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■シルヴァン×ジョシュア
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生徒代表室から戻ってきたジョシュアは浮かない表情をしていた。
先日、学院内で不穏な動きがある、と理事会から報告があった。
学院の物が盗難されたそうだ。
それ自体の被害は些細なものではあるが、何かの予兆かもしれない。
生徒代表のお前さんも気を付けろよ、とアイヴィーに言われた。
それから暫く経つが、今も盗難が続いていた。
俺の身は良いが、皆のことが心配だ。この学院の平和を守りたい。
それが叶うのならば、自分など取るに足らないものだと思っていた。
ウーティス寮の前には、月桂樹の森へと繋がる入り口があった。
木々の中から、長く美しい髪を持つ生徒が出て来た。
ゆったりと歩く様子は何か悟っているようでもあった。
『快楽主義のお調子者』を自称する彼が、人前では見せないような顔をしている。
俺と目が合うと、普段の陽気な笑顔になった。
「おかえりなさい」
「ただいま、シルヴァン」
「生徒代表室帰りですか?」
「そうだけど…よく解ったね?」
「解りますよ。もう二年もお傍に居るんですから」
森から出て来たばかりのシルヴァンは、
「少し、時間を頂いて良いですか?」と俺を誘って、再び森へ入った。
森の空気は真新しい。いつも新鮮な空気が其処にはある。
ナイチンゲールの鳴き声が音楽のようにも聞こえた。
俺達は木陰で腰を降ろしていた。
「あの、ジョシュア?」
「なんだい?」
「生徒代表室で、何か良くない話でも聞いたんですか?」
「…そう、見えるかい?」
「ええ。なんだか、最近お疲れのように見えて」
「ごめん。心配を掛けてしまって」
シルヴァンは後悔の表情を浮かべた。
自分の台詞を思い返す。
彼の性格を考えれば、謝らせることになるのは明白だった。
「ごめんなさい。貴方に謝らせてしまって。あの、そうではなくて」
数か国語も知っているくせに、彼の前では言葉が自由にならなくなる。
伝えたいことが溢れていて、どの言葉を選べば良いのか解らなくて。
思ったままに話せば誤解を生む。
一度、深呼吸をしてから、再び自由にならない言葉を続ける。
「立場上、貴方が一人で機密を守らなくてはいけないのは解るのですが…。
僕でお話を聞けることがあったら、いつでも聞かせて下さいね?
貴方の為に、何か力になれることがあったら、何でもしたいんです」
「ありがとう、シルヴァン。大丈夫だよ」
シルヴァンは、疲れの滲む笑顔から視線を逸らす。
自分の手はいつのまにか、きつく握られていた。
「ありがとう」と言って、微笑まれるのは解っていた。
僕が何を言っても、貴方は何も話すことができないのも。
ジョシュアは月桂樹を見上げながら、話題を変えてきた。
「シルヴァンは、森でお昼寝をしていたのかい?」
「ええ。あ、ジョシュアもしてみます? 気持ち良いですよ」
「でも、俺は…」
「30分くらいでも、すっきりするものなんですよ?」
半ば強引に勧められて、ジョシュアは膝枕までして貰うことになった。
ジョシュアから見て右側にシルヴァンが居る。
幸福そうに俺を見下ろしていた。
森の中には、ナイチンゲールの美声だけが耳に届く。
他の人工的な音は聞こえない。
音を吸収しているみたいだ。俺の好きな音だけが其処にあった。
「僕、ジョシュアの髪って好きなんです」
シルヴァンは俺の髪に指を通していた。
髪を撫でて、もう一度、指を入れる。
ただ、その繰り返し。
なんだか子供に戻ったみたいで気恥ずかしいけれど、
不思議と心が安らいだ。
「すみません、ジョシュア」
ふいに、シルヴァンは身を屈めて、俺の頬に触れた。
躊躇している間にシルヴァンの顔は、息が掛かる程近くにあった。
「シルヴァン。待っ…」
制するように、俺の唇は塞がれた。
初めてではなかった。最初もシルヴァンから触れてきて。
俺のことが好きだと言われた。
俺は解らなかった。
