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■ウーティス寮とアイヴィー
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聖アルフォンソ島 南西の海岸。
アイヴィーの自宅に、元気いっぱいの王子達が到着した。
「アイヴィー! 泊まりに来てやったぜ!」
「お土産も持って来ましたー!」
レッドとシルヴァンを、苦笑しながら家主が出迎えた。
「はいはい、ようこそマージナルプリンスども。まーた突然来やがって」
「今回はちゃんとアポ取ったじゃないですか」
「さっきだろ。当日に『今から泊まりに行く』とか電話掛けてくるかよフツー」
ハルヤは楽しそうに笑う。
「いいじゃん。ねえ、アイヴィー。今日はね、新しい友達連れて来たんだよ?」
ハルヤの後ろから、小柄な少年が顔を出す。
ユウタはアイヴィーと目が合うと、ぴょこんと頭を下げた。
「こ、こんにちは…」
一か月前に聖アルフォンソ学院に送り届けた新入生だ。
学院の専属ドライバーはいつもと変わらず気さくに応じた。
「おっ。今日は新しいプリンスも来たのか。ガッコには慣れたかい、ユウタ?」
「うん。俺の名前、覚えててくれたんだ。ありがとう、アイヴィーさん」
レッドがユウタの首に腕を回す。
「『さん』なんか付けなくてイイって。なっ、アイヴィー?」
「お前が言うことかよ。俺の台詞だろ?」
ハルヤが、アイヴィーのワイシャツを引っ張る。
「ね。アイヴィー、おなかすいた」
「ハルヤ。着いた早々かよ」
「すぐに作れるように色々持ってきたんだ。これで作って?」
スーパーの紙袋を見せられる。
空腹に任せてたくさんの食材を買って来たようだ。
「ったく。用意周到な計画犯どもが」
口は悪態を吐きながらも、頭はこれで何が作れるかを考え始めていた。
ウーティス寮サロン。
出張先から帰ってきたアンリが、サロンに顔を出すと、
其処に居たのはジョシュアだけだった。
明日到着予定のアンリの顔を見て、
長年の友人はコーヒーカップを持ったまま、驚いた様子だった。
「アンリ、おかえり。早かったね」
「ああ。商談がスムーズに終わったから」
ジョシュアは、学院から一歩出るとその身に危険が降り掛かる友人を案じる。
「怪我は、ないかい?」
「見ての通りだよ」
「良かった」
そう言う笑顔は心からの安堵を示していて。
直視できずに、アンリは鞄とスーツのジャケットをソファに置く。
一人掛けの自分の席ではなく、ジョシュアの傍に座った。
寮に戻った時から感じていた違和感を、口に出す。
「今日は静かだね、この寮」
「皆なら今夜はアイヴィーの家に泊まるって。さっき四人で出掛けたんだ」
「君を置いて?」
「俺は明日早くに、生徒代表の仕事があるから、遠慮したんだよ」
「ふうん。今夜は僕と君だけなんだ」
「遊び相手が居なくてつまらない?」
「言ってないでしょ、そんなこと」
「そんな顔をしているよ?」
「ソクーロフみたいなこと言わないで」
機嫌を損ねた友人を見て、ジョシュアはカップを置いた。
「俺では務まらないかな? 遊び相手」
アンリは冷笑して、頬杖を突いた。
「何をして遊ぶつもり?」
ジョシュアも同じポーズを取る。
「さあ。どうしようか?」
「相手してあげても良いけどね、別に。僕を退屈させなければ」
微笑んだジョシュアは、すっと席を立った。
「じゃあ、俺の部屋に行こうか?」
「それって、此処ではできない遊びなの?」
「此処でも良いけれど、オモチャが俺の部屋にあるからね?」
アイヴィーの自宅。
リビングには賑やかな声が響き渡る。
