忍者ブログ
Marginal Prince Short Story
Admin  +   Write
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

■ソクーロフの場合
-------------------
聖アルフォンソ島 南西部。
まだ早朝と言える時間帯だった。
海岸沿いを一人歩いている男が居た。
名はスタニスラフ・ニコライエヴィッチ・ソクーロフと言う。
ロシア特有の名付けにより、当人の名前、父称、名字の順に並んでいる。
自らの名前を名乗る時、必ず父親の名前を呼ぶことになる。
それに抵抗を感じていたのはいつまでだったか。
今となっては、どうでも良いことと思えるが。
ああ、私は一生あの人間の子供なのだと思い知らされる瞬間でもあった。

ソクーロフは海の向こうにそびえる追憶の塔を見ていた。
アルフォンソ王が祖国に想いを馳せたと言われる場所。
海岸からあの塔を見ることは好きだった。
私には焦がれる祖国などないのだが。

幼い頃から、私は相手の思考を読み取る能力に長けていた。
そうして知ったことは山程あった。
医者である父と、自分が貴族出身であることだけが誇りの母。
彼等は己のことにしか興味のない人間だった。
私に対する興味が酷く薄いと、幼い私は知ってしまった。

彼等に好かれよう、彼等の望む息子であろう、と努めた時期もあった。
しかし、彼等は余りに自分しか見えていなかった。
私に何も望んでいなかった。それでは私の能力も使いようがない。
独り立ちできるようになった私は、
彼等から逃げるように、他国の大学院へと進んだ。
一人になった時の、充足感と虚無感は説明し難いものだった。

彼等にとって、自分は所有物のひとつ。
その上、もう興味のないモノでしかなかった。
それでも父と同じ医師の道へ進んだのは、
少しでも父を理解しようとした結果だったのかもしれない。

他人のことは解るくせに、自分のこととなると、
途端に靄(もや)が掛かったようで、視界が不鮮明になる。
自分の心理状態について考えようという気は起こらなかった。
常に興味のベクトルは、自分へではなく他人に向いていた。
まるで、彼等の仕打ちに反発でもしているかのように。
本当に私が知りたかったのは他人の心理だったのだろうか。

背後を取られた。
そう思った瞬間に、誰かの手に視界を遮られた。
身構えた瞬間、間抜けな声が聞こえてきた。

「だ~~れだっ?」

しかも大人の声だ。
呆れるほど実に楽しそうな口調だった。

「…何をしている、アイヴィー」

目隠しを解かれる。
大人は全開の笑顔で、口の端には煙草を銜えていた。

「あったり~。さっすがソクーロフ博士」
「貴様ほど幼稚な大人は、この島に一人しか居ないからな」
「幼稚じゃないぞ! 俺、煙草吸えるもん」
「関係ない。お前のような奴からは没収だ」

幼稚な口から煙草を抜き取り、自分の口に銜えた。
盗られた方は抗議するどころか、ただ驚くばかりだった。

「ソ、ソク…」
「間抜け面だぞ、いつも以上に」
ゆらゆらと白い煙が昇る。
「こんなイケメン捕まえて、何言ってんだよ!」
「自分で言うところが間が抜けていると言うんだ」
「にゃーにをー!? せっかく朝メシ作ったのにあげないぞっ!」
「また焦げたフレンチトーストだろう、どうせ」
「…す、少しくらい焦げてた方が美味しいもん…」
「素直に『失敗しました』と言え」
「これがウマイって言ってくれる奴も居るんだぞ!」
「お前に気を遣っているのではないのか」
「あいつらはウソ吐かないっ!」

アイヴィーの腕時計が光る。
複数の赤いランプが不法侵入者を捕捉していた。
出動要請だ。

紫煙を燻らす博士は、他人事とばかりに言い放つ。

「さっさと行け。仮にも責任者だろう、貴様は」

反論の余地がない正論だが、そのまま引き下がれるほど大人じゃなかった。
ソクーロフにびしっと指を差す。

「煙草、後で返せよ! 煙草ドロボー!」
「たかが1本で意地汚い奴だな。どうやって返して欲しいんだ?」
「ど、どうって…フツーでイイんですけど…」
「では考えておこう。ほら、早く行け」

尚も何かきゃんきゃん言いながら遠ざかっていく。
あれに辺境の島の平和が委ねられているのかと思うと時折心配になる。
それに年月を重ねるごとに言動が幼くなっている。
悪い傾向とは思えない、寧ろ。

ソクーロフはコテージへと踵を返す。
潮風に煽られた、長い髪を押さえる。

「さて。私は焦げた朝食にするか」


fin
PR
カレンダー
06 2026/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
ブログ内検索
キャラ名、CP名などで作品検索可
アーカイブ
カウンター
バーコード
material by bee  /  web*citron
忍者ブログ [PR]