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Marginal Prince Short Story
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■春臣×春也
■蔦様のリクエスト
-------------------
「これはね、日本では『初恋の味』って呼ばれてるんだ。
なんか聖アルフォンソ島の飲み物みたいだよね」

ハルヤが手にしているのは、白に青の水玉が爽やかな瓶。
270mlの小さめの瓶で、可愛らしい星が描かれたギフト用だった。

日本が初夏を迎えた頃、兄の春臣からこの飲み物が届いた。
箱の中には青いのが3本とピンクが2本。こちらは白桃の味だそうだ。
青い1本を手土産に、シルヴァンと二人でアイヴィーの家に遊びに来ていた。

リビングのロングソファにシルヴァンとハルヤが座っている。
アイヴィーは一人掛けのソファで紫煙を燻らせていた。
海に程近いアイヴィーのコテージ。
窓から初夏の潮風が入って心地良かった。

シルヴァンは物珍しそうに水玉の瓶を見つめている。

「『初恋の味』ですか。そのままこの島で置いてありそうな名前ですね」
「ほんと。そうだよね」
「どうして『初恋の味』なんですか?」
「えっと…甘酸っぱいから、かな? あ、じゃ1杯目は俺が作るね?」

ハルヤは、水玉の瓶を傾け、皆のグラスに注ぐ。
とくとく、と白いドリンクが流れていく。
どのくらい入れれば良かったかな、と思いながら、
とりあえずグラスの半分ほどで止めてみた。
グラス一杯に注がれるものと思っていたシルヴァンは量の少なさに疑問を感じた。

「ハルヤ? あの、僕、もっと飲みたいんですけど…」
「ああ、うん。まだ完成していないんだよ。
アイヴィー、お水ちょうだい? あっ、そうだ。あと氷も」
「あいよ」

アイヴィーから受け取った氷をグラスに入れると、ぽちゃんと白い水玉が跳ねた。
それからミネラルウォーターを注ぐ。
水で希釈されたドリンクは、夏の薄雲のようで、見た目にも涼しげだった。

「ハルヤ、飲んでイイですかっ?」
「あ、ごめん。ちょっと待って」

上手くできたか心配で、先に味見しておこうと思った。
グラスを口許に近付けただけで、懐かしい甘酸っぱい香りがした。

兄様が送ってくれた箱には一枚のメッセージカードが入っていた。
凛とした綺麗な文字で、こう綴られていた。

寮の皆と一緒に飲んでくれ。
夏の稽古中、二人でよく飲んだよな。  春臣

そうだったなあ、とハルヤは当時を思い出した。
和歌山の暑い夏。日舞の稽古が終わると、二人でバタバタと台所に向かってた。
兄様が茶色の瓶を、俺が2つのグラスを持って来て、ちゃぶ台に着く。
氷をたくさん入れたグラスに原液と水を注ぐ。
兄様が作るのは丁度良い甘さなんだけど、俺は甘過ぎるのを作ってた。
それで水を注ぎ足すと、今度は薄過ぎて。
どうしても上手く作れなかった。

――春也が作るのって、いっつも甘いな――

兄様は笑いながら、一人奮闘する俺を見ていた。
最後には「貸してみ?」と言われて、俺のグラスを渡すと、
兄様は俺の分も作ってくれた。それはとっても美味しかった。

あれから10年以上経っても、この飲み物の香りはおんなじで。
なんだか、嬉しい。

ハルヤはグラスを傾ける。
喉に懐かしさが流れて来る。甘さが口の中を覆う。
あの夏の日と何も変わってない。
甘過ぎて、飲めないくらいだった。

ふっと笑みを零したハルヤに、シルヴァンが問い掛ける。

「ハルヤ、どうしたんですか?」
「…ほんと、ヘタだなあと思って」

ごめんなさい、兄様。
俺、まだうまく作れないみたい。


fin
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