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■アイヴィー×ソクーロフ
■追憶の塔の続編
-------------------------
「俺も知らない間に、ソクーロフに自白させられてたりしてー」
今日、私が罪人を自白させた後。
軽い調子でアイヴィーは言った。私も軽く返した。
「貴様などに聞きたいことはない」
「ホントかなあ?」
それは本当ではなかった。
アイヴィーに聞きたいことは、あった。
その類の質問は、奴が素面でも、そうでなくても全て避けられた。
「アイヴィー。お前は何故、人を守ることを生業としている?」
私がそう尋ねた時も。
この男は笑うだけだった。
「やめよっか、この話。面白くなかったね」
「私に振っておいて、自分に振られたら避けるのか。卑怯だな?」
「俺、オトナだもーん」
この男は自分の過去について語らない。
聖アルフォンソ島に来るまでは軍に在籍していたと、
彼のプロフィールは語っているが、其処で何があったのかは記述されていない。
その若さで軍人としてはトップクラスの鬼才だったことは、
彼の肉体や身体能力から想像に難くないが。
おそらくはこの男も『訳あり』の人間なのだろう。
でなければ、この辺境の島へは辿り着かない。
この男は、私が罪人に自白を試みる場面に、何度も立ち会っていた。
「ハカセのお手並み、拝見しても良い?」と。
追憶の塔の最高責任者ならば立ち合いを特別断る理由もない。
私が許可すると、この男はいつも後方から見ていた。
一度だけ、鏡を通して、後方に居る彼の顔を見たことがある。
其処には、不真面目な司令官も、生徒達の兄も居なかった。
罪を吐露する人間を見る目には、羨望の色が混じっていた。
この男と仕事をするようになってから。
話せば話す程、傍に居れば居る程。
掴み所のない男だと感じた。
性格や趣向については、知り尽くしている。
こちらが何と言えば、どう返されるか。
向こうが何と言えば、どう返せば良いのかも。
だが、何かをずっと隠されている。
私の自白の手法を用いれば、無理矢理吐かせることも可能だ。しかし――
「ソクーロフ? どしたの?」
隣に居る男は、寝返りを打って私の方を見た。
長い金髪は枕の上に広がり、
床には脱ぎ捨てられたブルーのワイシャツが転がっている。
「…いや」
「こういう時まで考え事するなんて、イジワルだね…俺、妬いちゃうよ?」
いい年をして、子供っぽく振舞う。
生徒達とも同年代かのように言葉を交わす。
だが、心の奥には鋼鉄の扉がある。
誰も其処へは入らせない。
何を隠している。
「アイヴィー」
「んー?」
「私の自白剤を、飲ませてやろうか?」
「ヤだ、ハカセってば。お仕事道具、オモチャにするつもり?」
「ふざけるな。…お前、懺悔したいことがあるだろう?」
「そりゃ、長く生きてるからね。1個や2個は誰にでもあるんじゃない?」
「自白という手段を用いてでも、懺悔したいことがあるのではないのか?」
アイヴィーは曖昧な微笑を見せた。
「サンキュ。でも…悪いな。言えないんだわ、どーしても」
「何故だ」
一瞬で奴の雰囲気が変わる。
呟かれた声は、とても小さかった。
「知ったら…みんな俺のこと嫌いになっちゃうよ」
「…嫌いに?」
ふっと息を吐くと、いつもの笑顔で私を真っ直ぐに見た。
誘うように、私の髪に指を通してくる。
「ね。それより…続き、してくんない? あんた焦らし過ぎ」
「駄目だ。まだ話が」
「俺にガマンばっかりさせて、ほんっとサディストなんだから」
「アイヴィー」
「イジワルなサディストさんに、今夜は俺がお仕置きしちゃおっかな?」
「待てっ…」
私の言葉は塞がれて、話ができなくなった。
それ以来、聞いていない。
自白させようと思えば可能なのに。
時が経つ程、その気が失せる。
知りたいと思う一方で、
知ってはいけないと警鈴が鳴る。
こんなことは初めてで、私の予測を超える男だった。
アイヴィーは、一度、私を解放した。
口調は軽く、いつもと変わらない。
「好きだよ、ソクーロフ。俺ほんと、あんたにメロメロ」
「…私が聞きたいのは、そんなことではない」
「あれ。『愛してる』の方が良かった? ごめんねー、イロケなくって」
ひひ、と少年のように笑う。
その後に一瞬見せた顔は、子供ではなかった。
「…ホント、ごめんな。ソクーロフ」
fin
■追憶の塔の続編
