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Marginal Prince Short Story
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■シルヴァン×ハルヤ、ソクーロフ×アイヴィー前提
06月17日のチャットログ小説版
■シルヴァン:シハル姉さん アイヴィー:呉羽
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アイヴィーは自宅の窓辺に居た。
見えるのは闇色の海。
大きく開いた窓から、遠くで細波が聞こえる。
今はラジオを切っていた。
片手には受話器、もう片方には大分軽くなった缶ビール。
一口飲んだところで、囁かれた言葉に喉をを詰まらせる。

「バカッ・・・電話越しにそういうこと言うなって・・・」

相手は満足気に笑っている。その声でさえ身体に響く。
玄関から物音がした。時計を見ると、そろそろ日付も変わる時刻だった。
こんな時間に、堂々と訪れるものは限られていた。受話器の向こうに伝える。

「あ、悪ぃ。誰か来たみたいだ・・・ホントだってば。
あんたにはウソ吐けないんだからさ? じゃ、切るぜ?・・・ん。また」

受話器を固定電話に戻す。
駆けて来る足音は一人分しかしなかった。
リビングに顔を覗かせたのは、長身に長髪のシルヴァンだった。

「こんばんは、アイヴィー。遊びに来ちゃいました」

ゆったりとした黒のシャツにジーンズ。
部屋からそのまま、何も羽織らずに来たようなラフな格好だった。
こいつは最高学年で付き合いも長くて深い。
今年度の、いや、近年の間で最も親しいマージナルプリンスだ。
勝手に上がり込んで来るのはいつものことだが。

「よお。夜遊びプリンス。今日は一人で来たのか?」
「はい。レッドと・・・ハルヤはもう寝てしまいました」
「あいつ等、寝静まってからわざわざ俺んちに?」
「えぇ。ちょっと・・・話したいことがあって」

目が合うと、何処となく固い笑顔を見せた。

「アイヴィー。僕、喉が渇いちゃいました。何か、ないですか?お酒とか」

酒がなければ話せないことなのだろうか、と思いながらも普通に返す。

「ったく不良だなあ。何が飲みたいんだ?」
「何か、強いやつをお願いします♪」
「強いの、ねえ・・・」

この遊び慣れた不良王子は酒に強い。
ビールじゃ別に強くねえし、と辺りを見渡す。
戸棚に仕舞っていたボトルが目に入る。

「んじゃ、ウイスキーでいいか?」
「はい♪」

丸みがかったリンゴ型のボトルを戸棚から取る。
アルコール度数は40度と高いが、香りは甘い。
キッチンに行って、バーテンダーの真似事をする。
背の低いロックグラスに氷を縁まで入れる。
瓶から流れる琥珀の酒。
水やソーダで薄めない、オン・ザ・ロックス。強い酒をそのまま味わう飲み方だ。
普通のグラスにも氷を入れて、ミネラルウォーターを注ぐ。
こっちは強い酒のお口直し用。チェイサーと呼ばれる、ただの水だ。
琥珀と透明、二つのグラスを置く。

「ほれ。ちょっとキツめにしといたぜ」
「ありがとうございます♪」
「どーいたしまして」

シルヴァンが飲んでいる間に、PCの傍にあるラジオを軽く付ける。
沈黙が気にならないように、というオトナの配慮。
・・・って前、オトナの人が言ってたから。
流れて来たのは緩やかなボサノヴァ。
リラックスできそうな曲調でありがたかった。

俺はまだ途中の缶ビールを飲むことにした。度数は6%と圧倒的に低い。
話したいことがある、と言われて、こちらが潰れるわけにはいかない。
こいつは、マージナルプリンスどもの中でも相当特殊な身分だ。
ゆっくり話すには美味い酒と肴があれば上出来だ。

そう言えばと、冷蔵庫から生チョコを持ってくる。
これは貰い物。ウイスキーに合うって言われてたやつ。
自分では絶対手を出さないような大層な箱に、四角いチョコが綺麗に整列している。
柔らかく溶けるような触感がする高級品。
後は俺の食べ残しのナッツとチーズをテーブルに置く。
ビールのつまみは、ネズミの好物と同じだった。

ロングソファに居るシルヴァンの隣に着く。

「んで、話って?」

普段、陽気なシルヴァンがグラスを両手で支える。
琥珀の液体を見ながら、神妙な声で話し始めた。

「・・・アイヴィーは、誰かを好きになったこと、ありますか?」

俺は缶とキスをする前に止まった。
切り出された言葉にも驚いたが、ハイになるとマシンガンのように喋る奴にしては、
随分と遠回しな話し方だった。俺の恋物語が本題ではない筈だ。

