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Marginal Prince Short Story
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■ミハイルの場合
■ゲームベース
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聖アルフォンソ学院 情報処理室。
生徒達がインターネットを利用する場所。
13番目の個室では、PC画面にチェスボードが映っていた。
平面な市松模様に、白と黒の立体的な駒が配置されている。
モノクロな世界を見つめているのは金髪の小柄な生徒だった。
彼はネットチェスのゲーム中だった。
表情は真剣そのもので、寮生達には普段見せないような顔つきをしていた。

少年は酷く自分に自信のない子供だった。
冷たい家庭に育ち、幼い頃から自分の価値を見失っていた。
二人の兄は、父の前妻の子供だった。
上の兄は恐ろしく、下の兄からは「ミーシカ」と見下した卑称で呼ばれていた。
普通の家族であれば「ミーシャ」という愛称で呼ばれる筈だが、
何度も何度も卑称で呼ばれるうちに、
自分の名前は「ミーシカ」なのだと思えてきた。

ある日、近所に住むおじさんがチェスを教えてくれた。
ルールすら知らなかった子供はあっという間に強くなった。
少年がゲームで勝つと、おじさんは「すごいな、ミーシャ」と頭を撫でてくれた。
少しごつごつした、温かい手は、とても優しかった。
そんなふうに褒められたり、優しくして貰ったのは初めてで、
世の中にこんなに優しい人が居るんだ、と思った。
少年はおじさんに褒めて貰えるのが嬉しくて、どんどん強くなっていった。
そして少年は、たったひとつだけ、自信が持てるものを手に入れた。
自分はチェスだけは得意だと認識できるようになった。

13番目の個室では時折マウスをクリックする音しか聞こえなかった。
静かに、熱いゲームが進んでいく。

やがてマウスを持つ細い指が、自信に満ちた左クリックを放つ。
相手のキングが宙に浮かぶ。
画面には『CHECKMATE YOU WIN』と表示された。

画面下のチャットスペースに対戦相手からのメッセージが映る。

Blue Rose:参ったよ。流石だね、ローズバッド君。

金髪の少年は素早くキーを打つ。

Rose Bud:ううん。貴方も強かった。お相手ありがとうございました。
Blue Rose:どういたしまして。また僕と遊んでくれる?
Rose Bud:ほんと? 嬉しいな。
Blue Rose:では、来週のこの時間、また待っているね?
Rose Bud:うん。必ず来るよ。またね、ブルーローズさん。

金髪の少年は胸が温かくなるのを感じた。
とても強い人と知り会えたこと、また来週も会えること。
この世界の何処かに居る人と、秘密の約束をしたような気持ちになる。
少年はPCの電源を切って、嬉しそうに情報処理室を後にした。

その少し後に情報処理室から出て来た生徒が居た。
青い薔薇のような髪に、琥珀の瞳を持つ生徒だった。
ポケットに手を入れて、金髪の後姿を見つめている。
金髪の少年は擦れ違った他の生徒とぶつかった。
前方を見ていなかった相手が明らかに悪いのに、
金髪の少年はすぐに謝った。
その光景を見ている生徒は冷笑する。
あれが自分を打ち負かした最強最悪の対戦相手なのか。未だに信じ難い。
ポケットに手を入れたまま、ブルーローズは寮へと歩き出す。

「チェスボードの上では大胆に振舞えるのにね、ローズバッド君?」


fin
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