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Marginal Prince Short Story
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■アンリの場合
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聖アルフォンソ学院 図書館。
アンリは席に着いて、一冊の古書を読んでいた。
学院が秘蔵していた、サン・ジェルマン伯爵が直筆したという書物だ。
200年程前のもので、紙は色褪せ、かなり痛んでいる。
しかし、伯爵が書いた文字はちゃんと残っていた。

優雅な文字。
字体に人柄が現れているような気がする。

伯爵の文字を、そうっと指でなぞる。
伯爵が書いた本。
貴方が生きていた証。
それに実際に触れることは、タロットを眺めるのと同じ、
もしくは、それ以上に心を落ち着かせるものだった。

アンリは自分の瞼に触れる。
この瞳。
常人のそれには映らないものを映す。
まがまがしいと父には蔑まれたけれど。
これは伯爵と同じ瞳。
伯爵が書いた本。
貴方が生きていた証は、
僕の存在を肯定してくれる気がした。

図書館に一人の生徒が入ってきた。
遠くて、顔立ちまでは見えないが、誰だか知れた。

やっぱり、見える。

僕は伯爵の瞳を持っている。
この瞳のおかげで、初めて会った時も、君が、君だと解った。

僕に気付いた彼は、微笑んでこちらに歩を進めた。
聖アルフォンソ学院の生徒代表殿だ。

「やあ。アンリも来ていたのか」
「うん」

ジョシュアはアンリの視線が自分の額に向いていることに気付く。
アンリの琥珀の瞳だけに映る月桂樹の王冠を見ているのだろう。
普通に話していても、時々この場所をちらと確認している時がある。
その程度ならジョシュアも何も言わないのだが、
こんなふうに、まじまじと見られると、こちらは少し居た堪れない。

「アンリ、そんなに見つめないでくれないか」
「どうしていけないの?」

アンリは意に介さず、額を見つめたままだ。

「そんなに額を凝視されると、なんだか照れてしまうし」
「僕は、額を見ているわけじゃない」

これほど輝かしい王冠なのに、何故本人にも見えないのだろう。
アンリにとっては王冠の存在を感じていないジョシュアの方が不思議だった。
尤もジョシュアが自分のことで見えていないのは、王冠だけではないが。

きらきらと輝く透明な光。
誰のものでもない、君だけの光だ。
ずっと其処にあるのに、
埃を被ることも、錆び付くこともない。
段々輝きが増している。
見ていると、浄化されてしまいそうなほど。
尊く、透き通っている。

手で触れることはできないけれど。
確かに、在る。
僕の傍に。

誰にも証明することのできない。
僕だけに見える、僕だけの光。
それも、悪くはない。

「どうしたんだい、アンリ?」

急に微笑したアンリに、ジョシュアは不思議そうに尋ねた。

アンリは掴めないと解っているのに、王冠に手を伸ばす。
手は王冠を擦り抜けて、彼の前髪に触れた。

「…アンリ?」

「今日も綺麗だね、君の王冠」


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