明確な返事をしていないまま。
彼に乞われて、唇を重ねることがあった。
拒否する気には、どうしてもなれなかった。
俺を見つめる彼は、いつもの陽気で自由な彼ではなかったから。
彼が俺に触れる時は、先に「すみません」と謝られることが度々あったから。
いつもシルヴァンの願いを叶えている自分が居た。
俺に想いを掛けるのはいけないことだと充分知りながら、
それでも、彼の菫色の瞳は俺を見つめていた。
自己嫌悪や俺への謝罪を映しつつも、抑えられない。
それほど彼の想いが真剣なことがよく解ったから。
だけど今は、場所が場所だ。
此処は月桂樹の森。いつ誰が通っても可笑しくない。
俺は彼の胸に手を置いて、距離を取る。
「シルヴァン、此処ではいけないよ。誰かに見られたら君が」
「僕は構いませんよ」
「だけど」
「良いですよ、僕は。貴方が許してくれるのなら」
「シルヴァン…」
「続きをしても、良いですか?」
また頬に手を添えられて。
口内で柔らかい感触がした。
甘い。
溶けるような口付けが繰り返され、
吐息混じりに囁かれる言葉。
「愛しています、ジョシュア…」
愉悦に満ちた時間だった。
まだ日も落ちていない。
同じ寮の男子生徒。
誰かに見られるかもしれない。
そしたら、彼を不幸にしてしまうかもしれないのに。
如何して、振り解けない。
最初は戸惑うばかりだった。
君の想いを受け止めることがせいいっぱいだったけれど。
いつしか、君が触れて来るのを待っているみたいだった。
言葉を交わすだけの日はもどかしく感じて。
他のみんなと君が話していると、胸が痛くなる。
いつから、菫色の瞳に魅入られていたんだろう。
このまま。
もっと。
俺を見ていて。
fin
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生徒代表室から戻ってきたジョシュアは浮かない表情をしていた。
先日、学院内で不穏な動きがある、と理事会から報告があった。
学院の物が盗難されたそうだ。
それ自体の被害は些細なものではあるが、何かの予兆かもしれない。
生徒代表のお前さんも気を付けろよ、とアイヴィーに言われた。
それから暫く経つが、今も盗難が続いていた。
俺の身は良いが、皆のことが心配だ。この学院の平和を守りたい。
それが叶うのならば、自分など取るに足らないものだと思っていた。
ウーティス寮の前には、月桂樹の森へと繋がる入り口があった。
木々の中から、長く美しい髪を持つ生徒が出て来た。
ゆったりと歩く様子は何か悟っているようでもあった。
『快楽主義のお調子者』を自称する彼が、人前では見せないような顔をしている。
俺と目が合うと、普段の陽気な笑顔になった。
「おかえりなさい」
「ただいま、シルヴァン」
「生徒代表室帰りですか?」
「そうだけど…よく解ったね?」
「解りますよ。もう二年もお傍に居るんですから」
森から出て来たばかりのシルヴァンは、
「少し、時間を頂いて良いですか?」と俺を誘って、再び森へ入った。
森の空気は真新しい。いつも新鮮な空気が其処にはある。
ナイチンゲールの鳴き声が音楽のようにも聞こえた。
俺達は木陰で腰を降ろしていた。
「あの、ジョシュア?」
「なんだい?」
「生徒代表室で、何か良くない話でも聞いたんですか?」
「…そう、見えるかい?」
「ええ。なんだか、最近お疲れのように見えて」
「ごめん。心配を掛けてしまって」
シルヴァンは後悔の表情を浮かべた。
自分の台詞を思い返す。
彼の性格を考えれば、謝らせることになるのは明白だった。
「ごめんなさい。貴方に謝らせてしまって。あの、そうではなくて」
数か国語も知っているくせに、彼の前では言葉が自由にならなくなる。
伝えたいことが溢れていて、どの言葉を選べば良いのか解らなくて。
思ったままに話せば誤解を生む。
一度、深呼吸をしてから、再び自由にならない言葉を続ける。
「立場上、貴方が一人で機密を守らなくてはいけないのは解るのですが…。
僕でお話を聞けることがあったら、いつでも聞かせて下さいね?