「まあ。お前さんよりは長く生きてるからな」

二倍近く生きてる。
俺なんかがよく生き長らえたものだ。

「そうなんですか?ちょっと意外です・・・」
「意外で悪かったな」

俺は皿からクルミを取る。蝶々型のナッツはウマイ。
シルヴァンは生チョコを食べていた。表情を見る限り、そっちもウマイようだ。

「どんな方を好きになったんですか?」

先程囁かれた言葉まで思い出してしまった。
さっきまで電話をしていた相手だ。

「どんなって・・・ま、まあ、髪の長い人、かな」
「髪の長い人・・・。アイヴィーが好きになるくらいですから
 美人な方なんでしょうね♪」

相手の顔を思い浮かべる。美人と言えばそうかもしれない。
長髪ですらりとした肢体、眼鏡と白衣が似合う人。

「まあ・・・美人っちゃあ美人、かな」
「アイヴィーの好きになった方、見てみたいです♪写真とかないんですか?」

写真に残す必要はないからな、と心の中だけで言う。
会おうと思えばいつでも会える。
車で行けば、メルキュール館なんてすぐそこだ。
もし会えなくなったら写真が必要になるだろうか、
・・・なんてことは今考えることではない。

「写真はねーな」
「そうなんですか。残念です。
 ・・・今も、その人のこと好きだったりするんですか?」
「って俺の話はいいんだよ。お前さんの話だろ?」

シルヴァンは次の生チョコに手を伸ばそうとして、止めた。

「・・・・・・僕の話は、やっぱりいいです」
「おいおい。余計気になんだろーが」

ラジオからボサノヴァが響いて聞こえる。
女性ボーカルのけだるげなアルト。

それ以上は急かさない。喋り始めるまで待つことにする。
俺はピスタチオに手を伸ばす。
クリーム色の殻を割ると、小気味の良い音がした。
お目見えした黄緑のナッツを食べる。
三個目のピスタチオを割った時、やっと口が開いた。

「・・・・・・・・・気に、なるんです。」
「気になるって・・・」
「一緒に居ても居なくても、気になってしまうんです」

重い口調だった。
まるで禁じられた罪を吐露するように。

「・・・好きなんです。あの人のことが」

あの人、で声の調子が変わった。
相手を余程大切に想っていると解る。優しい想いの他に、何か雑じっている。
もっと嬉しそうに報告すりゃあいいのに。なんでこんな複雑な顔してるんだ。

「ほう。そいつはめでたいことなんじゃねーのか?」
「でも!」
「な、何だよ。大声で・・・」
「僕のことなんて友達としか思ってないんですよ」

ちょっと拗ねたような言い方は、
19歳より子供染みていて、少し可笑しい。

「ふうん。じゃあ、今そいつとはお友達なんだ?」
「・・・えぇ」
「島に居るコなわけ?」
「・・・・・・それは、その・・・どうしても答えないとダメですか?」
「いんや。イヤなら、いいけど?」

シルヴァンは、ほっと息を吐く。
酒のせいで幾らか緊張が解けたらしい。落ち着いて素直に話した。

「最初は、友達でもいいと思っていたんです。
 なのに、一緒に居れば居るほど、好きになってしまうんです・・・」

常より小さな声になっていた。19になるプリンスが、
少女のように、はにかむ様子は微笑ましいものだった。
俺はアーモンドを食べる。指先をぺろっと舐めた。

「へえ。お前さん、そのコに大分参ってんなー」

「・・・・・・・・はい」

シルヴァンは顔を真っ赤にしていた。珍しいことだ。

「今日は、いつもの威勢の良いお前さんらしくなくて面白いな。
 顔赤くしちゃってさ、まるでハルヤみたいだぜ?」
「へ!?」
「ほんと、ハルヤみたい。今日のお前さん」

シャイなプリンスを見ているようだった。
日本のお国柄なのか知らないが、あの眼鏡の王子は恥ずかしがり屋だ。
友人のようだと言われて、シルヴァンは異常に照れている。

「そ、そんなことないです。ハルヤみたいだなんて・・・・」
「そういや、ハルヤには相談してないのか、このこと。お前等、仲良いのに」
「は、ハルヤの話題はやめませんか・・・?」
「え? あ、ああ」
「そ、そういえばアイヴィーの好きな人は誰なんですか?
 今も近くに居たりするんですか?」
「俺の話に戻んのかよ・・・ま、まあ。近くには居る、かな・・・」
「この島の人ですか?」

