
「なんだ」
「生徒代表だけの愉しみには、どんなものがあるの?」
俺は期待に満ちた瞳を向けられた。
テオが最有力候補となってから、生徒代表について聞かれることは初めてだった。
俺は思案する。どういう意図で言っているのか。
自分が本当に選ばれた時の為に心積もりをしておきたい、ということか。
テオは俺の考えを読み取ったのか、ふんわり微笑む。

「皆がね、私がなればいいと言うものだから。少し興味があってね。
生徒代表の愉しさには何があるのか、クラウスに聞きたかったんだ」

テオらしい物言いに苦笑しつつ、俺は溜め息を吐きながら答えた。
「悪いが、俺にとっては楽しむものではない。任務を忠実にこなすだけだ」
「そうかい? 私は万事に愉しさが含まれていると思うけれど」
「お前は何事に於いても『楽しむ天才』だからな」
「あれは? 新入生の学院案内は愉しくはない?」
「俺は好きではない。足の遅い少年に歩幅を合わせるだけで疲れる」
「クラウスが特別早いんだよ。その点、私は問題ないね。
…うん。やはり面白そうだな。生徒代表でなければ、
新入生と、そんな風にゆっくりと過ごせないものね」
テオの笑顔が太陽のように、きらきらと輝いていく。
「新入生の思い出の1ページ目に、生徒代表が刻まれるのか。
ああ、なんと特権的な愉しみなのだろう。素晴らしいね」
「その呆れる程のポジティブ思考は長所と言えるな。
お前なら、生徒代表になっても楽しい毎日を過ごせるだろうよ」
俺の言葉を聞いて、笑顔が急に止まった。
確認するように、ゆっくりと尋ねて来る。
「本当に? 私でも務まると思うかい、クラウス?」
「ああ。俺などよりずっといい生徒代表になると思うが?」

テオは穏やかな微笑みを見せた。
いつもの陽気な笑顔とは少し違う。
この享楽主義は、時々こういう顔をする。
心から嬉しい、とでも言うように柔らかい笑顔。

「ありがとう、クラウス。今の言葉、私の宝箱に大切に仕舞っておくよ」
「…宝箱?」
「うん。愉しかったことを入れておく箱があるんだ。此処に、ね」
テオは胸に手を当てて、瞳を閉じる。
「私の宝箱には、美しいダイヤモンドが、たくさん入っているんだ」
そう言って、木漏れ陽のように笑っていた。

「ほっとしたら、なんだか眠たくなってきてしまったな」
テオのあたたかい手が、俺の膝に触れる。
「すまないけれど、また貸してくれるかい?」
「またかよ」
「だって、クラウスくらいしか居ないからね。体力的にも耐えられる人は」
「可笑しな奴だな。普通の枕の方が寝心地は良いだろうが」
「普通の枕より、クラウスの膝の方が愉しいからね」
その声に冗談めいた響きはない。こいつの感覚は風変わりだ。
「愉しい、か」

テオは、俺の膝に対して、直角に頭を乗せて来る。
必ず、いつもその位置を取っていた。
テオから見て右側に俺が居る。
幸福そうに俺の横顔を見上げてくる。
「ねえ。クラウス、またお願いしても良い?」
「構わないが…髪を梳かれることも愉しい、のか? お前にとっては」
「もちろん、愉しいよ」
テオが瞼を閉じる。
その合図に誘われたように、俺の手は持ち上がった。

テオに会うまで、人の髪を梳くなんてことはしたことがなかった。
この黄金の髪は線が細くて柔らかい。
緩い波は、俺の指に絡んでは離れ、
離れては絡みながら、するすると流れていく。
髪に指を入れ、最後まで撫でて、また指を入れる。
ただ、その繰り返し。
その極めて単純な作業は、何故か俺の心を落ち着かせた。

「すまない、クラウス…」
ふいに、テオは右腕を伸ばして、俺の首に回した。
俺の膝には頭が乗っているので身動きが取れない。
躊躇している間にテオの顔は、息が掛かる程近くにあった。
「おい、テオ」
首に回された腕に引き寄せられて、
俺達の唇は重なっていた。
初めてではなかった。最初もテオから触れてきて。
俺のことが好きだと言われた。
俺は解らなかった。そんなこと解る訳がない。
明確な返事をしていないまま。
こいつに乞われて、唇を重ねることがあった。
叱るとか、振り切るとか拒否することは出来た筈なのに。
何故か、そんな気は起こらなくて。
いつもテオの願いを叶えている自分が居た。
だが今は、場所が場所だ。
此処は月桂樹の森。いつ誰が通っても可笑しくない。
俺は力の差を見せ付けるように顔を離す。

「馬鹿、此処は森だぞ。誰かに見られたら」
「私は構わないけれど?」
「俺は生徒代表なんだぞ。生徒の模範である立場で」
「解っていないね、クラウスは」
「何がだ」
「禁じられたこと程、愉しいと思わない?」
「…テオ。お前と言う奴は」
「ねえ。今のでは足りないよ。もう一度」

また腕に引き寄せられる。
口内で柔らかい感触がした。
甘い。

溶けるような口付けが繰り返され、
吐息混じりに囁かれる言葉。

「クラウス。私はね、太陽と海を愛していた」
「食べてしまいたいよ、クラウス」
「今ではね、太陽より、海よりも…」

愉悦に満ちた時間だった。
まだ日も落ちていない。
自分より年下の男子生徒。
誰かに見られるかもしれない。
生徒代表としてあるまじき姿なのに。

如何して、振り解けない。

このまま。
もっと。

傍に居てやりたい。


fin
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