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Marginal Prince Short Story
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■ソクーロフ×アイヴィー
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追憶の塔。
海に浮かぶ牢獄と呼ばれた場所。此処に聖アルフォンソ島の警備組織がある。
今日、島への不法侵入者が捕まった。
罪人の黒幕を知る為、ソクーロフが呼ばれた。洗脳、自白のスペシャリストとして。
広い部屋の中央に椅子が在る。
其処には目隠しをさせられた罪人が座っている。スーツ姿で身なりの良い男だった。
彼の傍に靴音がゆっくりと迫る。白衣を纏った医師は椅子の背に手を置いた。

「成程。君は、この島に昨夜着いたんだね?」

「うん…昨日」

「何人で来たのかな?」

「3人で、来た…」

年齢で言えばとっくに大人であろう罪人は、
間延びした口調で、まるで子供のような受け答えをしていた。
それすらも、この医師が操っているらしかった。
白衣の男は、質問に答えられた『子供』を褒める。

「いい子だ。よく言えたね」

罪人の口許に、うっすらと笑みが浮かぶ。
親に褒められた子供そのものだった。

(なんで毎回、こうも上手くいっちゃうかねえ…)

アイヴィーは後方から、ソクーロフのお手並みを拝見していた。
不法侵入者の尋問に立ち会うことが度々あるが、この医師が行う尋問は必ず成功する。

医師は徐々に質問を深くしていた。

「君達は船で来たんだね? 昨夜は、雨に濡れなかったかい?」

「濡れた…船、揺れてて…怖かった…」

「そう。怖かったんだね」

「うん…嫌な予感してた…今日捕まって、
やっぱり悪いこと、しちゃいけないんだな、って思った」

「そうか。君には罪の意識があったんだね。偉い子だ」

親のように語り掛ける医師。優しいのは口調だけだった。
此処に居る時の医師は、生徒達の相談に乗る保健医の顔をしていない。
目の前の研究対象に、狂気的な興味があるようにも見えた。
医師は、罪人の耳許で尋ねる。

「では、この島に君達を仕向けた黒幕を知っているかな?」

「知らない…俺はボスに言われただけ、だから」

「ボスと親しくしている人物に覚えはない?」

「ごめんなさい…俺、ボスのこと、よく解らないんだ…」

「謝ることはない。知らなくて済むなら、その方が良かったのだろう」

医師は身を起こす。
長く束ねた髪が揺れた。

「いいだろう。君へのインタビューは終了だ」

白衣の医師が指を鳴らす。
目隠しをされた男は、がくんと項垂れた。
医師が「連れて行け」と命じると、数名の人間が男を他の部屋へと移動させた。
無機質な部屋には、医師と警備責任者のみとなる。
壁に凭れて、一部始終を見守っていた警備責任者は、煙草に火を点けた。

「アイヴィー。此処は禁煙の筈だが?」
「お仕事終わったんだからイイじゃん。許してよ、センセ?」
「お前、此処の司令官じゃなかったのか? 率先して規則を破るな」

司令官は長い髪に手を通す。
夏場は少し煩わしい長さだった。束ねた方が良いかも、と思った。

「黒幕、誰か解らなかったな。ソクちゃんのエスパーでわかんない?」
「私は超能力者ではない。只のカウンセラーだ」
「タダのってことないでしょ。あんたの前では、
 面白いくらい皆ペラペラ喋り出すんだから。喋った記憶ごと消して、ね。
 俺も知らない間に、ソクーロフに自白させられてたりしてー」
「貴様などに聞きたいことはない」
「ホントかなあ?」
「私は学院に戻る。生徒達のカウンセリングが残っているからな」
「ソクーロフ」
「なんだ」
「…解んだろ、センセ?」


その夜。アイヴィーの愛車に乗って、ソクーロフが家に訪れた。
海が見えるコテージがアイヴィーの自宅だった。
真っ暗な海は何も見えない。
窓から夏の潮風。少し湿気を帯びている。
いつもより暑い夜になりそうだった。

