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Marginal Prince Short Story
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■シルヴァンの場合
■シルヴァンシナリオクリア者向け
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ウーティス寮 レッドの部屋。
今日の講義が終わった、夕食までのひととき。
部屋の主はベッドに寝そべりながら、雑誌を読んでいた。
手にしているのは定期購読の映画雑誌。
最近話題作に出演した自分の母親への過剰な賛辞が並んでいた。
うちじゃ、ただのヒステリックなおばさんなのに。
『高慢で高飛車な役を見事に演じきった知性溢れる実力派女優』って、
別に演技しなくても高飛車なんだっつの。
大きなグラビアで、『実力派女優』は『カメラ用』の微笑を見せていた。

「得な人だよなあ、ったく」

コンコン、と軽快にドアがノックされ、レッドは雑誌からひょいと顔を出した。
開いたドアからは長い髪が覗き、笑顔のシルヴァンが現れた。

「レッドー。カラス号、貸してくれません?」

雑誌をばさっとベッドに置く。
薄いページが折れて、母親の顔に皺が入った。ちょっといい気味。
身軽にベッドから上体を起こす。

「シルヴァン、俺のバイクにヘンな名前付けるなって言ってんだろ」
「可愛い名前だと思いますけどねえ」
「どこがだっ」

ベッドから起き出して、バイクのキーを取りに行く。
ジャケットのポケットからごそごそと出す。
手に馴染んだキーを持って、シルヴァンの前に立った時、
相手の笑顔がいつもと違うことに気付いた。

「いつもお借りしてすみませんね」

シルヴァンは手の平を上にして待っている。
その上にキーを乗せて、手ごと掴んだ。
予想しない行動に、シルヴァンは少し瞳を大きくした。

「どう、したんです?」
「平気か、お前。何かヘンだぞ」

珍しく神妙な声で言った。シルヴァンはふんわりと笑った。

「別に何もありませんけど?」

手を離さないまま、レッドは更に尋ねる。

「アイヴィーんちに行くのか?」
「…よく、解りましたね」

笑顔が少し苦い色に変わる。レッドは、やっと手を離した。

「なら、良い」
「そうですか? じゃ、いってきますね」

シルヴァンはキーを握って反対の手でドアを閉めた。
閉められたドアの内側で、レッドは舌打ちした。

何か秘密にされている。

前から感じてたことだった。
この月桂樹の館に来る者は自分のことについて語りたがらない。それは解ってる。
だけど、同じ寮で、一緒にバンドもやってて、ブライアンの幼馴染。
レッドにとって、シルヴァンは特別な友人だった。
会うべくしてあった奴だと思っている。
なのに俺をさしおいて、一人でアイヴィーを訪ねることが何度かあった。
そういう時、良くない笑顔をしてる場合がある。
貼り付けただけの、嘘っぱちの笑顔だ。
俺は役者なんだぞ。役者に見破れないとでも思ってるのか。
アイヴィーのことは好きだけど、自分ではなくアイヴィーを頼るのが悔しかった。
キーがない手を握り締める。

「…俺じゃ話せないのかよ」


シルヴァンはバイクに乗って、海沿いの広い道路を走行していた。
海に夕陽が落ちるのをバイクから見下ろす。潮風に長い髪が揺れていた。
何も考えなくても、慣れた最短順路を辿り、海のコテージに到着した。
バイクを止めて、キーを取る。メットを脱ぐと、涼しい外気に撫でられた。
1階のガレージから階段を上がっていく。
タン、タンタンと弾むようなリズムだった。

「アーイヴィー、遊びましょー」

期待していた嫌そうな声が返って来ない。
もう一度彼の名前を呼ぶが、顔を出さない。
全部の部屋を開けてみても誰も居なかった。
突然来た方が悪いのは明白だが、置き去りにされたような感覚に陥る。
シルヴァンは広いリビングで、ぺたんと座った。

アイヴィーが帰宅したのはそれから数時間後。
不法侵入者へのインタビューを見学してたら、夜遅くになってた。
ガレージに愛車を停める。
脇にレッドのバイクがあった。

「俺んちにも不法侵入者が居るみたいだな」

指に引っ掛けたキーを回しながら、階段を昇る。
メシは食べてきたし、後は眠るだけだった。
リビングに入ると、床に横たわった足が二本見えた。
ゆっくりと近付いてみる。足は長い肢体に繋がっていた。
長髪も無造作に散らしている。
テーブルの上には缶ビールが数本と秘蔵の高級ワイン。
どれも空になって転がっていた。
なんかイイコトあった日に飲もうと思ってたヤツなのに。
寝顔の前でしゃがむ。ほっぺを人差し指で突く。

「なーにしてくれてんだ、お前は」

声に反応したように菫色の目が開いた。
少し目をこすって、アイヴィーを認識すると、綺麗に笑った。

「あ、おかえりなさい、アイヴィー。貴方を待ってたんですよ?」
「酔い潰れて寝てたくせに」

シルヴァンはのろのろと起き上がる。
ぺたりと床に座ったまま、アイヴィーを見上げる。

「アイヴィーが遅いからですよ。何してたんです? こんな時間まで」
「オシゴト」
「綺麗な方と一緒だったんじゃないですか?」
「ちげーよ。それよりお前は何しに来たんだよ?」

シルヴァンは何か言おうとして、口を噤んだ。
空っぽの酒瓶を見ながら、にこやかに笑ってみせる。

「んー。忘れちゃいました。お酒のせいですかね?」

アイヴィーは暫くその笑顔を見つめていた。
菫色の瞳は何も気付かないフリをして、こちらを見つめ返した。
嘘吐きの頭に手を置いて、アイヴィーは立ち上がった。

「そーかよ。んじゃ、兎に角、其処の空き缶片付けろよ、エルリック」

アイヴィーはキッチンへと向かう。冷蔵庫を開けて、缶ビールを取り出す。
栓を開けるとプシュッとイイ音がした。
リビングでは座り込んでいるシルヴァンが、俯いたまま立ち上がった。
長い髪で隠れた横顔はこの日初めて、本当に笑う。
エルリックと呼ばれた男は小さな声で、返事をした。

「…はい」


fin
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