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Marginal Prince Short Story
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■アイヴィー×ジョシュア
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「貴方の家は、海が見えるんですね」

アイヴィーの自宅に聖アルフォンソ学院の生徒代表を招いた。
今年の生徒代表、ジョシュア・グラントの髪が潮風に揺れている。
生徒代表室でミーティングが終わった後。
「うちに来るか」と誘ったら、若干の戸惑いを見せながらも、
ミーティングの延長とでも感じたのか「はい」と答えた。
そのまま愛車に乗せて、連れて来ちまった。
デッド・プリンスどもは招かなくても勝手に来るが、
このマージナルプリンスを家に上がらせるのは今日が初めてだった。
最近の生徒代表は何処か気が漫ろで、
ミーティング中も今までと違う表情を見せていた。
聖アルフォンソ学院の生徒代表は、窓から見える景色を眺めている。

「気に入った? 海の見えるおうち」
「はい」
「そ。総帥のお気に召して光栄だな」
「総帥なんて。止めて下さい、そんな言い方」
「だって、俺に命令できんの、お前さんだけだろ?」

聖アルフォンソ島学院直轄の警備組織。
責任者であるアイヴィーの上に立つのが、学院の生徒代表、ジョシュアだった。
事実上、聖アルフォンソ島の王と言っても過言ではない。
アイヴィーより一回り年下の、この18歳の少年が辺境の島を統括する存在だった。

「…そうですけど…生徒代表室に居ない時は、ジョシュアと呼んでくれませんか」
「生徒代表がそうご命令になるのなら、仰せのままに」
「命令じゃありません。俺はお願いしているだけで」
「解ってるってば。ちょっと軍人ゴッコしてみたんだよ」
「…冗談だったんですか。すみません…俺、よく解らなくて」
「謝んなよ。ほーんっと今年の生徒代表は良い子だねー。去年とは大違い」
「…テオ、ですか」

前年度の生徒代表、テオ・メネシス。
大らかな人柄で、学院内に留まらず、島民の間でも人気者だった。

「テオも貴方の家に来たことがあるんですか?」
「ああ。何度かな」
「親しかったんですね」
「まあな。あいつのヨットに乗せて貰ったこともあったかな」

アイヴィーは冷蔵庫を覗く。
それなりに食材が入っていた。まあ、なんとかなりそうだなと思う。

「お前さん、ハラ減ってる?」
「…え?」
「メシ作ってやろっか。あ。言っておくがルックスは悪いぜ?」

パスタやサラダなど、ごく庶民的なメニュー。
珍しそうに見ながらも、王子様は「美味しいです」と食べていた。

「レッド達も此処に来るそうですね?」
「ああ。あいつ等な。勝手に上がりこんで来るんだよ」
「一度食べてみたかったんです。貴方の作る料理は美味しいと聞いていたから」
「うわ。マジかよ。人に言う程のもんじゃねーのに」
「美味しいですよ、本当に。また食べたくなりそうだな」
「こんなんでイイなら、いつでも作ってやるぜ?」
「ありがとう、アイヴィー」
「どーいたしまして。俺、ビール飲んでも良いかな?」
「俺に許可なんか要りませんよ。此処は貴方の家なんですから」
「そう? じゃあ飲んじゃおーっと」
「あの、アイヴィー」
「ん?」
「俺にも、少し頂けますか?」

冷蔵庫から出して来た缶ビール。
普段ならそのまま口を付けて飲むところだが、
王子様の為にグラスで飲むことにした。
グラスに注ぐと、ホップの香りがする。
王子様は一口飲んで、少し笑った。

「…苦いんですね。ビールって」
「お前、初めて飲んだの?」
「ええ。他の、ワインとかなら飲む機会はあったんですが」

ロレート公国の第一王子が小さく言った。
その身分上、パーティなどに駆り出されたこともあるのだろう。
グラントの実家があるイギリスでは16歳から飲酒可能だ。
最近になって、ロレートに何度か足を運んでいるようだし。
そのような酒席では確かにワインの方が並び易いのだろう。

他愛もない話をしていた。
アルコールが入ってからは、ジョシュアも少し話すようになった。
最近、寮であった出来事とか主に友人達の話をしていた。
自分の話が出て来ないのがジョシュアらしいとも言えた。
本人の能力と自己評価の間に余りにも差がある。
本当に去年の生徒代表とは大違いで面白かった。

ジョシュアはふと時計を見て、驚いた様子だった。

「すみません。こんな時間まで…俺、そろそろ寮に戻らないと」
「え? 泊まってけば? 俺、飲酒運転になっちまうし」
「でも、泊まるとは皆に言っていなくて…」

アイヴィーは固定電話の受話器を取る。ウーティス寮に繋いだ。

「バトラー? ああ、オレオレ。お宅のジョシュア、今日俺んち泊めてイイ?
 …丁重にお預かりしてるから大丈夫だよ。それじゃ」

ジョシュアは俯いたまま、言った。

「…俺を泊めて、良いんですか?」
「イイも悪いも、俺、送って行けねーしな。お前さんも、もう少し飲む?」
「…ええ。頂きます」

ジョシュアは俺に注がれた酒に口付ける。
飲ませても表情はあまり変わらなかった。ちっとも赤くならない。

「へえ。お前さん酒強いんだ?」
「そうでもないですよ」
「顔、真っ白なままだぜ?」
「顔に出ないだけです。少しぼうっとしてきました」

そういう口調もしっかりとしたもので、
酔っているようにはとても見えない。

「お前さん、酔って暴れたこととかねーだろ?」
「…はい。ありませんが…?」
「子供ん時、親にワガママ言ったこともない?」
「…多分。ないと思います」
「子供ん時から大人で、今も大人なんだな、お前さんは」

アイヴィーはビールを煽る。
ジョシュアは黙ったままだった。

「ジョシュア、俺が何の為に居るか解ってる?」
「えっ?」
「お前さんをサポートする為なんだぜ? もっと甘えて来いよ」
「そんな…甘えろって言われても…」
「甘え方、わかんない? んじゃ、こっち座って?」

ソファから立たせて、絨毯の上に座らせる。生徒代表の後ろを取った。
アイヴィーはジョシュアの背中からそっと抱いてやった。

「…アイヴィー、あの」
「肩に力入ってる。…甘え方、教えてやるよ?」
「…甘え方?」
「深呼吸して、力抜いてみ?」

言われた通り、深呼吸した。
強張っていた身体の緊張が解ける。

「そ。やればできんじゃん? これが相手に身を任せるってこと。解った?」
「え、はい…」
「んで、これが甘えるってこと」

アイヴィーはジョシュアの肩に顔を埋めた。
見た目より細い身体だった。

「お前はさ、一人で何でも抱え込み過ぎなんだよ、ジョシュア。
 もう少し気軽にやってもイイと思うぜ?」

「はい…すみません」

「謝るとこじゃねーの。ありがとうって言ってみ?」

「ありがとうございます。優しいんですね、貴方は」

「まーね♪」

「…テオにも」

ジョシュアの声色が変わった。
低い温度で、冷たくさえ聞こえた。

「…ジョシュア?」

少年が大人の手を握る。
熱い手だった。

「テオにも、優しくしたんですか?」


fin
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