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「俺も知らない間に、ソクーロフに自白させられてたりしてー」
今日、私が罪人を自白させた後。
軽い調子でアイヴィーは言った。私も軽く返した。
「貴様などに聞きたいことはない」
「ホントかなあ?」
それは本当ではなかった。
アイヴィーに聞きたいことは、あった。
その類の質問は、奴が素面でも、そうでなくても全て避けられた。
「アイヴィー。お前は何故、人を守ることを生業としている?」
私がそう尋ねた時も。
この男は笑うだけだった。
「やめよっか、この話。面白くなかったね」
「私に振っておいて、自分に振られたら避けるのか。卑怯だな?」
「俺、オトナだもーん」
この男は自分の過去について語らない。
聖アルフォンソ島に来るまでは軍に在籍していたと、
彼のプロフィールは語っているが、其処で何があったのかは記述されていない。
その若さで軍人としてはトップクラスの鬼才だったことは、
彼の肉体や身体能力から想像に難くないが。
おそらくはこの男も『訳あり』の人間なのだろう。
でなければ、この辺境の島へは辿り着かない。
この男は、私が罪人に自白を試みる場面に、何度も立ち会っていた。
「ハカセのお手並み、拝見しても良い?」と。
追憶の塔の最高責任者ならば立ち合いを特別断る理由もない。
私が許可すると、この男はいつも後方から見ていた。
一度だけ、鏡を通して、後方に居る彼の顔を見たことがある。
其処には、不真面目な司令官も、生徒達の兄も居なかった。
罪を吐露する人間を見る目には、羨望の色が混じっていた。
この男と仕事をするようになってから。
話せば話す程、傍に居れば居る程。
掴み所のない男だと感じた。
性格や趣向については、知り尽くしている。
こちらが何と言えば、どう返されるか。
向こうが何と言えば、どう返せば良いのかも。
だが、何かをずっと隠されている。
私の自白の手法を用いれば、無理矢理吐かせることも可能だ。しかし――
「ソクーロフ? どしたの?」
隣に居る男は、寝返りを打って私の方を見た。
長い金髪は枕の上に広がり、
床には脱ぎ捨てられたブルーのワイシャツが転がっている。
「…いや」
「こういう時まで考え事するなんて、イジワルだね…俺、妬いちゃうよ?」
いい年をして、子供っぽく振舞う。
生徒達とも同年代かのように言葉を交わす。
だが、心の奥には鋼鉄の扉がある。
誰も其処へは入らせない。
何を隠している。
「アイヴィー」
「んー?」
「私の自白剤を、飲ませてやろうか?」
「ヤだ、ハカセってば。お仕事道具、オモチャにするつもり?」
「ふざけるな。…お前、懺悔したいことがあるだろう?」
「そりゃ、長く生きてるからね。1個や2個は誰にでもあるんじゃない?」
「自白という手段を用いてでも、懺悔したいことがあるのではないのか?」
アイヴィーは曖昧な微笑を見せた。
「サンキュ。でも…悪いな。言えないんだわ、どーしても」
「何故だ」
一瞬で奴の雰囲気が変わる。
呟かれた声は、とても小さかった。
「知ったら…みんな俺のこと嫌いになっちゃうよ」
「…嫌いに?」
ふっと息を吐くと、いつもの笑顔で私を真っ直ぐに見た。
誘うように、私の髪に指を通してくる。
「ね。それより…続き、してくんない? あんた焦らし過ぎ」
「駄目だ。まだ話が」
「俺にガマンばっかりさせて、ほんっとサディストなんだから」
「アイヴィー」
「イジワルなサディストさんに、今夜は俺がお仕置きしちゃおっかな?」
「待てっ…」
私の言葉は塞がれて、話ができなくなった。
それ以来、聞いていない。
自白させようと思えば可能なのに。
時が経つ程、その気が失せる。
知りたいと思う一方で、
知ってはいけないと警鈴が鳴る。
こんなことは初めてで、私の予測を超える男だった。
アイヴィーは、一度、私を解放した。
口調は軽く、いつもと変わらない。
「好きだよ、ソクーロフ。俺ほんと、あんたにメロメロ」
「…私が聞きたいのは、そんなことではない」
「あれ。『愛してる』の方が良かった? ごめんねー、イロケなくって」
ひひ、と少年のように笑う。
その後に一瞬見せた顔は、子供ではなかった。
「…ホント、ごめんな。ソクーロフ」
fin
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