わくわくと俺の返事を待っている。先までのシャイな様子が欠片もない。
嬉々としたシルヴァンが俺に詰め寄る。

「そうだけど・・・」
「実は学院の関係者だったりとか♪」
「・・・関係者っていうかなんていうか・・・」

いつも其処に居るっていうか、
敷地内の宿舎に住んじゃってるっていうか。

「当たりですか!?わあ~♪片想いですか?それとも両想いですか?」

答えるには苦笑が必要だった。

「それは・・・わかんねえな。俺、遊ばれてるだけかもしんねえし」
「アイヴィーが遊ばれる・・・」

シルヴァンは少し首を傾けた後、俺の手を強く握った。
「大丈夫です!僕、応援しますね♪」
手の平は温かく、酔いが回ってきたようだった。
「そりゃ、どーも」
「僕、応援しますから・・・アイヴィーも、応援・・・してくれますか?」
「ああ」

嬉しそうな笑顔を見せて、再びグラスに口付ける。
オン・ザ・ロックスは氷が溶けて、味が薄まって来た筈だ。
味の変化に気付いているのか、こちらからは判断できない。
グラスを置くと、自嘲的に少し笑った。

「・・・怖くて、告白もできないんですけどね」
「意外だねー。お前さんは、ガンガン押してくタイプだと思ってたけど・・・」
「・・・・・・やっぱり、怖いですよ」
「怖い、ね」

おそらく、想いを告げることで相手を失う危険性を案じているのだろう。
自分がどんなに好意を寄せていても、向こうもそうとは限らない。
こいつなら有無を言わさずに連れ去りそうな気もするが。
弱気な一面を見せられて、なんだか不思議だった。

「アイヴィーは怖くなったりしないんですか?」
「怖いっつーか・・・怖いヒトだからな、あいつ・・・」

今までどれだけコワイ想いをさせられて来たか。
考えただけで身震いする。

「怖いヒト・・・」

シルヴァンは唇に指を当てて、視線を泳がせる。
その動きが、はたと止まった。

「僕、ちょっと予想ついちゃいました・・・」

一瞬、俺の反応が遅れる。

「え・・・」
「・・・学院の人・・・ですよね」
「い、いや・・・学院の人っつーか・・・」
「彼・・・ですよね。僕らもお世話になっている・・・」
「ちょ、ちょっと名前は出さないで、お前の胸に閉まっておけ!
 お、俺、怒られそうだから・・・」
「はい♪わかりました♪ なんだか、可愛いですね、アイヴィーってば」
「く、くそ・・・なんでいつのまに俺の話になってんだ・・・」
「ふふ。アイヴィー、話してくれた御礼です♪」

ちゅっ、と頬で音が鳴った。

「だあっ! この酔っ払いがあっ!」

悪びれる様子なく、クスクスと笑っている。
俺は額を手で押さえる。

「ったく・・・忘れてたぜ・・・こいつ酔ったらこーなるんだった・・・」

酒に強く、泥酔することは滅多にないのだが、
アルコールが入ると、キス魔になることが度々あった。
寮の奴等も被害に合ったと聞いた気がする。
上機嫌な酔っ払いが身を寄せて来た。

「ふふふ♪アイヴィーってば本当に可愛いです♪」
「大人に可愛いとか言ってんじゃねえよ・・・」

酔っ払いを押し戻して、缶ビールに口付けた。
もう何も出て来なかった。
酔っ払いから擦り抜けて、冷蔵庫に向かう。
リビングからはゴキゲンな声が飛んで来る。

「じゃあ何て言うんですー?」
「い、言わなくていーから・・・」

冷蔵庫には明るい金色の瓶があった。
瓶は透明で、中の金色のビールが透けて見える。
ラベルの中央に王冠が記されているメキシコのビールだ。
行き付けのバーでは、8分の1に切ったライムを瓶の口に差して出てくる。
ライムを搾って飲むとウマイからだ。野菜室を開けてみたがライムはなかった。

「アイヴィーの可愛らしさを他の言葉で・・・う~ん、
 あ、じゃあ・・・Il est beau. フランス語で言ってみました♪」

栓抜きで蓋を開ける。軽快な音がして、炭酸が弾けた。
瓶を持って、シルヴァンの隣へ戻る。

「イレ・ボウって何よ?」
「フランス語で可愛い、という意味です♪」
「へえ。フランス語ではイレ・ボウって言うのか・・・って、イミ同じじゃん!」
「あは♪いいじゃないですかー」
「ったく。ゴキゲンだなあ、この酔っ払いは・・・」
「アイヴィーがいろいろ話してくれたからですよー♪」
「お前が話があるってうちに来たのに、なんで俺がいろいろ話してんだか・・・」
「いいじゃないですか♪僕の話より、アイヴィーのお話の方が楽しいですし♪」
「俺は楽しくねーよ。お前、絶対言うなよ!」
「言いませんよー♪」
「俺の死活問題だからな・・・」