ロングソファに座っているのはレッドとユウタだ。
レッドにほっぺたを両手で潰されているユウタが、かろうじて声を出す。
「れっどー。にゃにするんだおー」
噴き出したレッドは膝を叩いていた。
「ユウターお前、サイコー!」
「俺はサイコーじゃないよ、もー」
膨れた頬をレッドは片方掴んで横に伸ばす。
「はははっ! ユウタのほっぺたって、スゲー伸びるっ!」
「俺もお返ししちゃうよっ! ユウタダイビーング!」
ユウタがレッドの上に飛び掛かる。
キッチンではアイヴィーが苦笑混じりにパスタを茹でていた。
「ソファ、壊れそうだな…あいつら、いつもあんなに仲良いわけ?」
隣に居るシルヴァンもクスクスと笑っている。
「ええ。子犬みたいですよね、二人とも」
その隣に居るハルヤが、包丁を置く。
まな板の上には、正確に裁断されたきゅうりとトマトが整列していた。
「アイヴィー、サラダの野菜、切れたよ?」
「サンキュ。じゃあ、適当に盛り付けて、出して来てくれるか?」
「うん」
シルヴァンは手を合わせて、まな板の上を覗き込む。
「綺麗な切り方ですね! 今日もハルヤの包丁捌き、お見事でした!」
「別に大したことじゃないよ」
「おい、シルヴァン。お前見てるだけかよ。ココに居るなら、なんか手伝え」
「僕はハルヤを見るのに忙しいんです」
ウーティス寮。ジョシュアの部屋。
ジョシュアとアンリは二人で遊んでいた。
深紅の瞳は、すぐ傍にある琥珀の瞳を見つめている。
余りに穏やかで、受け止められない。
「僕の顔見て、そんなに面白いの?」
「いや。こうして、二人で夜を過ごすのは、久し振りだなと思って」
「それが?」
「良いね。たまには二人だけの夜も」
「そう」
「アンリは良いと思わない?」
吐息交じりに苦情を訴えた。
「余計なお喋りは良いから…早く…してよ」
「気が短いね、アンリは」
「早く抜いて」
「もう少し待って、アンリ」
「僕を焦らさないで」
「ん。解った。じゃ、いくよ?」
ジョシュアの指が、そうっと動く。
引き抜くと、アンリは眉を顰め、目を閉じた。
がらがらとタワーが倒れた。
二人の前に立っている積み木の塔。
ジョシュアが引き抜いた途端に、大きな音を立てて崩れた。
ブロックタワーから一本ずつ交代に抜いて、一番上に積み上げる。
倒してしまった人が負け、というイギリス発祥のゲーム。
三連勝したアンリは、くすりと笑う。
「また僕の勝ちだね?」
「うん。強いなあ、アンリは」
「君が弱いんだよ。ねえ、この遊び、そろそろ止めない?」
「うん。次は何がいい?」
「決まっているでしょ? 僕が勝ったのだから」
「え?」
「僕の言うことを聞いて貰うよ?」
アイヴィーの自宅。
大皿で山程作った料理は、四人の男子生徒に拠って次々に空になっていった。
夕食後、レッドに無理に酒を飲まされたユウタは、すぐに顔を真っ赤にした。
騒いでいたレッドも酔いが回って眠ってしまった。
シルヴァンは寝室を覗く。
家主のベッドはまだ空いている。
その下に雑魚寝している友人達が三人。
テーブルの上には綺麗に畳まれた眼鏡。
ハルヤは部屋の隅で毛布に包まって、静かに眠っている。
部屋の中央には堂々と足を広げて、眠っているレッド。
その足は、ユウタのお腹の上に乗っかっていた。
ユウタの寝顔は若干苦しそうだ。
シルヴァンは声を立てないように笑って、静かにドアを閉めた。
リビングに戻って来ると、ソファに居るアイヴィーの隣に座る。
「皆さん、よく眠っていました」
「あっそ」
「アイヴィーも見てきます? 可愛い寝顔でしたよ?」
「見ねえよ。わざわざ見なくても、大体解るし」
「おや。問題発言ですね? ご説明願えます?」
「ばーか」
