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Marginal Prince Short Story
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■ジョシュアの場合
■ジョシュア×姉貴
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聖アルフォンソ学院 生徒代表室。
この島の中枢部と言っても過言ではない。
事実上、此処が聖アルフォンソ島の王室だった。

「こんにちは。ジョシュアだよ。今、話せるかな?」

王はレトロな受話器を手に持ち、ゆったりと座っている。
この部屋に備え付けの電話。
通信室の交換手を介さずに外部と繋がる唯一の電話だった。
友人の携帯電話を借りる方法もあるが、相手から掛かって来るのを待つだけは、
もう、足りなくなっていた。

「すまない、また電話をして。君の声が聞きたくて、此処に来てしまった。
 ・・・うん。生徒代表室から掛けているんだ、いけないのにね」

仕事の電話ではない為に、原則禁じられた行為だった。
王は禁止事項だと認識した上で、何度目かの電話を掛けていた。
その細微な罪を気に止めず、使用していた先代達の方が多いことを、
今年度の真面目な王は知る由もなかった。
相手はジョシュアを責めず、礼を述べた。
優しい声に少し救われた王は、この人の弟の話を持ちかけた。

「日本ではもうすぐ七夕だそうだね? 昨日ユウタから聞いたんだ」

だから余計に、この人の声が聞きたくなった。
七夕の伝説はジョシュアの胸に響くものだった。
『年に一度、七月七日にしか会えないんだ、可哀相だよね』
ユウタはそう話していた。ジョシュアは呟くように、海の先に居る人へ伝える。

「俺、羨ましかったんだ。織姫と彦星が」

遠くに居る優しい声は俺の耳許で、どうして、と尋ねる。
受話器を持つ手に、力が入ってしまう。

「だって、会えるんだよ? 一年に一度でも」

ジョシュアは椅子に背を預ける。
椅子は冷たく、ぬくもりなどなかった。

いつも、一番傍に居て欲しい人は、遠く離れた場所に居た。
想いを掛けるほど、自分から離れていく。
やがて、本当に会えなくなる。
幼い間にそれを二度経験し、以来、俺はひとりぼっちだ。
現在は俺には勿体無いような友人達に囲まれている。
だけど、何処かで一線を引いている罪悪感があった。
失った時を恐れて、事前に予防線を張っているのかもしれない。
友人の相談には喜んで応じるけれど、その逆は殆どなかった。

自分の全てを晒せる人、そんな大切な人ができて、
もし、失ってしまったら。

「誰かを大切に想う程、その人に会えなくなる気がして、怖いんだ」

そう思うと、自分についての発言は消極的になっていった。
特にマイナスな感情は、吐露しようとは思わなかった。
口に出しても、自己満足するだけで、相手には負担かもしれない。
自分のせいで、相手を傷付けることは一番許せないことだった。

七夕の話を聞いて、思ったこと。
それを貴女に伝えることで、貴女を困らせないだろうか。
昨日からずっとそればかり考えて、気が付けば受話器を耳に当てていた。

我侭だ。
こんなこと口に出したって、相手を困らせるだけだ。
母が家を出て、ボランティア活動をすると言われた時だって言わなかった。
子供心にも何かせずに居られない母が痛々しく、黙って見送った。
あんなに小さな頃でさえ、母が居ない邸で一人我慢できた言葉なのに。

俺はいつのまにか鎧を纏っていたのかもしれない。
周囲を傷付けないようにと自分に言い訳しながら、
大切な人を『また失うこと』に恐怖していた。

受話器の向こうから、心配するように自分の名前を呼ばれた。
ずうっと聞いていたい声。
まだ会ったこともないのに。
この声は俺の鎧を少しずつ溶かしてくれる。
誰にも言えなかった本音が零れて来る。不思議な人だ。
貴女がもう一度、俺の名前を呼ぶ。
その柔らかな声に、俺の口はゆっくりと動いた。

「会いたいよ。一年に一度でも良い。貴女に会いたい」


fin
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