小刻みに震え出した両肘を抱える。
もし、あいつにバレたら。
笑顔だけは恐ろしく美しいまま・・・何をされるか解らない。

「あは♪本当に可愛いですね、アイヴィーは♪僕、好きですよ。可愛い人って♪」
「・・・ふうん。可愛い人が好きなんだ?」
「え!?」

シルヴァンは大きな声を出した後、俺を見て、言葉を繋いだ。

「アイヴィーのことは好きですよ♪」
「・・・俺に好きとか言わなくて良いんだよ・・・」
「なんでですかー?好きですよ♪アイヴィー」
「俺じゃないやつに言いたい言葉なんだろ?」

シルヴァンはソファの上で、体育座りをする。
膝に腕を乗せる。長い肢体は随分とコンパクトに見えた。

「・・・・・・本当は、言いたいです」
 アイヴィーにだったら、こんなに簡単に言えるんですけどね」

腕に顔を乗せていた。黒いシャツの上に、白い肌。
華やかな顔立ちも、今は元気がない。

「アイヴィーを好きになれば良かったのかもしれませんね」
「ちょ、お前、なに言い出してんだよ・・・びっくりさせるな」
「びっくりさせちゃいましたー?あは♪すみません♪」

ぱっと明るくなる。表情がコロコロ変わる奴だ。
俺は大人のフリをしている子供だが、
こいつは子供のフリをしている大人なんだと思う。

普段はハイなバカだが、腕にはとんでもない枷を嵌められている。
こいつの秘密を聞かされた時は驚いた。それは寮生達にも言えないこと。
シルヴァンが俺を慕っているのは、
秘密を隠さずに済む存在だからかもしれなかった。

以前、一人でうちに遊びに来たシルヴァンが、
立てないくらい泥酔した時が一度だけあった。
入学して三ヶ月程経った頃だったと思う。
抱き着くわ、キスするわで、とても寮には戻せなかった。
酩酊したこいつは言った。とろんとした目で微笑みながら。

「家族の居場所も教えてくれないんですよ? イジワルですよね」

重い重い愚痴だった。
それは初めて零した愚痴だったんだろう。

それを聞かされてからかもしれない。
シルヴァンを可愛い弟のように思い始めたのは。
好きな人が居るけど怖くて好きだと言えない、その悩みも可愛いと思ってしまう。
俺の手は自然とシルヴァンの頭を軽く撫でていた。

「いつか言えるといいな、そのコに」
「そう、ですね。いつか・・・言えたらいいですね」

シルヴァンは腕に顔を乗せたまま、俺を見上げて笑った。

「僕、こうやって、あなたに頭を撫でてもらうのも好きですよ」
「俺を口説くな・・・」
「いいじゃないですかー♪」

明るい声は少しトーンが落ちた。

「本当に好きな人には、何も言えないんですから・・・」

ぺしっと頭を軽く叩く。

「・・・お前の方が可愛いっつの」
「ありがとうございます♪でも、僕の好きな人は、
僕よりももっとずっと可愛い人ですよ?」
「へえ。そいつは見てみたいもんだね。そんな可愛いコなら」

ラジオの曲が変わる。次はトルコ音楽。
遊牧民の民謡で、陽気でゆったりとした曲だった。

「見て、ますよ」
「え? 今、何か言った?」
「いえ、何にも♪」
「・・・ん? そーか?」

シルヴァンは自分の前にある二つのグラスを見つめていた。
ウイスキーか水か。
少し迷った後、その手は水を取った。
白い喉がこくこくと動く。
半分を一気に飲んで、グラスを置いた。

「・・・・・・・・・いえ、やっぱりフェアじゃないですよね。僕も話します」
「お?」

長い指は透明なグラスに触れている。

「・・・僕の好きな人にはアイヴィーも会ってますよ」
「え。マジで・・・」
「・・・はい」
「俺が会ってて、可愛いコ?」
「・・・えぇ」
「可愛いコって・・・保健室に割と世話になってたりする?」
「・・・・・・・・・」
「・・・金髪の?」
「金髪?」
「よく泣いてるコ・・・じゃない?」
「あ、もしかしてミハイルですか?あは♪確かに可愛いコですよね♪」
「ミハイル・・・じゃないのか。他の可愛いコ・・・」
「さあ、どうでしょう♪」
「お前の友達で、可愛いコで、保健室に来るコだろ・・・それって・・・」