アイヴィーが息を吐くと、ゆるりと紫煙が昇る。
灰皿の上で、煙草を振る。
白い灰が落ちた。
「アイヴィー。僕にも一本くれませんか?」
胸ポケットから箱とライターを出して、手渡す。
「ありがとうございます」
シルヴァンは流れるような手付きで、火を付けた。
俺のキツイ煙草を、美味そうに吸っていた。
暫く二人は黙って、煙草を楽しんでいた。
その静寂は苦ではなく、心地の良いものだった。
なんだか、眠くなってきた。
腹がいっぱいだからかもしれないが、今日の場合は少し違うような気がした。
「お前さんは寝なくて良いのか?」
「ええ。僕、ダメなんですよ、こういう楽しい夜は」
「ダメって?」
「眠れなくなっちゃうんです。眠ってしまうのが勿体無くって」
シルヴァンも俺と同じ気持ちらしい。
こいつは、楽しい、とプラスの感情をストレートに表現できる奴だ。
年を取る度に、なかなかできなくなることだ。
「アイヴィーは眠らなくて良いんですか?」
「寝ようかと思ったけど。お前にもう少し付き合ってやるよ」
「…ねえ。アイヴィー。今度は、僕、一人で来ても良いですか?」
「んなこと聞くなよ。ダメだって言ったって来るんだろーが」
「ハイ。じゃ、今日は素直に寝ることにします。
あ、僕達の寝込み、襲わないで下さいね?」
「誰が襲うか」
突然、アイヴィーの頭が引き寄せられて、ほっぺで「ちゅっ」と音がした。
シルヴァンはイタズラが成功した子供の笑顔になる。
「楽しい夜をありがとうございました。今のはお礼です」
「お礼になるかよ。てゆうか、襲ってんのお前じゃん」
「すみません、つい♪ おやすみなさい、アイヴィー」
長い髪を跳ねさせて、寝室へと引き上げて行った。
リビングに残った大人は、独りごちた。
「マージナルプリンスどもめ」
今日の煙草は美味い。
紫煙は揺らめきながら、溶けていった。
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聖アルフォンソ島 南西の海岸。
アイヴィーの自宅に、元気いっぱいの王子達が到着した。
「アイヴィー! 泊まりに来てやったぜ!」
「お土産も持って来ましたー!」
レッドとシルヴァンを、苦笑しながら家主が出迎えた。
「はいはい、ようこそマージナルプリンスども。まーた突然来やがって」
「今回はちゃんとアポ取ったじゃないですか」
「さっきだろ。当日に『今から泊まりに行く』とか電話掛けてくるかよフツー」
ハルヤは楽しそうに笑う。
「いいじゃん。ねえ、アイヴィー。今日はね、新しい友達連れて来たんだよ?」
ハルヤの後ろから、小柄な少年が顔を出す。
ユウタはアイヴィーと目が合うと、ぴょこんと頭を下げた。
「こ、こんにちは…」
一か月前に聖アルフォンソ学院に送り届けた新入生だ。
学院の専属ドライバーはいつもと変わらず気さくに応じた。
「おっ。今日は新しいプリンスも来たのか。ガッコには慣れたかい、ユウタ?」
「うん。俺の名前、覚えててくれたんだ。ありがとう、アイヴィーさん」
レッドがユウタの首に腕を回す。
「『さん』なんか付けなくてイイって。なっ、アイヴィー?」
「お前が言うことかよ。俺の台詞だろ?」
ハルヤが、アイヴィーのワイシャツを引っ張る。
「ね。アイヴィー、おなかすいた」
「ハルヤ。着いた早々かよ」
「すぐに作れるように色々持ってきたんだ。これで作って?」
スーパーの紙袋を見せられる。
空腹に任せてたくさんの食材を買って来たようだ。
「ったく。用意周到な計画犯どもが」
口は悪態を吐きながらも、頭はこれで何が作れるかを考え始めていた。
ウーティス寮サロン。
出張先から帰ってきたアンリが、サロンに顔を出すと、
