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Marginal Prince Short Story
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■ハルヤの場合
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「ありがとう、ございましたっ」

春臣と春也は揃って深く頭を下げる。
日舞の稽古が終わる時には礼をする決まりだった。
じいさまが言うには『今日も踊れること』への礼なのだそうだ。
それは例えば、稽古場だったり、扇だったり、親や友達だったりする。
春也にはまだよく解らなかったが、いつもちゃんと礼はしていた。

稽古が終わった後。兄弟は近くのスーパーにアイスを買いに行った。
せがんだのは弟。アイスが特別好きなわけではない。
兄ともう少し一緒に居たかっただけだ。
稽古が終われば兄とは別の家へ帰ることになる。
まだ帰りたくなくて、何か理由を付けては傍に居たがった。
兄は弟に手を引かれて、スーパーへと向かった。

さして大きくないスーパーの入り口に、
何故これほどと思うくらい立派な笹があった。

そう言えば七夕は数日後だった。
既に黄色やオレンジなどのカラフルな短冊が飾られている。
笹の近くには、背の低いテーブルの上で短冊を書いている子供達が数名居た。
自由に願い事を書いて、飾ることが出来るようだ。
手を繋いでいる弟は、その光景をぼうっと見ていた。

「春也、書きたいのか?」

「うん。兄様も一緒に書こっ」

俺はいいよ、と言う前に手を引っ張られて、短冊まで渡された。
弟は幼いながらも鉛筆を握り締めて、何か綴っている。
兄は短冊を目の前にして、何を書けば良いのかとても迷っていた。
願い事。俺の願いは何だろうと。
小さな弟は、字を間違えたらしく、消しゴムで消していた。
すると、薄い紙の端がびりっと破れた。

「あっ、どうしよう…」

縁起が悪いとでも思ったのか、泣きそうな顔をする。
兄は弟の頭に手を置いて、もう一枚短冊を差し出した。

「ありがと、兄様」

一瞬で泣き顔から笑顔に変わる。
弟は新しい短冊へ慎重に慎重に願いを書いていた。
自分の願いごとが見つかった兄も、短冊に向かった。

和歌山の夏は夕方でも蒸し暑い。
素足の間を生暖かい風が通っていく。
だが、願い事を書いている間は暑さも気にならなかった。

「できたっ」

弟は間違えずに書けた短冊を自慢げに見せる。

「ぼくの短冊飾って。兄様のお隣にっ」


17歳になった弟が目を覚ます。知っている天井。
ウーティス寮の自室に居た。
カーテンには眩しい朝陽が集まっていた。
気持ち良く伸びをする。
夢で兄様に会えた朝は、いつもすっきり目覚めることができた。
あの短冊に俺は何て書いたんだろう。
兄様は何を願ったんだろう。
思い出せない。
胸にあたたかさを残して、夢の記憶がおぼろげに霧散していった。

ベッドから足を出す。
眼鏡を掛けていないので、視界はぼんやりとしていた。
足は自然と卓上カレンダーの傍に向かっていた。
『7』という数字に指を重ねる。

「もうすぐ七夕か」


fin
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