貴方の為に、何か力になれることがあったら、何でもしたいんです」
「ありがとう、シルヴァン。大丈夫だよ」
シルヴァンは、疲れの滲む笑顔から視線を逸らす。
自分の手はいつのまにか、きつく握られていた。
「ありがとう」と言って、微笑まれるのは解っていた。
僕が何を言っても、貴方は何も話すことができないのも。
ジョシュアは月桂樹を見上げながら、話題を変えてきた。
「シルヴァンは、森でお昼寝をしていたのかい?」
「ええ。あ、ジョシュアもしてみます? 気持ち良いですよ」
「でも、俺は…」
「30分くらいでも、すっきりするものなんですよ?」
半ば強引に勧められて、ジョシュアは膝枕までして貰うことになった。
ジョシュアから見て右側にシルヴァンが居る。
幸福そうに俺を見下ろしていた。
森の中には、ナイチンゲールの美声だけが耳に届く。
他の人工的な音は聞こえない。
音を吸収しているみたいだ。俺の好きな音だけが其処にあった。
「僕、ジョシュアの髪って好きなんです」
シルヴァンは俺の髪に指を通していた。
髪を撫でて、もう一度、指を入れる。
ただ、その繰り返し。
なんだか子供に戻ったみたいで気恥ずかしいけれど、
不思議と心が安らいだ。
「すみません、ジョシュア」
ふいに、シルヴァンは身を屈めて、俺の頬に触れた。
躊躇している間にシルヴァンの顔は、息が掛かる程近くにあった。
「シルヴァン。待っ…」
制するように、俺の唇は塞がれた。
初めてではなかった。最初もシルヴァンから触れてきて。
俺のことが好きだと言われた。
俺は解らなかった。
明確な返事をしていないまま。
彼に乞われて、唇を重ねることがあった。
拒否する気には、どうしてもなれなかった。
俺を見つめる彼は、いつもの陽気で自由な彼ではなかったから。
彼が俺に触れる時は、先に「すみません」と謝られることが度々あったから。
いつもシルヴァンの願いを叶えている自分が居た。
俺に想いを掛けるのはいけないことだと充分知りながら、
それでも、彼の菫色の瞳は俺を見つめていた。
自己嫌悪や俺への謝罪を映しつつも、抑えられない。
それほど彼の想いが真剣なことがよく解ったから。
だけど今は、場所が場所だ。
此処は月桂樹の森。いつ誰が通っても可笑しくない。
俺は彼の胸に手を置いて、距離を取る。
「シルヴァン、此処ではいけないよ。誰かに見られたら君が」
「僕は構いませんよ」
「だけど」
「良いですよ、僕は。貴方が許してくれるのなら」
「シルヴァン…」
「続きをしても、良いですか?」
また頬に手を添えられて。
口内で柔らかい感触がした。
甘い。
溶けるような口付けが繰り返され、
吐息混じりに囁かれる言葉。
「愛しています、ジョシュア…」
愉悦に満ちた時間だった。
まだ日も落ちていない。
同じ寮の男子生徒。
誰かに見られるかもしれない。
そしたら、彼を不幸にしてしまうかもしれないのに。
如何して、振り解けない。
最初は戸惑うばかりだった。
君の想いを受け止めることがせいいっぱいだったけれど。
いつしか、君が触れて来るのを待っているみたいだった。
言葉を交わすだけの日はもどかしく感じて。
他のみんなと君が話していると、胸が痛くなる。
いつから、菫色の瞳に魅入られていたんだろう。
このまま。
もっと。
俺を見ていて。
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