其処に居たのはジョシュアだけだった。
明日到着予定のアンリの顔を見て、
長年の友人はコーヒーカップを持ったまま、驚いた様子だった。
「アンリ、おかえり。早かったね」
「ああ。商談がスムーズに終わったから」
ジョシュアは、学院から一歩出るとその身に危険が降り掛かる友人を案じる。
「怪我は、ないかい?」
「見ての通りだよ」
「良かった」
そう言う笑顔は心からの安堵を示していて。
直視できずに、アンリは鞄とスーツのジャケットをソファに置く。
一人掛けの自分の席ではなく、ジョシュアの傍に座った。
寮に戻った時から感じていた違和感を、口に出す。
「今日は静かだね、この寮」
「皆なら今夜はアイヴィーの家に泊まるって。さっき四人で出掛けたんだ」
「君を置いて?」
「俺は明日早くに、生徒代表の仕事があるから、遠慮したんだよ」
「ふうん。今夜は僕と君だけなんだ」
「遊び相手が居なくてつまらない?」
「言ってないでしょ、そんなこと」
「そんな顔をしているよ?」
「ソクーロフみたいなこと言わないで」
機嫌を損ねた友人を見て、ジョシュアはカップを置いた。
「俺では務まらないかな? 遊び相手」
アンリは冷笑して、頬杖を突いた。
「何をして遊ぶつもり?」
ジョシュアも同じポーズを取る。
「さあ。どうしようか?」
「相手してあげても良いけどね、別に。僕を退屈させなければ」
微笑んだジョシュアは、すっと席を立った。
「じゃあ、俺の部屋に行こうか?」
「それって、此処ではできない遊びなの?」
「此処でも良いけれど、オモチャが俺の部屋にあるからね?」
アイヴィーの自宅。
リビングには賑やかな声が響き渡る。
ロングソファに座っているのはレッドとユウタだ。
レッドにほっぺたを両手で潰されているユウタが、かろうじて声を出す。
「れっどー。にゃにするんだおー」
噴き出したレッドは膝を叩いていた。
「ユウターお前、サイコー!」
「俺はサイコーじゃないよ、もー」
膨れた頬をレッドは片方掴んで横に伸ばす。
「はははっ! ユウタのほっぺたって、スゲー伸びるっ!」
「俺もお返ししちゃうよっ! ユウタダイビーング!」
ユウタがレッドの上に飛び掛かる。
キッチンではアイヴィーが苦笑混じりにパスタを茹でていた。
「ソファ、壊れそうだな…あいつら、いつもあんなに仲良いわけ?」
隣に居るシルヴァンもクスクスと笑っている。
「ええ。子犬みたいですよね、二人とも」
その隣に居るハルヤが、包丁を置く。
まな板の上には、正確に裁断されたきゅうりとトマトが整列していた。
「アイヴィー、サラダの野菜、切れたよ?」
「サンキュ。じゃあ、適当に盛り付けて、出して来てくれるか?」
「うん」
シルヴァンは手を合わせて、まな板の上を覗き込む。
「綺麗な切り方ですね! 今日もハルヤの包丁捌き、お見事でした!」
「別に大したことじゃないよ」
「おい、シルヴァン。お前見てるだけかよ。ココに居るなら、なんか手伝え」
「僕はハルヤを見るのに忙しいんです」
ウーティス寮。ジョシュアの部屋。
ジョシュアとアンリは二人で遊んでいた。
深紅の瞳は、すぐ傍にある琥珀の瞳を見つめている。
余りに穏やかで、受け止められない。
「僕の顔見て、そんなに面白いの?」
「いや。こうして、二人で夜を過ごすのは、久し振りだなと思って」
「それが?」
「良いね。たまには二人だけの夜も」
「そう」
「アンリは良いと思わない?」
吐息交じりに苦情を訴えた。
「余計なお喋りは良いから…早く…してよ」
「気が短いね、アンリは」
「早く抜いて」
「もう少し待って、アンリ」
「僕を焦らさないで」
「ん。解った。じゃ、いくよ?」
ジョシュアの指が、そうっと動く。