「ソクちゃんってさ、人の話聞くのスキなの?」

ほろ酔いの家主が口を滑らせた。
学院のカウンセラーを務めるソクーロフは、
酔っ払いを特に相手にしなかった。答える義理もない。

酔っ払いはソクーロフが座っているロングソファに移動する。
片手には、氷で薄まったウイスキーを持ったまま、隣に座った。

「人の悩みとかたくさん聞かされてさ、あんたはヘーキなわけ?」

「平気だ。カウンセラーは相談内容に取り込まれないよう訓練している。
 クライアントが何故そう想ったか、という部分に着目するようにな」

「ソクちゃんはー、なんでカウンセラーになろうと思ったの?」

「お前にしては不躾な質問だな。もう酔ったのか?」

「そだね。アイちゃん、酔ってんのカモ♪」

そう返されて、医師は言葉の裏を考える。職業病だった。
台詞と本音が同じとは限らないのは百も承知だ。
この男はアルコールで理性が麻痺しているのか。
それとも狂言か。酔ったフリをして、
敢えて土足で踏み込もうとしているのかもしれない。

表向きは聖アルフォンソ学院の専属ドライバー。
彼を慕う生徒達の前では『気さくな兄』で在り続ける男。
自分のことはアイヴィーと気軽に呼ばせている。
他の呼び方をする生徒は居ない。
この男が自分のフルネームを知らせていないからだ。

「アイヴィー。お前は何故、人を守ることを生業としている?」

酔っ払いは笑い声を上げて、言った。

「やめよっか、この話。面白くなかったね」
「私に振っておいて、自分に振られたら避けるのか。卑怯だな?」
「俺、オトナだもーん」
「そうだな。そろそろオトナの時間だ」
「ソク…」

玄関から喧しい声が上がって来た。

「デッド・プリンス参上!」
「アイヴィー! 遊びに来ちゃいましたー!」
「ごめんね、こんな遅くに」

どやどやと上がってきた、レッド、シルヴァン、ハルヤは、
このリビングでは見慣れぬ人物に驚愕する。
レッドは歓声を上げた。

「ソクーロフ博士じゃん! どーしたんスか、こんなトコで!」
「やあ…アルフレッド。君達がアイヴィーと親しいのは知っていたが、
 これほど、気軽に遊びに来るとは知らなかったよ」

ハルヤは年上の友人を気遣い、心配そうに尋ねた。

「…アイヴィー、どっか具合でも悪いの?」
「いっ、いや、なんていうか…」

言い淀む酔っ払いに代わり、ソクーロフが続ける。

「ハルヤ、心配しなくて良い。定期カウンセリングをしていただけだ」
「定期カウンセリング? アイヴィーをですか?」
「彼は、学院専属のドライバーだからね、私のクライアントの一人なんだ」
「…でも、どうしてアイヴィーの家で?」
「カウンセリングルームはクライアントが落ち着ける場所なら良いんだよ、何処でもね」

ハルヤの質問に対し、保健医はひとつひとつ穏やかに答えていた。
しかし、言外に穏やかではない空気が流れている。
それを一人察知したシルヴァンが、子供達の腕を取る。

「そ、そうでしたか。カウンセリング中に失礼しました。僕達、今日は帰りますね?」
「悪かったね。そうしてくれると助かるよ、シルヴァン」
「いえ。すみませんでした、博士」
「えー。来たばっかじゃん。俺、博士と話したい!」
「ダメですよ、レッド。さあ、帰りましょう。ハルヤも行きますよ」
「え、うん」

引き摺られるように腕が引かれ、デッド・プリンスが退場する。
リビングルームは途端に静寂の空間になった。
保健医は生徒達の前では聞かせない、オトナの声に戻る。

「さすが聡いな、シルヴァン・クラークは」
「…さっきまでの優しい保健室のセンセはどこ行ったのよ」
「私に優しい先生で在って欲しいのか? 違う、だろう?」
「…誰のせいだよ。卑怯なのはお前じゃねえか」
「オトナだからな」


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