ある眼鏡っ子の顔が思い浮かぶ。

「俺、もしかして、すげー知ってるやつじゃねーのか?」

シルヴァンと親しく、恥ずかしがりや。
食べ過ぎで、よく腹痛を起こして保健室に来る。
最もシャイなデッド・プリンス。
この家に勝手に上がれる三人のうちの一人。
他に思い付かない。

「俺んち来たり・・・してる・・・?」

シルヴァンは真っ赤に頬を染めていた。
友人のようだと言われて、異常に照れていた理由がやっと繋がる。

「カワイーな。お前」
「・・・・・・あ、アイヴィーの方が可愛いですよ」
「いや、お前の方がカワイーって♪」
「・・・・・・・・僕の、好きな人・・・わかったのなら、
 言い出せない気持ちもわかりますよね?」
「ん・・・まあ、な。言っちゃってもイイんじゃねーかとも思うけどな」
「ダメです!」

突然の大声に俺が気圧される。

「・・・ダ、ダメなのか?」
「怖いんです・・・。ハルヤに嫌われるのが・・・」
「嫌われる、ねえ」
「はい・・・」
「あいつも、お前のこと、けっこースキだと思うけどなー」
「え・・・? で、でも、それは友達としての好き、なんじゃないですか?」
「俺がシルヴァンと夜遊びしたら、あいつ、なんか困ったかんじの顔するし・・・」

ハルヤが一人でうちに来た時があった。
俺が作ったメシを大量に平らげて。
グリーンティで一服していた時、ハルヤは言っていた。

「あのさ。この前、シルヴァンとお酒飲みに行ったんだって?」
「ん? ああ」
「シルヴァン、自慢してた。アイヴィーに・・・き、キスしてきたって・・・」
「そうそう。参ったぜ」
「あの・・・シルヴァン、いつも・・・するの?」
「酔った時はなー。あれ? お前、されたことないの?」
「あ、あるわけないよ。そんなこと」

あの時も顔を真っ赤にしてたけど。
もしかして、あいつ、俺に妬いてたのかも。

「ハルヤが・・・?本当ですか・・・?それ・・・・・・」
「ほんと」
「僕、期待してしまってもいいんでしょうか・・・?」
「ん。イイと思うぜ、俺は」
「僕、帰って告白してきます!!」
「はやっ!!!」
「・・・酔った勢いで、どうにかなると思うので♪」
「酔った勢いって・・お前」
「さすがにシラフでは僕も言えませんよ」
「よしっ! いってこい!」
「はい!ありがとうございます、アイヴィー♪」

ちゅっ、と柔らかいものが頬に押し付けられた。
俺は頬に手で触れる。

「・・・ったく・・・お前はまた・・」

陽気な笑顔で、軽く敬礼する。

「じゃ、行ってきます!相談に乗ってくれてありがとうございました♪」

バタバタと部屋を出て行った。
シルヴァンが居なくなったリビングには、がらんと広くなった。
ラジオで流れていたトルコ音楽は、丁度止まった。
次はジャズだ。クラシックギターが気持ちよく響いている。
俺は煙草に火を付けた。
ポッとオレンジの光が灯る。深く吸う。

「大丈夫かなあ・・・ハルヤが」

酔った勢いのシルヴァンに、体当たりされてそうだ。
まあ、上手く行かないってことはないだろう。
今夜はあいつ等にとって、記念すべき日になるかもしれない。
瓶ビールを取って、残りをラッパ飲みする。

「お先に祝杯、上げておいたぜ?」

時計を見ると、もう1時を回っていた。
そろそろ寝た方が良いかもしれない。
PCの傍にある固定電話が目に入る。
俺はラジオを止めた。

怒られるかな。
そう思いながらも手を伸ばしていた。
相手がすぐに出た。俺の声は明るくなった。

「よっ。・・・ああ、今帰ったとこ。シルヴァンだった」

皿からカシューナッツを取る。
白い三日月型の木の実。
人差し指と親指で摘んで、空に掲げてみる。
夜空にあるのと同じ形をしてた。

「・・・ん。お酒飲みながらオシャベリ・・・それはナイショ」

俺は窓辺に立つ。
夜の海も、朝の海も。
みんな好きだ。
受話器の向こうに伝える。

「あ、あのさ。今なら、いいよ?」

シルヴァンを見ていたら、すっかり当てられちまって。
この低い声が聞きたくなっていた。
耳に残る声は、とぼけやがった。

「・・・何って、さっきあんたが言ったんだろ」

耳にサディスティックな声が届く。
ダメだ。
やっぱり、この声には敵わない。

「・・・今から、行ってもイイ?」


fin
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