引き抜くと、アンリは眉を顰め、目を閉じた。
がらがらとタワーが倒れた。
二人の前に立っている積み木の塔。
ジョシュアが引き抜いた途端に、大きな音を立てて崩れた。
ブロックタワーから一本ずつ交代に抜いて、一番上に積み上げる。
倒してしまった人が負け、というイギリス発祥のゲーム。
三連勝したアンリは、くすりと笑う。
「また僕の勝ちだね?」
「うん。強いなあ、アンリは」
「君が弱いんだよ。ねえ、この遊び、そろそろ止めない?」
「うん。次は何がいい?」
「決まっているでしょ? 僕が勝ったのだから」
「え?」
「僕の言うことを聞いて貰うよ?」
アイヴィーの自宅。
大皿で山程作った料理は、四人の男子生徒に拠って次々に空になっていった。
夕食後、レッドに無理に酒を飲まされたユウタは、すぐに顔を真っ赤にした。
騒いでいたレッドも酔いが回って眠ってしまった。
シルヴァンは寝室を覗く。
家主のベッドはまだ空いている。
その下に雑魚寝している友人達が三人。
テーブルの上には綺麗に畳まれた眼鏡。
ハルヤは部屋の隅で毛布に包まって、静かに眠っている。
部屋の中央には堂々と足を広げて、眠っているレッド。
その足は、ユウタのお腹の上に乗っかっていた。
ユウタの寝顔は若干苦しそうだ。
シルヴァンは声を立てないように笑って、静かにドアを閉めた。
リビングに戻って来ると、ソファに居るアイヴィーの隣に座る。
「皆さん、よく眠っていました」
「あっそ」
「アイヴィーも見てきます? 可愛い寝顔でしたよ?」
「見ねえよ。わざわざ見なくても、大体解るし」
「おや。問題発言ですね? ご説明願えます?」
「ばーか」
アイヴィーが息を吐くと、ゆるりと紫煙が昇る。
灰皿の上で、煙草を振る。
白い灰が落ちた。
「アイヴィー。僕にも一本くれませんか?」
胸ポケットから箱とライターを出して、手渡す。
「ありがとうございます」
シルヴァンは流れるような手付きで、火を付けた。
俺のキツイ煙草を、美味そうに吸っていた。
暫く二人は黙って、煙草を楽しんでいた。
その静寂は苦ではなく、心地の良いものだった。
なんだか、眠くなってきた。
腹がいっぱいだからかもしれないが、今日の場合は少し違うような気がした。
「お前さんは寝なくて良いのか?」
「ええ。僕、ダメなんですよ、こういう楽しい夜は」
「ダメって?」
「眠れなくなっちゃうんです。眠ってしまうのが勿体無くって」
シルヴァンも俺と同じ気持ちらしい。
こいつは、楽しい、とプラスの感情をストレートに表現できる奴だ。
年を取る度に、なかなかできなくなることだ。
「アイヴィーは眠らなくて良いんですか?」
「寝ようかと思ったけど。お前にもう少し付き合ってやるよ」
「…ねえ。アイヴィー。今度は、僕、一人で来ても良いですか?」
「んなこと聞くなよ。ダメだって言ったって来るんだろーが」
「ハイ。じゃ、今日は素直に寝ることにします。
あ、僕達の寝込み、襲わないで下さいね?」
「誰が襲うか」
突然、アイヴィーの頭が引き寄せられて、ほっぺで「ちゅっ」と音がした。
シルヴァンはイタズラが成功した子供の笑顔になる。
「楽しい夜をありがとうございました。今のはお礼です」
「お礼になるかよ。てゆうか、襲ってんのお前じゃん」
「すみません、つい♪ おやすみなさい、アイヴィー」
長い髪を跳ねさせて、寝室へと引き上げて行った。
リビングに残った大人は、独りごちた。
「マージナルプリンスどもめ」
今日の煙草は美味い。
紫煙は揺らめきながら、溶けていった。
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